第40話 まさかの一面
分身丸から放たれた衝撃のカミングアウトから数時間経過し、深い夜は明けて、すっかり朝になっていた。
あの後1回店に戻ったのだが、当然灯りもついていなかったので、とりあえず明日に備えてベッドに入ろうとすると、何故か俺のベッドをフィーエルが占拠しており、結局睡眠も取れず終い。
そして今の時間帯は、丁度街が活気付いてくる頃であり、ゼスティが起きてくる時間帯である。
俺は店の受付をしているので、無言で出て行ってしまうと、ゼスティにこっぴどく叱られるのが目に見えているので、一応用事がある事を報告する。
用事というのは、明日真横軍幹部の襲撃が来る事をジルに伝える事だけなので、直ぐに戻ってこれると思うのだが、問題はそれを信じてくれるのか。
ジルは日頃からダンジョンに潜っているので、俺がそんな話をした所で、そのルーチンを崩す訳がない。
かと言って、襲撃をしてくるのが分かる完璧な証拠がある訳でもない。
目を瞑り、何か案がないか考えていると、ギシギシという階段が軋む音が耳に入り、目を向ける。
「蒼河さん?」
寝起きのだからなのか、白い髪をボサボサにしたフィーエルが眠そうにしながら立っていた。
「随分と起きるのが早いんだな」
「身体中痒くて……」
そう言うと、フィーエルは不快な表情をしながら、両手を駆使して首を掻き始めた。
「おい、お前。それは俺の布団がダニだらけとか言いたかったりする?」
おかしいな、俺は潔癖症までとはいかないもの、綺麗好きではあるので、布団は定期的に天日干ししているのだが。
「ダニでは無いんですよ。何でしょう、この得体の知れない恐怖」
途端フィーエルはガクガクと震え、見えない何かに怯える様にして、辺りを警戒し始めた。
「そ、そこまで行くかね!?」
ガチオカルト案件だったりするのか!?てか痒くする幽霊ってなんだよそれ!
「昨夜、ベッドで寝ている時に聞こえたんです。耳元でプーンプーンと何かが飛んでいる音が」
「それ蚊だろ」
もしかしてという意味より、確証を持って言葉を繋げた。
「蚊とは?も、もしかして伝説の妖怪!?それとも最強最悪の幽霊!?それか後世から恐れられているUMA!?」
1人で勝手に驚き、怯えているが、今の今まで忘れていた事があった。それは、コイツは馬鹿なんだ。
『バカ』の方では無い。そっち仲間内でいじるときに使用するが、フィーエルは幻滅。本当に近づいたり、干渉したらいけない方の『馬鹿』だ。
「蚊を知らないって、お前本当に知恵の天使だったのかよ、って今更か、日本人なら全員知っている夏の天敵だよ!思い出せ!ちょっと頭があれなお前だってきっと知っている筈だ!頼む思い出してくれ……」
俺は記憶を失ってしまった親友に向かい、今までの思い出を話して全てを思い出させる様な感じで、必死に、そしてひたむきに話しかける。
人間からしたら天敵でも、天使であるコイツは知らない可能性があり、思い出す以前に、最初から頭に入っていないかもしれない。
……俺なんで蚊の存在を思い出させる様な事を必死にやってんだ?
「あっ、思い出しましたよ。針から猛毒を注入する―――」
「もういいや。それで俺のベッドでもう寝るなよ」
フィーエルの頭の中には無かった様なので、話を遮り、1番伝えたかった事を言う。
変に理由とか問いただすと『デリカシーが欠落してます!』とか言われそうなので、深入りは良くない。
「寝ぼけていたみたいで、あろうことか蒼河さんのベッドにインしてしまいまして。もしそこに先客がいたら締め殺していました」
はい、永遠の被害者とは、私の事です。
フィーエルの背後からゼスティが現れた。
「あっ、2人共今日は早いんだな。何か用事でもあったのか?」
「俺ちょっとの間席外すからさ、代わりに受付やっといてくれ」
「おう、分かったぞ」
ゼスティは意外な程あっさりと用件を受け入れてくれたので、俺はそのまま店の出口へと向かう。
「ちょっくら行ってくる」
扉を半分開け、首を後ろに回して言う。
「直ぐ帰ってくるんだぞ」
母親がおつかいに出かける子供を送る様な口調のゼスティと。
「生きて帰って来て下さいねぇ〜」
戦地に我が子を送り出す様なセリフを言い放つフィーエル。
随分と内容の違う事を言う2人を尻目に、俺はジルがいるであろうギルドへと足を運んだ。
早朝なので、ギルドはスカスカであり、しばらくの間待っている必要があると思っていたのだが、そんな事は杞憂だった。
何故なら、探す間も無くジルの姿が分かったのだから。それは……。
「ハハハ!リーンちゃんは今日も可愛いな!」
だだっ広いギルドの中、たった2人だけで、受付嬢とイチャイチャしていたからである。
俺は正面に見えた柱の陰に姿を隠す。
2人の会話が鮮明に聞こえてくる距離だ。
「ねぇ?したい?」
「い、いいのか!?」
俺の隠密が高かったのが不幸か幸か、こんな状況を招いてしまった。
「貴方にだったら……」
「それじゃあ、失礼しま―――」
も、もしかして!?これは!
流石に俺の視線に気が付いたのか、椅子から勢い良く立ち上がると、剣を片手に持って剣先を向けるが、そこに居たのが俺だと気付くと、壊れたロボットの様な動作で再び腰を下ろした。
「あ〜おはようジル」
俺はニコリと笑顔を浮かべ、ひょこっと柱から姿を表す。
「なあ、この事は口外しないでくれよ?」
「も、もちろ―――って、いや」
これだ!!この状況下では俺が圧倒的に有利だ、だったら、即興で作った偽の笑顔が、影が落ちた本物の悪い笑顔に切り替わる。
「だったら、1つ頼みを聞いてくれ」
自分の声のトーンが数個落ちたのが、自分でも分かった。
「そ、それは、俺はこの後ダンジョンに行くんだが」
ジルは申し訳なさそうな表情を浮かべ、何もない床を見つめていた。
「あぁ〜そりゃ残念だ、俺の憧れていたジルさんがこんな性癖だったなんて、子供や女性や冒険者仲間が知ったら、さぞ軽蔑されるだろうな〜」
自分でも分かっているつもりだ、人の弱みに漬け込むクズだって。でもさ、普通に考えて公共の場でイチャイチャする方も悪いのでは?ここは塩梅をとって、弱みを握って人を掌握するクソ野郎と、特殊な性癖を持った変態という事で!
「分かった!分かったよ!俺は何をすればいい」
「真横軍幹部の討伐……いや、撃退」
襲ってくるのは恐らく分散丸なので、撃破という形では無く、あくまでも撃退とする。
「どこからの情報だ」
それをありのままに言っても信じてはくれないと思うので、濁す。
「いや、ジルは俺の言う通りに動いてくれれば良い。信憑性なんて関係ないだろ?本当に来たら戦うで、来なかったらそれで終わり」
「んま、そうだな」
ジルは嘆息すると、椅子から立ち上がって俺の正面まで来た。理由は他の冒険者がギルドにやってきたからだろう。
「それ今日か?」
「いや明日だ、それじゃあ明日の早朝、街の入り口の所で落ち合おう」
「了解ィィグァァァ!!」
ジルが俺の横を通り過ぎようとした瞬間だった。語尾が不自然に飛び上がったのだ。
俺は何者かの攻撃かと思い、警戒をして振り返ると、汚い床に倒れ込んだジルを見つめる紫頭の少女がいた。
「メ、メル、どうした?」
ジルが残った力で声を絞り出す。
「どうもです」
ボロボロの兄には目もくれずに無機質な瞳を俺に向け、ペコリと頭を下げるので、俺も反射的に同じ動作をしてしまう。
「どうも」
「失礼します」
ジルの足も引っ張り、引きずられた場所が綺麗になっていく。言わば、人間雑巾状態になっており、そのままの状態で外へ消えてしまった。
感情な無いとか言っていたが、バリバリ剥き出しじゃねーか。
てか大丈夫だよな?監禁されて明日来れないとかやめろよ?
とりあえず目的であったジルの説得?も出来た事だし、大人しく店に戻ろうと思ったが、その前に魔導書屋に行って魔法でも見てみよう。
自分に合った物が見つかるかもしれないしな!
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