第17話 真横さん
三人で仲良くダンジョンから脱出し、ゼスティとレイグさんが受付と何かを話しているので、黙って出口で待機していると見知った顔と鉢合わせをした。
最難関である雲霓の伍から傷一つなしで出ているので、流石はナンバーワン冒険者と言った所だろうと関心をする。
格好は高そうな厚い鎧を纏い、黄金の模様が入った剣を腰にぶら下げ、赤いマントが風に揺られており、横には同じパーティであろう紫の長髪を伸ばし、俺の事を翡翠色の瞳で見ている少女がちょこんといた。
この前適当にパーティの加入を断った以降は、ジルと会っていなかったので、顔を合わせるのが少し気まずかったのだが、ここはあえて爽やかに言ってみたりして。
「お、おう、えーと、久々だなー」
自分に対して悪いイメージを持たれたであろう人と久々に話すと普通こうなるよね?爽やかなんて無理でした!
「蒼河じゃねーか、もしかしてダンジョンか?」
ジルが軽い感じに言ってきたので、こっちも気が楽になったので適当に言う。
「常識的に考えてそれ以外無いだろ」
思わず刺々しい言葉になってしまうが、ジルが俺の顔を見ると、何が面白かったのか分からないが笑っていた。
笑われるのは慣れているが、今回は悪意に満ちた笑いでは無く、漫才を見たかのように純粋に笑っている。
そんな雑念が入り込む隙が無い程に、俺の顔にツボってしまったのだろうか、ひどい!
「ふははは!たしかにそうだ……っふぅ、それでさお前に話したい事があるんだけど少し時間いいか?」
笑いが止んで少しすると、時間があるか聞いてくるが、多分パーティへの勧誘なので手早く断る事にしようとして話を聞くと。
「勧誘だろうが、生憎俺はもうパーティに入ったから無理だぞ」
「パーティはいつでも誘う事は出来るからいいが、それじゃあ単刀直入に聞くぞ、蒼河は魔王を知ってるか?」
突然出てくる恐怖の象徴である魔王という単語に、それを知っているか問いかけてくる疑問に若干身構えてしまう。
「そりゃ魔王って言えば魔物の王で傍若無人に振る舞って人間を絶滅させたいと思っている危険思想のスゲーおっかない奴だろ?」
俺は一般常識でもある魔王について雄弁に語るが、ジルの表情は予想が的中したように呆れていた。
「やっぱり知らないんだな、正式には魔王じゃなくて"真横"だ、その圧倒的な力と変な魔導具でどんどん各国を襲撃していっているらしく、最初は色々な功績を挙げて英雄として讃えられていたが、その本性はとんでもないエゴイストで周囲に迷惑を振りまきまくり、目的も無しに破壊の限りを尽くす紛れもないクソ野郎だ」
拳を震わせ怒りを抑えている様子を見て、ふとジルが過去に間横軍と因縁がある事を思い出した。
まあ、そんな物騒な事はジルなど強い冒険者が勝手に何とかしてくれるだろうので、俺には到底関係の無い話なのだが。
「えーそれで結局俺に何を言いたいんだ?」
魔王と真横。字面が違くとも本質的には一緒なので、討伐精鋭隊の招待だったら断ろう。
「この前幹部の一人を倒しただろ?それで俺とお前が目をつけられているらしいから気を付けた方がいいぞって事と、真横についてしらなさそうだったからな」
「そういう事か、だったら多分大丈夫だろ」
俺の確証の無い言葉を聞くと、ジルが頭をポリポリと掻く。
「あとさ関係ないんだけど、その女の子は?」
俺は無機質な目で俺をずっと見ている少女についての疑問が爆発してしまい問い掛けると。
「俺の妹の"メル"だ、だが今は色々あって感情を表に出す事が出来ないが、元はスゲー活発で明るい子だったんだぜ」
「もしかしてその子が、あの時言っていた"あの子"か?」
野暮な質問かもしれないが恐る恐る言ってみる。
「ああそうだ、3年ほど前に俺の故郷が襲われてな、間横軍の奴にメルの感情を盗まれたんだ、それっきり人形みたいになっちまって、俺は間横軍からそんなメルの感情を取り戻す為に今まで修行を積んできてな、そして先日1人目を撃破した所だが、目標の真横はまだまだ遠い」
感情を盗むとかよく分からない事を言われ、返す言葉が見つからないので、当たり障りの無い言葉で締める。
「治す方法見つかるといいな」
「おう!応援しててくれよ」
そして街に設置された時計を見ると、ジルは慌てながら別れの挨拶をして、そのまま不可解な少女と共に薄暗くなった街へ消えてしまった。
「おーい蒼河ー帰るぞー!ってどうしたんだ変な顔して」
ゼスティが俺の顔を覗き込みながら言う。
「変な顔じゃなくて神妙な面持ちと言って欲しい」
そりゃあんな重い話を聞かされた後なのでそりゃ顔も変になるだろうな。
「では、ギルドに寄って能力値を更新して帰りましょうか」
レイグさんが諭すように言ってくるので俺も静かにそれに応答すると、テンションをいつも調子に戻す。
「確かにどのくらい上がったのかが楽しみです」
「ふぁ〜あ、今日はグッスリ眠れそうだぞ」
魔力を3分の2を使い果たしたからか、ゼスティが眠そうに欠伸をした為、二人を先に家へ帰らせると、人で賑わっている道を進んで、やっとの思いでギルドに辿り着き、そのまま中へと入り受付嬢の所へ真っ直ぐに進む。
「こんばんは!身分書の更新ですね」
「はい、お願いします」
俺は身分書を提示し、例により握力測定器を握って能力値を測る。
「はい、ストップです」
そして身分書が返却され、気分をルンルンとさせて身分書を見てみると……。
≪攻撃力83≫ →≪83≫
≪魔力68≫ →≪68≫
≪防御力66≫ →≪69≫
≪知能64≫ →≪65≫
≪隠密931≫ →≪932≫
微妙に上がっているが期待していた程では無かった。
「よい冒険者ライフを!」
「あはは、どうもまた来ます」
ギルドを出て、涼しい風をしばし受けていると、様々な感情、主に落胆が篭った溜め息が出る。
「さて、帰るか」
不貞腐れながらパールザニアの街をしばらく歩き、うるさい酒場の前を通って、やっとのおもいで便利屋へ戻って来た。
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