第17話 再会


「うっ、さぶい・・・」


着物の上からジャンバーを着て外掃除をする季節となった。大学時代に勢いで買ってしまったオレンジ色のジャンバー。寒さを凌ぐには十分だったのが、その色を日常的に着るのが恥ずかしくなりクローゼットで眠っていた。ここに来て役に立つとは思いもしなかった。


「おはようゴザイます!」


「ジャック君。おはよう!」


部屋掃除のみを手伝っていたジャックだが、近頃の忙しさの影響で朝食の準備から来るようになった。


「タケさん。コレ見て下さい!」


「今度は何ですか?」


ジャックのスマホの画面を見てみる。


————-

〈おっちゃんの全国旅館めぐり〉

タイトル:記念すべき”100”


どうも、どこかのおっちゃんです!

今回はなんと・・・

記念すべき100個目の旅館に行ってきました!

立地・・・よし!

食事・・・うまし!

温泉・・・きもちいい!


そして、、、

この旅館の一番のポイントは・・・スタッフです!!!

見知らぬ私の取材を受けてくださり、色々聞くことができました。

教えたいですけど、ぜひ行って自分で感じてくださいね笑


これ見てください。

竹箒を掲げているスタッフ笑

朝から元気いっぱいで、こちらも元気をもらいました。

※本人には許可もらいましたよ笑

また行きますね。みなさんもぜひ行ってみてください!!!


さて次はどこに行きましょうかね。そうだな〜。

そろそろ妻に怒られるからやめとくか笑

また次回もよろしくお願いします!!!

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思い出した。例のカメラマンの人が帰り際に取材内容や写真をインターネットに挙げてもいいですかということを言われていた。

ワタシの外掃除の様子も「ぜひ載せてくださいね」と言った。普通なら恥ずかしいのだが、さすが技術のある人は違う。ただ竹箒を掲げている姿をものすごくカッコよく撮影してくれていた。


「この前のお客様だね」


「この方、そこそこのインフルエンサーの方みたいです!」


「えっそうなの?」


冬になるとお客様が増えることはいつものことと聞いていたが、近頃の忙しさは先日のカメラマンの方の影響もあったのかもしれないと思う。


「よし今日もがんばろう!」


「All right.」


朝から良いニュースを聞いた。カメラマンの方ありがとう!


—————


「インフルエンサーだったみたいです。ダーネスさん」


部屋の掃除をしながら、ダーネスさんに朝のニュースについて話した。ダーネスさんとはサイトウおばちゃん(B)のことである。今テレビで話題となっているダークネスサイトウという女芸人をおばちゃんの息子が見て「この人お母さんみたいだね」と言われたらしい。言われた次の日には「私は今日からダーネスよ」とみんなの前で宣言していた。


「インフルエンザ??そろそろ予防接種行かないとね・・・」


「インフルエンサーです!影響力のある人ってことですよ」


「何よ。それならそう言えばいいじゃない。最近の言葉は難しいわ〜。ダークネスサイトウも何言ってるかわからないもん」


「よし残り一部屋ですね。行きましょう」


働き始めてもうそろそろ一年が経とうとしている。各仕事のスピードや精度もあがり、大方のことはできるようになってきたと思っている。おじいちゃんからは、次は料理でもしてみるかと言われた。おじいちゃんが言うと冗談かどうかわからないため、変な空気になったのはつい先日のことである。


「さて休憩しましょう」


「今日の担当は誰ですか?」


部屋の掃除を終えて昼食までの時間に”ティータイム”を最近は設けている。仕事に慣れてきたワタシが提案をした。

お茶とその日の担当がお菓子を持ってくるようにしている。今日はダーネスさんの担当だ。


「寒い時期の熱いお茶は効きますね」


「女将の淹れるお茶はおいしいです。あとダーネスさんのお菓子も」


料理はいまいちの女将だが、お茶を淹れるのは旅館一の腕前だ。お茶ぐらい誰が淹れても変わらないだろうと思ったため、一度ワタシと対決をしたのだが、惨敗した。味見をしてくれたスタッフ全員が女将の淹れたお茶に投票した。


「・・・いま〜」


誰かの声が玄関の方から聞こえる。


「えっ!?」


休憩室にいたみんなで顔を合わせる。まだお客様がいらっしゃる時間帯ではない。急いで着物を整えみんなで玄関に向かう。


「ただいま〜〜」


そこにいた人物を見て、女将とワタシはため息を零した。


「何しにきたの?」


「見てわかるでしょ。帰ってきたの」


「久しぶり。タケル!」


帰ってきたのは、母と妹であった。妹はワタシとは年齢が3歳違い大学に通っている。


「は〜。で、何しに来たの?手伝いにでもきたの?」


「はっそんな訳ないでしょ。今日はここ予約してんの」


「はいっ!?」


本日いらっしゃるお客様名簿を見てみるが、ワタシの知る名前はない。「やったな」と母親の方を見ると、満面の笑みでこちらを見ていた。妹については、ダークネスサイトウの芸であるDマークを両手で作っていた。

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