第9話 再び湯けむりを目指して


「みなさ〜ん。こちらで〜す。浴衣とタオルはお持ちですか?」


お客様は着替えの浴衣とタオル、そしてワタシが印刷してきた温泉地図を持ち、旅館の玄関に集まっている。


「それでは出発します」


外出用の下駄を履き、外に出る。


「色々と言うことはあるけれど、とりあえず気をつけて行っておいで。しっかりと案内するんだよ」


「はい、しっかりと案内します。それでは女将いってきます」


温泉へはワタシのみで案内することになった。

サイトウコンビは夕食の片付けを行ってくれている。


「ここから見えるあの湯けむりを目指します。2〜3分で着くと思いますので、ゆっくりと向かいましょう」


「は〜い!」


子どもたちが元気な挨拶をしてくれた。


「どこに行こうか?」


「いくつも行ってみる?」


「ここ良さそうじゃない?」


歩きながらお客様がワタシの地図を見て会話をしている。

まさかワタシの趣味でつくっていたのものが役に立つとは思いもしなかった。


「仲居さん、どれがおすすめなんですか?」


温泉を楽しみにしてくれていたアベ様だ。


「え〜とですね。こちらの温泉が露天風呂もあって寛げると思います」


「なるほど、仲居さんがおすすめするなら、そこに行ってみようかね」


「ありがとうございます」


下駄の音がコツコツと響き渡る。いい音だ。お客様のわくわくしている会話と心地良い下駄の音に浸っていると、あっという間に目的地である坂道に到着した。


「ここからは好きな温泉を選んで頂き、ゆっくりとおくつろぎ下さい。今回入浴料は無料となっていますので、その点はお気になさらずに」


ワタシが思いつきの行動をしてすぐに女将が地元の関係者に連絡を行ってくれた。色々と考えずに行動してしまったことは本当に反省しないといけない。


「私はこの付近にいますので、何かあればお申し付けください。それでは行ってらっしゃいませ」


お客様が温泉に向かっていくのを確認して、近くにあったベンチに座り、空を眺める。今日は本当に良い天気だ。天気が良くないと湯けむりは見えていなかった。この作戦も思いつかなかったかもしれない。


「ありがとう・・・」


天気が良かったこと、良いお客様であったこと、女将の助けがあったことなど諸々に感謝だ。空を見ながら呟いた。


—————


一時間ぐらい経ち、お客様も続々と温泉から戻ってきた。

浴衣に着替えており、この坂道を歩いている姿は様になる。


「温泉はいかがでしたか?私はお客様全員が戻られるまでここにいますので、ゆっくりと旅館の方にお戻りくださいませ」


「良い温泉だったよ。ありがとね」


最後のお客様が旅館へと戻っていったのを確認して、ワタシも旅館へと戻った。


時計 21:00 を示していた。


「ただいま〜」


「おかえり。タケ、夕食にしようかね」


「は〜い。おじいちゃん今日は何をつくってくれたの?」


「今日はケンがつくった料理で・・・」


仕事を一通り終えて、本日3度目のおいしい食事についた。

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