第14話 怪しい宝石とネコ耳

体感的にパールザニアへは、すぐ差がついた気がした。行きより帰りの方が短く感じる事があるが、俗に言うリターントリップエフェクトと言う物だろうか。


 馬車からよっこらと降り、肌を思いきり焼いてきそうな程に強烈な直射日光を直に浴びる。


 休日や連休は極力家に引きこもって守り抜いた俺の純白の肌が、一瞬で国籍詐称を疑われる程には黒くなりそうだ。


 と、ギリギリでアウトな事を思いつつも、先頭を進むレイグさんの後についていく。


「ではダンジョンへ向かいたい所ですが、パーティの登録がまだでしたね、登録をしないとダンジョンに入れない事をすっかり忘れていました」


 パーティ登録か、成る程それをしなければダンジョンの中へ入らないと、うんうん定番の流れだな。


「私が登録をしてくるので、二人の身分書を渡して下さい」


 レイグさんが俺達の前に手を出して渡すのを促すので、俺は素早くポケットから身分書を取り出して渡すと、それに続いてゼスティも渡す。


「では、ギルドで登録を済ましていくので、暇でも潰していて下さい」


 そう言うと、レイグさんはギルドのある方へ向かい、消えていってしまった。


「なあ蒼河、あのアクセサリー屋にでも行かないか」


 ゼスティが指を指している方向に顔を向けると、真横に位置していたのは、派手なピンクの装飾を施した、バカの、バカによる、バカの為のバカっぽい店だった。


「え?俺涼しい所で休みたいんですけど……」


「はぁ〜、そんなんだからいつまでたってもダメなんだぞ」


 ゼスティが日陰に向かおうとする俺に向かい、腕を組み、胸を下から持ち上げながら嘆息する。


「ダメッ?俺そんなダメッ!?具体的に例を挙げなさい!」


 たった数日間しか一緒に過ごしていない人に性格悪いなんて言われた事が無いので、思わずにたじろぐいでしまうが、負けじと別れを告げられた女の如く、自分の何が悪かったのかを執念に聞くと。


「例って言うか全部駄目だろ!性格も良くはないし、利己的に動くしで、でもいい所を一つ挙げるなら、私を助ける為に決闘を受けてくれたことだな……」


 最後だけ褒めてくれる所に、非常にポイントが高いなと思いつつ、照れ隠しで顔を右手で覆い、目だけを出して言う。


「そこまで見抜くなんて、貴様炯眼の持ち主か?」


「ああ、決闘を引き受けたときのセリフは最悪だったが、それを感じさせない程に威風堂々と言っていて、まるで私がお姫様になった気分だったぞ」


 何でそれをモジモジしながら言うの!?実に甘い『ふいんき』だ、激しい動揺から俺とした事が『ふんいき』を『ふいんき』と間違えてしまう。新卒社会人並みのミスをするくらい俺は動揺していた。


「そ、そうか、じゃ、行くかそこの店」


「ふふっ、ふっふふ!蒼河はちょろいなぁ〜、そこが駄目所の一つでもあるぞ」


 ゼスティはまるで悪役の様な笑い方をする。


「クッ、俺の甘酸っぱい気持ちを返せ!畜生!」


「ほら、店に行くんだろ?」


 数歩進んだ所でゼスティがこっちを振り返り、悪戯な笑みを浮かべる。


「分かった分かったよ、どうせ暇だしな、付き添いも兼ねて行ってやるよ」


「でも、王子様に見えたのは本当だぞ?」


 と、俺の方へ踵を返して俯きながら言われたが、もう騙されないとばかりに手で払うと、その足で店に向かう。


「そんな所で突っ立ってると邪魔でしてよ?お姫様」


 俺が先行して店に入って行くと、ゼスティが俺の後ろを追いかけて続けて店に入る。目に悪そうな明るいピンクが正面に広がり、アフロにサングラスの地雷臭のする店員が出迎えてくれると。


「お嬢さん、君が一万人目のお客様だぜ!そんな特別な君にはこれを贈呈しよう!」


 店員の手のひらには紫色の禍々しい瘴気を放つ宝石がちょこんと置かれており、それを俺達に向かい差し出してくる。


「本当か!?ではそれ頂くぞ」


 ゼスティは何の躊躇も無く、それに手を伸ばして掴もうとするが。


「チョイ、まてィ!」


 ゼスティの伸ばした手を阻止すると、探偵が犯人にするようにして、ピッと指を立て店員を指差す。


「怪しい、それ呪われたりするんじゃないだろうな?」


 怪しい店に、怪しい店員に、怪しい宝石に、そしてトドメにタイミングが良すぎる1万人目来店記念。黒ですね間違い無い。


「呪い?そんな事ある訳ないぜ、これは正真正銘運を上げるアクセサリーだぜ」


 ホープダイヤモンドとかその類のオーラをビンビンに感じるんだが。


「そうそう、無料だし貰っておいて損は無いはずだぞ」


 確かに無料より良い物は無いよな、何かあれば他の誰かに高額で売ればいい話なので、貰っておいた方がいいのかもしれない。


「うむ〜、そう言うなら、観賞用で店に置いとくか」


「それじゃ、出てってくれ」


 ゼスティがウキウキしながら禍々しい宝石を受け取ると、店員は用無しと言わんばかりに俺達を店から追い出す。


「何なんだよ、あの態度は!」  


 店の外の猛烈な炎天下の中、俺は愚痴を溢すが、そんな俺とは反対的にゼスティは心を躍らせていた。


「でも本当にキレイだぞ、でもどこか懐かしい感じがするんだよなこの宝石」


 そうしてゼスティが太陽に宝石を伸ばすと、宝石の中を光が屈折して伸び、地面に奇妙な文字が浮かび上がる。


「おいッ!今すぐそれをやめろ!」


 咄嗟に宝石を照らすのをやめさせると、誰にも見られていないか周りに注意を配る。


「どうしてだ?キレイだったのに」


 あの現象に気が付いたのは俺1人だけらしく、こちらを伺う目は無い。


 失われた古代文明の謎や、歴史から抹消された王の財宝の場所が知らされていそうだが、考古学者でも特段金欠でも無いので特別に興味は無い。


 幸い周囲の人々には見られてはいないが、肝心の文字は教科書で見た古代文字の様に意味不明で、解読が不可能だった。


「お待たせしました、パーティ登録できましたよ」


 レイグさんの声が聞こえ、俺達はその方向へ視線を移すと。ゼスティは手の中にあった宝石を奪うと、ポケットの中にしまう。


「では改めてダンジョンへ向かうか」


 俺がボソッと口にすると、街の入り口から伸びる一本道を進み、ダンジョンへ向かう。




 レンガの建物が無数にある街に場違いな宮殿が激しい威圧感を放ちながら設置されていた。


「着きました、ダンジョンです。では早速入りましょうか」


 短く無駄に広い階段を登って建物内に入ると、受付らしき場所に待機した女性がいたが、格好がウサ耳にメイド服でダンジョンと言う物に相応しくなかったが、俺の性へk。


 その奥には、喫茶店の様な物が設けてあり、彼女と同じ様で多種多様なメイドさんが、冒険者らしき屈強な男達の接客をしていた。


 死と隣合わせのダンジョンと、喫茶店。実には似合いな構造だが、凄い依頼をこなしたら可愛いメイドさんが直ぐに褒めてくれるので、そう悪くも無いのかもしれない。


「お帰りなさい冒険者様!ダンジョンですか?それとも私ですか?」


「ええ、ですが初回なので初心者用の所へお願いします」


「初回という事で、軽くご説明をしていきますね!まず、ダンジョンは五つの難易度に分かれています。


 初心者さんが挑戦する『烈炎の壱』


 中級冒険者さんが挑戦する『水郷の弐』


 上級冒険者さんが挑戦する『陰翳の参』


 プロの冒険者さんが挑戦する『黎明の肆』


 そして自殺志願者さんが挑戦する『雲霓の伍』


 皆さんも全体の一%にも満たないプロの冒険者目指して頑張って下さい!あとドロップアイテムも回収もわすれずにね!それで皆さんがまず挑戦するのは一番簡単な壱ですが、舐めてかかったら普通に死ぬので油断はしないで下さい!それでは地獄へいってらっしゃい!」


 凄い長い説明の後、レイグさんが淡白に告げる。


「行きますか」


 洞窟の様な内壁の通路を道なりに進むと、地下へ続く階段が五つに枝分かれしていた。


 一つは激しい熱気を伝播させ、


 一つは息苦しくなる程に湿気が酷く、


 一つは激しい闇に覆われ、


 一つは眩い光を放ち、


 一つは変哲のない洞窟だ。


「またこんな暑い所へ行くのか」


 地下へ続く窮屈な階段を進むと、サウナにいるようにムワットした空気に変わり、息苦しくなっていく。


「もしかして、常時こんな感じで魔物と戦わなきゃいけないんですか」


 俺は早速額の汗を手の甲で拭いながら言う。


「そうですね、戦闘もあるので最初の内は何度か死にかけるとおもいますよ」


 サラッとエグい事を言うレイグさんと、直に貶してくるゼスティ。


「こんな事で根をあげるとは蒼河もまだまだだなぁ〜」


「ほえーそぉーですか」


 と、畏怖の感情を抱きながら階段を下ると、松明で不気味に照らされた洞窟が広がる。


「今日は随分と冒険者が少ないな」


 ゼスティがボケーっとした口調で言うが、確かに俺達以外の奴らが少ないと言うか、いない様な気がする。


 奥へ進む程に道が広がり、壁に触れながら注意深く歩くが、瞬間的に壁から手を離してしまう。


「ガッァァァヂヂィィィィィィィィィ!!」


 壁が凄く熱かったです。


「う、うるさい、蒼河!」


「す、すまん!許してくれ!」


 手をフーフーしながら言うが、それが逆に痛む。


「皆さん騒がせの所すみませんが、魔物が正面から来ていますよ」


 正面を見据えると、鎌の様な物を両手に構えた昆虫型の魔物が一匹いた。


「まずは、お手本です」


 レイグさんは素手で魔物に近づき、素手で鋭利な鎌を受け止め、腹部を殴って衝撃波の様な物を食らわすと、魔物は回転しながら灰に帰り、鎌の刃の部分が軽い音と共に地面に落ちる。


 レイグさんはドロップしたそれを拾い上げると、それを誇示する。


「とまぁこんな感じですね」


「いや、出来るかァッ!」


 今の一連の流れを見た俺の情けない声が洞窟内に木霊したのであった。

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