第11話 勘違いと占い師
偽貨幣の話や、ナンバーワン冒険者と便利屋が協力をして魔王軍幹部を撃破した事が、一夜にして広まり、俺がやんわりと誘いを断った事に気づいていないジルは、納得していない様子で、まだ諦めないと言われた。
ジルとのやり取りも、多くの人に聞かれていたので、俺達は今ナンバーワン冒険者に協力を懇願される便利屋という立ち位置に俺はいた。
レイグさんには一連の事を端的に話したが、どうしようも無かった事なので許してはくれた。
そして色々とあり、今俺はゼスティと服屋に来ている。
一昨日来た服屋の反対側に位置した婦人服を取り扱った服屋だ、正面の服屋はというと、パールザニアの騎士団員数人で念入りに調査をしており、例の女性騎士が指揮を取っていた。
ちなみに店長のグレフは徒歩で逃亡を図ったが、自分で無謀だと悟り、大人しく出頭したらしく、今は牢獄で判決を待っているらしい。
ゼスティの着ているドレスが、あの出来事で土で汚れたり、擦れたりで、買い替え必須の状態になっているので、店の服を見ていると。
「これどうだ!」
俺の前に、肩の部分が大きく空いた赤いワンピースと、羽織る用の水色のジャケットを持ってくる。
「ん、いんじゃね?」
人の買い物に付き合うのを余り好かない俺なので、長引かないように会話を適当に流す。
「じゃ、これにするぞ」
俺は店の出入り口の前に移動し、不穏な流れ方をする雲を眺める。
ありゃ雨降るな、今日は仕事も無いので、早い所帰りたい所だが。
例の噂のせいで、掃除とかの逆に依頼が減ってしまったので、俺は今半ニート状態だ。
手早く会計を済ませたのか、ゼスティがこっちに向かって走ってきたので、出口へ体を向けると。
「まずい、お金が足りないッ!」
いやそんな事あるのか!?と思いつつ、貸を作る機会なので清く受けとめる。
「俺が代わり払ってやろう、あとで倍にして返せよな」
店員のお姉さんの前に移動し、手早くポケットから財布を取り出し、福沢さんを渡し決めゼリフを言う。
「お釣りはいらない」
タクシーでよく見る奴をやってみるが無反応だった。
「えっと、あの、お客様パルセでお願いします」
ここが日本だったら、かっこいい男を演出する事が出来ただろうが、残念ながらここは異世界なので、変なおっさんがプリントされた紙を金だと思っている精神異常者で処理されてしまう。
てか、こんな服1式を買ったら1万で済まなそうなので、日本でも同じ反応をされそうだが。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、便利屋の方ですか?」
俺の顔を見てそんな事を言うので、正直に答える。
「あーはい、そうです」
「魔王軍幹部を倒して下さって有り難うございます!」
本当に凄いな、ネットも無いのに噂が一夜にして広がっていってる。
嬉しいと思う側面もあるが、それは幹部の撃破に協力した俺の顔が割れているという事でもあるので、あの時の様に夜道で背中を刺される可能性もある。
「いえいえ、俺達はジルさんの手助けをしただけなんで」
「撃破に立ち会ったのは事実です!あと、お金はいりませんので、そちら差し上げます!」
会計の為、机に乗せられた服を指差して言う。
「では、お言葉に甘えます」
常に甘えた生き方をしていた俺なので、当然これには超スピードで返答をした。
「では、そこの更衣室を使用して下さい」
ワンピースとジャケットをゼスティに手渡すと、店の端に設置された小さな更衣室に入った。
「おい、これってどうやって着るんだ?」
「はい、今向かいます」
店員が更衣室の中に入ると、女性同士のピンク色の声が聞こえてくる。
「んあッ!ど、どこ、触ってんだ!」
「す、すみません!」
「アッ、締まりがッ、キツイ!ちょ、ちょッそこ痛いぞ!」
俺は鈍感系ではないので、布をバサッとめくり『おい!大丈夫か!ゼスティ!!ッて何だその格好!!』『キャー蒼河の変態!!』からの『ゴメンなさい!』とテンプレ展開には踏み込まない。俺レベルになると、使用用途が無くなったスマホの録音機能を使い、今のを録音するくらいだ、もしかしたら何かに使えるかもしれない。
「蒼河た、すけ、て、くれぇ」
あれ?やっと絞り出した様な声だったので、本当に中で店員に首を絞められてるとか無いよな?
こんな所でウジウジして、もしもそんな事があったらレイグさんに顔向けが出来ない。
前言撤回で俺は、テンプレ主人公道を歩み、思い切りカーテンを開けた。
「大丈夫かゼスティ!」
下着姿になったゼスティが鏡に大きな胸を押しつけ、ワンピースを着ようとしていた所だったが、その胸部に突っかかり、苦しそうに悶えていた。
「おじゃましましたぁ〜」
あれから数分経過しただろうか、カーテンが勢い良く開けられ、赤いワンピースに身を包んだゼスティが立っていた。
今までの白いドレスでは気がつかなかったが、今着ているワンピースだと分かる。こいつデカイ!ちなみに言っておくが、身長の方ではない。
さっきも見たが、あれは直視すると変な罪悪感があったのだが、今の姿をじーっと見る事が出来る。
腰の部分の茶色いベルトがキツキツに締められており、さっき上げられていた言葉の真意を知り、微かに抱いていた幻想をぶち殺され、若干後悔する。
「そんじゃ、帰るか」
俺は店員に軽い会釈をして、今にも雨が降りそうな街道へ出る。
「あれだな、早く帰らないとせっかく新調した服が台無しだな」
「なんか寒くなってきたし、早く帰りたいぞ」
人が異様に少なくなった通りを、窮屈をしないで進むと、
店は空いているが、人の出入りが全く見えない店が点々とあった。
そうして、そんな不気味な通りをやっとの思いで進むと、噴水が見えてき、横から脳に響く様な老人の声が耳に届く。
「そこの2人組、止まりなさい」
老婆の姿は、顔が完全隠れたフードにブカブカのローブを被っており、光を吸収しそうな水晶玉をテーブルに置いていており、ザ・占い師的な風貌だった。
「お婆ちゃん、どうしたんだ?」
ゼスティが、介護施設で老人の愚痴を聞く様な感じで疑問を言う。
「ここに座りなさい」
無造作に2つ置かれた、手作り感満載の木製の椅子を指しているのだろう。
俺達は黙って指示に従い、椅子に座ると、突然占い師っぽい事を言う。
「あんた達は同じ職場で働き、そして寝食を共にしている。間違いは無いないだろ?」
「凄い!当たってるぞ!じゃあ仕事の調子はどうなる?」
「商売繁盛で、今後もっと賑わうだろうね。そして今までは無かった刺激を受ける事になるだろう」
「ひとまず安心って所だな、じゃあ次は蒼河の番だ」
突然始めやがって、高額の請求をされたりしないよな?と、そんな危機感を抱きながら興味津々で今後の事を伺う。
「俺はどうです?新たなる出会いや、絶対的な富を手に入れるとか?」
最初は優しかった老婆の顔が、どんどんと険しくなっていくので、俺も怖くなる。そして割と衝撃的な事を告げられる。
「死相が出てるね、近い内に死ぬよ」
「嘘だッッ!!」
水晶の置かれたテーブルをバンッ!と両方の拳で叩き、息を切らしながら勢い良く立ち上がる。
「蒼河うるさいぞ」
ゼスティに叱られ、ハッと我に帰ると、街の人達が今の大声に反応し、窓を開けて様子を見ているのが分かった。
「す、すみません、気が動転してしまって……ちなみにそれを回避する方法ってあるんですか?」
「唯一上げると、自分を磨く事だね。隙をついて相手を戦闘不能にさせる大技。影から獲物を狙い確実に刈り取る力。それを身につければ回避は出来るね」
俺に似合い過ぎる技だ、今までは影から傍観する事しか無かったが、影から討ち取れる力を手に入れれば、その腐った運命を回避出来るのか。
「分かりました、俺修行してみます!ありがとうございました!」
俺はすっかり根も葉もない言葉に踊らされると、椅子から立ち上がり、俺はゼスティを置いて、一人で走って便利屋へ向かう。
だって、雨が降って来たからね!仕方ない。
「蒼河待ってくれェー」
背後からゼスティの悲壮に塗れた声が聞こえるが、振り返らずに、まるで小学生がやる一番最初に着いた奴が勝ちゲームの如く、ひたすらに走る。
そして便利屋に到着すると、依頼者だろうか、茶髪で目が釣り上がった男がレイグさんと話し込んでいた。
扉の音に反応して男が俺に視線を移すが、あからさまに嫌な顔をされる。
「ただいまお爺ちゃん!あと蒼河いきなり走らないでくれよ!新しい服だから動きにくいんだ」
ゼスティは気づいていないと思うが、男がジロジロと舐め回す様に見ている。そして。
「俺と結婚して下さい!!」
突然のプロポーズ男らしい!!素敵!!抱いて!!とゼスティは当然だがならなかった。
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