第13話 キツイ修行?


 俺の体が、まるで見えない何かに引っ張られる様に、激しい速度を有しながら、後方にあった木に叩きつけられる。


 木の軋む音と、体が叩きつかられる鈍い音、そして俺の声が重なり、折角の自然の美しさ風景が台無しだ。


「ガハッッ!!」


 今の衝撃で実っていたリンゴが落下し、その内の数個が俺の脳天を叩く。


「すみません!久しぶりだった物で手加減が上手くいかなくて……」


「いえ、全然大丈夫です」


 痛む首をさすり、生まれたての小鹿の様な不安を煽る動きで起き上がると、冷たい空気で肺の中を満たし、深い深呼吸をする。


「そうですか、それでは続けましょう、と言いたい所ですが、このままでは埒が空かないので、私に触れたら基本の体術の稽古は合格にしましょう」


 今さっきの動きに反応出来なかった事に、期待値がだいぶ下げられた様な気がするが、俺にとっては楽になってくれた方が嬉しいと思うが、そんな事ではいつまで経っても成長する事が出来ないだろう。


「了解です、その位直ぐに終わらせますよ!」


 再びレイグさんと対峙し、一方的に距離を詰めて、昔やったゲームと同じ戦法を試してみる。


 そして右足で力強く地面を踏み、手が届く間合いへ一気に踏み込むと、そのままの勢いで体を右に逸らし、左手を伸ばし触れると思わせてからのフェイントで、右手でレイグさんの足元に手を伸ばすが、その勢い余って、顔面から地面に墜落してしって乾いた土が舞い、独特の臭いが充満している。


「つ、次だ!まだまだ終わってないですよ!」


 自分の頬を両手で叩き喝を入れると、自分の頬から砂がパラパラと落ちる。


 そして体力が回復し終わると、牛のような突進でレイグさんに飛び込む。  


 パッと見て正面から突っ込むと見せかけて右にくるだろと思わさせ、正直なら真っ直ぐ突っ込むが。


「先程のは見事でした」


 その言葉が聞こえ、俺はその場に立ち尽くす。


「え?どうしました?もしかして手が届いてました!?」


「ええ、私の足首を指先が触れていましたよ」


 自分では全く気がつかなかったが、レイグさんが言うのならそうだろう。


 まさか昔やったゲームがこんな所で役に立つとは思いもしなかったな。


「ふふ、蒼河さん見事です」


「ど、どうも、次は応用的な奴ですか?」


 応用と言っても、今ので何も得られた気がしないのは何故だろうか。


 嬉しい筈なのだが、あまり成し遂げた達成感が無いのは何故か考えたが、単純に苦戦をしていないからだろうなと結論が直ぐに出た。


「こんなのは序盤ですよ、この後少し休んだ後にダンジョンへ行きますよ」


 と、言いながら俺に触れられたであろう場所をパッパッと手で払うが、割と傷つくよねそういうの、その理論で言うと手に蒼河菌が付着したままだが大丈夫なのだろうか?


 ダンジョン?相手が人なのに魔物を相手にして戦うのか……動く物を相手にする事が重要なのか分からないが、指示に従う事にしよう。


「俺魔物と戦った事が無いんですけど、ダンジョンって行っても大丈夫なんですかね?」


 余り乗り気では無い俺を見兼ね、頼もしい事を言ってくれる。


「大丈夫です、私がいる限り、万が一って事にはなりませんよ。あと蒼河さんは隠密以外が非常に低いのでそれを高める為にという目的があります」


「何で知ってるんですッ!?やっぱり動きとかから分かる物なんですか?」


「やはり正解でしたか。間合いを縮めて相手に攻撃を仕掛ける所まではいいんですが、肝心の攻撃が非常にチープな物になっており、あと少しの攻撃でダウンしてしまうので、隠密が他の能力の低さで殺されているんです」


 確かに。隠密で背後に移動したとしても、力が低いので攻撃が通らないし、最悪そこで反撃を食い防御も低く大きな傷を背負い、場所もバレてしまい隠密も使い物では無くなってしまう。そして一気に不利な状況になってしまう。


「俺ダンジョンに行きます!」


 自分磨きを込め、返事と共に首肯をする。


「はい、決まりですね、それでは……」


「おーい二人共!」


 凄い声量によりレイグさんの話が途切れる。そして声の方向を見ると、ゼスティが手を振りながら走って来ていた。


「あ〜疲れた〜、パルメしつこかったぞ」


「あれ?家でゴロゴロしてんじゃ無かったのか?」


「家に居てもやる事が無いし、気分が悪いから気分転換に外へ出たら店の前で鉢合わせてな……」


「タイミングが良すぎるな、外に繋がる窓から監視されてんじゃねーの?」


 何気なく言った言葉がゼスティには心あたりがあるようで『そうかもしれない』と噛むように呟く。


「え!?マジで?怖!」


「最近は一人で部屋にいる時、常に誰かから見られているような感じがするんだ……ベッドの下から、クローゼットの隙間から、仰向けになった時の天井から、目蓋を閉じた時に真横から、とにかく至る所から舐め回す様な視線を感じるんだ」


「何それ怖いッ!!やめて!!」


 テンプレな展開だが、何度も刷られているだけあって普通に気色が悪い。


「今はこれだけだが、今後もっと増えていくかもしれない」


「で、話が変な方向にズレたけど、何しに来たんだ?」


 盛大に路線変更をした話を強引に本筋へ戻す。


「私もダンジョンに行く!!」


 大きな胸をグッと張り、地面に足を縫い付け告げる。


「なら魔法見せてくれよ!俺ジルの奴しか見た事ないんだ」


「そうか、容易い御用だ!いいだろお爺ちゃん!」


「元々連れてくる予定だったらかな、手間が省けた」


「よしッ!私がついて行ってやる、感謝しろよ蒼河!」


 お前のせいでこんな事をしてるんだよと言いたいが、そんな無粋な言葉を浴びせる訳にはいかないので、それをそっと呑み込む。


「じゃあ、ダンジョンに行く為にパールザニアへ帰るか」


 レイグさんが騎手の馬車に、俺は慣れた調子で乗るが、一つ素朴な疑問な事がある。


「てかさお前どうやって来たの?ここ結構な辺境の地だけど」


「走って来た」


「へぇ〜そりゃ凄いな」


「凄いだろ!」


「うん、凄いわ」

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