第15話 ダンジョンとチンピラ
「あー熱かったー」
俺は手のひらは赤く腫れ上がっており、指一つ動かしただけでもビリビリとした痛みが走る。
「ったく、壁から湯気が出てるのが見えなかったのか?」
「はは、俺は壁フェチだからな、触らずにはいられなかった」
そんな適当な受け答えをすると。
「じゃ、あそこの壁に触ってみたらどうだ珍しいぞ」
ゼスティが指差す先には、オレンジ色に変色し周囲の岩がドロドロと溶けるほどに高温になっている悪意に満ちた壁だった。
「あ、さっきの嘘な」
しばらく魔物が来ない平坦な道を進んでいると、進行方向から人間が走って向かってくる音が響いてきた。
「ん?なんだ?」
やがて正面に顔面蒼白になった3人の男達が向かってきた。
「おい、お前ら早く逃げろ!エレファントアントが来てるぞ!」
一人の男が言い切る前に、俺達の正面、男達の真後ろには巨大な牙をもった鋼色の蟻が立っていた。
「あんたら伏せろ!」
その圧倒的な質量に驚愕している俺の横から声が聞こえる。
そして男達がその言葉を聞いて地面に這うと、ゼスティは右腕を銃口の様に蟻へ向けて口を開いた。
「"グレイスオブファイア"」
黄金の火の玉が発射されると、薄暗かったダンジョンが黄金の色に包まれ、俺は太陽を直視する様に、半ば強制的、いや反射的に瞳を閉じた。
「ギュェェェェェェェェェェェェエダァダァダァダァ!!」
視界が光によって制限されているので、聴覚からしか辺りの情報が入らず、炎がメラメラと燃え盛る音と、蟻の断末魔だけしか分からない。
真正面からは激しい熱を感じ、思わず後退りをしてしまう。
目を開けると、視界の真ん中には黄金の蟻の残像があり、それが徐々に消え普通の状態に戻るが、そこには蟻の姿は無く、代わりにそれがいたはずの場所は大きく削れていた。
「ふぅ、いっちょ上がり!って所だな」
ゼスティが自分の魔法に恍惚の表情を浮かべると、3人組の所に行って、安否を確認しに行く。
「お、お前、こんなスゲー魔法使えたのかよ!それなら俺が決闘に出る必要無くね?」
ゼスティの横まで来ると、誰もが思った事を吐き出す。
「私の魔力が≪320≫で消費魔力≪100≫だから一日三発までしか撃てないし、屋外だと目眩し効果が無いからある程度の強敵には避けられる」
確かに能力値には魔力があったが、そう言う意味なのか、てっきり魔力が高いと威力も比例して上がると思ったが違かったようだ。
一方男達は超迫力の魔法の前に度肝を抜かれていた。
「あ、あんたみたいな実力者が一体なんでこんな初心者用の所にいるんだ?」
「こいつを強くする為の手伝いだ」
こいつ呼ばわりされた俺を男達が見るが、期待外れと言わんばかりに一瞬で目配りやめて、3人で輪を囲って話し始めた。そして。
「なあ、こんな弱そうな奴じゃなくて、俺達と一緒のパーティーに入ってくれよ、金もたっぷり出すから、な?悪くない話だろ?」
ゼスティはそんな男達の提案を一刀両断すると、俺の事を話題に出す。
「嫌だ断る、こちとら私を守ってもらう為にも早急に強くなってもらわないといけないんだ」
具体的に言えば、俺はゼスティを守る為じゃなくて、レイグさんの悲しむ姿を見たくないから修行をしているんだが、まあその為にゼスティを守らなければいけないので、その表現も間違ってはいない。
「何だとこの女!?」
男の中の一人が短剣片手にゼスティの方へ、じゃなくて俺の方へ向かって突っ込んできた。恐らく俺が1番弱そうだからそんな簡素な理由だろう。
テンプレの様なチンピラだ、普通の奴らなら自慢の魔法や剣術で制圧して女の子にキャーキャー言われると思うのだが、俺には大層な力は無い。
どうする!?にげるか?いや、これら実戦だ、こんな殺意に満ちた奴と相対するなんて滅多に無い。逆にチャンスだと思えと誰かが言ってた。チャンスはピンチ!ピンチはピンチ!結局ピンチだ!俺はそっと拳を構えると『近い内に死ぬよ』ふと占い師の言葉が頭を過ぎるが、そんなもの関係無い。第1俺は……。
「占いなんてそんなもん信じてねぇよぉぉ!」
そう大声で自分を鼓舞して、真下の砂をすくい上げチンピラの前に投げつけると、視界が封じ込められて俺の姿が見えなくなり、短剣を振り回す。
無我夢中で真上から振り下ろされる短剣をギリギリの所で避けて、後ろに下がると、今度は突きが来たので横に回る。そして相手の死角に入ると、相手の首に手を回して投げを決めた。
ドスン!と、という鈍い音が聞こえる瞬間には、男は気絶していた。
「ガハッ!」
「フッ、素人が」
俺は口ではそんな事を言うが、心臓がバクバクになり、勢いよく息を吸い込むが、熱い空気が肺に入って逆に苦しくなる。
そのまま倒れ込んでしまいたい所だが、地面は例により灼熱なので座ってしまうと尻が焼けてしまう。
だが、1番疑問だったのが俺が勝ててしまった所だ。相手は腐っても冒険者なので、戦闘経験皆無の俺程度なら一瞬で片付けられると思うのだが……。
「お前ら撤収だ!」
俺が俺tueeeの片鱗を見せた所で、男2人が地面に突っ伏した男を抱えながら、出口へ走っていってしまって。
「俺って案外強かったりして……ハハハ」
「あながち強いのは間違いではないですね。隠密は影が薄くなり周囲に溶け込めるだけではありません。瞬発力や動体視力、そして素早さも上がるんです。先程の方は隠密以外は全て貴方以上でしたが、圧倒的な隠密の前になす術が無かった様に見えました。力があっても当たらなければ意味が有りませんからね」
「だから俺、あんな迅速な判断が出来たのか……?」
過大評価するつもりはないが、普通の高校生だった俺が、殺意剥き出しの奴相手と戦い、パニックに陥ってしまったりはしなかったので、自分の頭の中でリトル蒼河が中枢神経をなんちゃらこんちゃして頑張ってくれているんだなと思いました。
「なあ蒼河、さっきの技教えてくれよ!」
「ああ、帰ったら教えてやるよ」
俺の能力値を上げる為にダンジョンへ来たのに、さっきの奴らのせいで俺はもう1日のエネルギーの3分の2を使ってしまった様な気がする。
そうしてテクテクと代わり映えのしない道を歩くと、広い場所に出た。
よく見てみると、赤い毛並みで二足歩行の狼?の様な奴が広い場所が1匹彷徨っていた。
「あれですね」
「あれを倒すんですか!?」
「いや、あれの攻撃を受けて来て下さい」
レイグさんは顔に暗い笑みを浮かべ死刑宣告をする。
「いや、無理ですよ!受付の人も言っていたじゃないですか、油断していると死にますよって」
「私達がついています。第1に防御を上げないとナンバーフォー冒険者の一撃を食らっただけで即死もありえます」
背に腹はかえられぬって奴だな、ここで渋っていたら本番で1発KOもあり得る。
「わ、分かりました、行ってきます」
俺はなるべく足音を立てない様に、ゆっくりと狼に近づくと、足下にあった鋭利な石を狼に投げつけた。
石の飛んできた方向に視線を移し、ギロリとターゲットが俺に固定され、人間の様に足を使って走って向かってくる。
ドシンドシンと地面を揺らしながら、俺との距離をどんどん詰めてくる。
凄ゲェェェェ怖ェェェェェェェェ!!
そして牙がギラリと輝いてまさかだと思い、咄嗟に横へ飛ぶと、俺のいた地面がその鋭利な牙によって噛み砕かれたいた。
防御力云々の前に1発食らったらお陀仏だよなぁ!!
「レ、レイ、レイグさんッ!これマジで死にます!」
ゼスティはレイグさんの袖を引っ張り何かを言っているが、それに動じずに俺を事を俯瞰していた。
そして、他の事を考える暇も無く、次の攻撃が飛んでくる。
この攻撃を避けるのは造作もないが、休む暇は無いので、体力の消費が激しい。
あれか、もしかして俺を試してんのか?それとも俺に隠された力があって、いや無いな、俺の特典は記憶保持だけだ、だったらこのままだと死ぬ、即ち自分で勝利への活路を切り開かないとダメって事だ。
しかし俺にはこんな奴を殺傷する技術も道具も持ち合わせてはいない。
だったらどうする?弾き出した答えは、レイグさんが満足するまで逃げ回るしか無いという事だけだった。
心霊番組みたいな事をさせるな本当に、あれは出演者にこれ以上は危険だと中止させるらしいが、これは俺が生命の危険に晒されないと救いの手はこなさそうだ。
その理論だと、俺がボロクズにならないと助けにはこないという事だよなと、あんまり過ぎる結論が出てしまう。
それからひたすらに狼の猛攻を避けまくった。
割と狼の方が消耗して来ている様で、攻撃はどんどん鈍くなっていったが、それは不意に起きた。
狼の攻撃を避けようとした瞬間、小さな段差に足が引っかかり、大きく転倒してしまった。
慌てて起き上がろとする俺だったが、目と鼻の先の距離に狼の牙があって。
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