第16話 赤い兎と俺
あっ、死んだ。そう思った時だった。
狼の横腹に衝撃が来たのか、俺の真横に吹き飛んで壁に激突してしまった、どうやらレイグさんがギリギリで俺を助けに来てくれたようだ。
「すみません、彼に似ていたのでつい」
レイグさんは俯いて言うが、
「似ていたって誰にです?」
「私は過去にもこの様な状況に陥ったのですが、彼はその瞬間不思議な力に覚醒して一瞬で魔物を消炭にしたのです。彼と蒼河さんは重なる所があり、もしかしてと思ったのですが、私の考えが早計でした」
多分だが、不思議な力というのはチートで、似ているって所は同じ日本人だからだよな?単純に考えればそういうことになる。
あの天使も過去にチート持ちをこの世界に送ったと言っていたので、十分にあり得る話だろう。
レイグさんは、俺の事を生死の狭間に立たせてしまった事に引目を感じているのか、俺に向かって頭を下げてきた。
「あ、別に大丈夫ですよ、何処も怪我してないし」
俺にチート能力があるという確証も無しに、あんなおっかない奴の所に放り出すのはいただけないが、俺は今普通に呼吸を出来ているし、化け物相手に割と持ち堪える事を知れたので、寧ろ自分とってプラスの方が多かったかもしれない。
「では、仕切り直していきましょうよ!」
レイグさんの肩にポンと手を置き、大丈夫だと伝える為に励ます。
「はい、次はもう少し奥へ進みましょう」
ゴゴッ!
と、壁が崩れる音がしたので真横を見ると、先程の魔物が目を赤く光らせながら起き上がろうとしていた。
「師匠の威厳の見せ所ですね」
レイグさんは俺を庇うようにしながら前へ出ると、狼が走りながらこっちに向かってくるのが見えた。
徐々に距離が近づくと、レイグさんは走りながら狼の下に滑り込み、真下に来た所で足を上げて狼を蹴り上げると、そのまま真上に打ち上げられ、天井に首が刺さって狼は動かなくなった。
そしてレイグさんが手を上に向かって掲げると、そこに吸い込まれる様にして牙が落ちた。
先に行くほどに鋭利になっており、逃げ切った自分に自信が湧き、それと同時に死の瀬戸際にいたのだと実感する。
「次こそ能力値を上げる為の修行を行いに向かいますよ」
「了解です!」
どんな奴と戦わせられるのか心配だが、少なくとも今のよりはマシだと心の隅では思い、しかし受付の言葉を思い出して最大限の警戒はしておこう。
広場の外に待機していたゼスティと合流し、更に奥へ進んで行く。
「さっきのは蒼河危なかったな、お爺ちゃんは助ける必要は無いって言い張るし、魔法を撃とうと思ったが、蒼河も巻き込んで炭になってしまう可能性もあるから、最後ら辺は遺品整理の事も考えたんだぞ」
「分かった。いつ死んでもいいように、売って金になる物を今度から用意しまおくよ」
そうボソッと言うと、俺がまた壁に手を触れてしまうファインプレイをしてしまった以外は特に何もなく進んだ。
先程見たような広い場所に出たが、中央にいる魔物が兎の様な見た目をしていて格が明らかに低い感じがした。
「あれですよね?兎ちゃんっぽい奴」
俺が分かりきった質問をすると、レイグさんはそれを聞いて静かに首肯をする。
「では、兎の殴りを存分に受けてきて下さい、相手のトドメは私が刺します」
典型的に小物な俺は、負けそうな相手には気分を落胆させ、勝てそうな相手に気分を高揚させるが、普通の人間はそんな物だろう。格上の相手にワクワクするのはJUMP主人公だけでいいと思います!
周囲には兎一匹しか見えず、赤い毛並みが刺々しく生えていて、その後姿からは従来の可愛い兎を連想してしまう。
しかしこの場所にいるという事は、人を襲う魔物であり、悪意を持ち合わせているという事だ。
そして背中しか見えない兎に石を投げると、その恐ろしい風貌が明らかになる。
顔面はクモのように複数の目が配置され、それぞれが別の方向を見据えていているが、可愛い見た目より、おどろおどろしい見た目の方が割と罪悪感が薄れるというものだ。
日本で飼育されている兎より、二回り近くデカイ兎なので飼い主に向かっていく可愛い走り方では無く、獲物を捕まえる捕食者のような恐ろしい走り方で俺に向かってきた。
俺は腕を十字に組み、相手の攻撃に備えると、後足で飛んで前足で俺の腕に殴りかかってきた。
ズシリと骨に衝撃が腕に響き、背後に仰け反ってしまうが、牙など鋭利な物で凶悪な攻撃を仕掛けて肉を抉られ、悍しい程の鮮血が飛び散るという事はなかったので、殴ってきた事には安心してしまう。
兎は俺を仕留められなかった事を確認すると、直ぐ様に2発目を飛ばしてきた。
1発目の傷が相まって骨に響き、ズキズキと痛むが、瞬間的な痛みは先程のよりかは少ない様な気がするが、そんな直ぐに能力値は上がらないと無い思うので、単なる思い違いだろう。
2発目を食らわしたのに、まだ地面に立っている俺をみてか、野生動物の様に俺へ威嚇する。
何か起きるのか身構えるが、案の定空振りに終わってしまい、兎は戦意喪失したのか初期の場所へと戻って俺と距離をとる。
こんなんじゃ修行にならないなと思い、戦意喪失した兎に背を向け2人の元へ帰ろうとすると、背後から不特定多数の物音が聞こえる。
俺は疑問、いや、危険を感じて即座に振り返ると、数10匹近くの兎が援軍に来ており、一斉に突撃してきた。
ヤバイ!これは耐えられないぞ!?今更逃げても背中に攻撃を食うのでそれは出来ない。俺は覚悟を決めて目の前に腕を置いてガードをし、猛攻を防ごうとするが、いつまで経っても攻撃が来ないので、視界を確保すると。
「"グレイスオブファイア"」
ゼスティの声と兎達の断末魔そして激しい光、正面には俺の巨大な形の影が出来ており、数分前に見た気がするような気がするが、1つ違う事があった。それは背後に激しい熱を浴びてた事だ。
反射的に振り向くと、俺に襲いかかって来たはずの兎が無数倒れていたので、疑問を浮かべていると、ゼスティが口を開いた。
「全員が私達に向かって特攻してきたぞ」
「恐らく蒼河さんが無意識に気配を消したんでしょうね、途中の増援は私達の事を排除しようとして向かって来ましたから」
俺の横を抜けてそのまま2人に特攻したって事だろう。ジルが言っていた、生命の危機を感じた時に自動的に発動する、アビリティって奴の効力だろうか。
確かに一瞬だが、死を覚悟した気がするが、そんな都合よく発動する物なのかと思うが、俺の隠密の高さを見て考えれば妥当なのかな?
「そういう事ならありがとう?」
「もう私疲れたぞぉ〜、魔法もあと一発しか撃てないしな」
「確かにな俺も腕が痛いし帰りたいな」
腫れた腕を見ながらゼスティの意見に賛成すると、レイグさんが俺達の考えを聞き入れてくれた。
「今日は引き上げる事にしましょうか」
レイグさんはドロップして辺りに散らばった兎の革を丁寧に袋へしまいながら言う。
よし帰ろう!と思っても、この世界には恐らくルーラやテレポもないので元来た道を引き返すしかないだろうと思った時だった。
「じゃあ帰るか、蒼河私の手を握ってくれ」
レイグさんは即に握っており、残ったもう片方の手を俺に差し出してきた。
これってもしかして転移魔法か!?強力の攻撃魔法も使えるのに万能過ぎるだろ、こんなクソ熱い場所を引き返すなんてゴメンだったからな。
そして俺は期待をしてその手を握ると。
「よし!三人で仲良く帰ろう!」
みんなで仲良く来た道を引き返して帰ったよ!
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