第5話 湯けむりを目指して

「いってきま〜す。おじいちゃん」


「気をつけて行ってくるんだよ」


外出する際は正面玄関ではなく、裏口から出る。調理室が近いため、いつも一言言って外出するようにしている。調理室では、おじいちゃんとケンさんが夕食の準備をしていた。


「タケ坊。まっすぐ帰ってこいよ。今日も満室なんだからな」


「かしこまり〜」


『イタヤ旅館』と書いた手提げバッグを持ち、外に出る。買い物は旅館近くのお店に行く。旅館がオープンして以来お世話になっているお店がほとんだ。


「さて、散歩タイムだな」


誰にも聞かれてないと思って呟いたが、裏口近くでジャックがまだ休憩していたみたいで、こちらを向いていた。


「イッテラッシャイ!」


「うん。いってきます。ジャックもまた明日もお願いね」


「OK〜」


旅館から少し歩くと、いつもの景色が見えてきた。

モクモクと上がっている”湯けむり”のことだ。


その湯けむりを目指せばお店につく。

こちらに来た時に「湯けむりを目指せば何かがあるよ〜」

とサイトウおばちゃん(B)が教えてくれた。確かにお店や温泉、飲食店などがあり、いつも観光客でいっぱいの通りとなっている。


この通りは”坂道”となっており、道の両脇にはお店、側溝からは湯気が出ている。ワタシはその湯気をあえて通り抜けていく。あの決して良い匂いとは言えない”硫黄”の匂いを嗅ぐことが習慣となっているのだ。そんな気持ち悪いことを続けているといつも目的のお店にたどりついている。


「いらっしゃい! おっタケル!」


「おじちゃん、いつものお酒をお願いします」


「はいよ!」


「そろそろ仕事は慣れたか?」


「いえ、まだまだ覚えることが多そうです」


「期待してるぜ。女将さんに鍛えてもらいな。」


「頑張ります。奥さんにもよろしくお伝えください」


「おう、毎度!」


酒屋のタナカ夫妻含め、旅館と関係のあるお店の人は、ワタシのことを幼い頃から知っている。何度か旅館に遊び来た際に、おばあちゃんの買い物に一緒に行っていたからである。


女将からもらった買い物リストを確認する。


「お酒よし。あとは食材を少し買って終わりかな」


買い物を終えて、パンパンに膨れたイタヤバッグを持ち、また湯気が上がっている道を通って、旅館に戻っていく。

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