第22話 知恵の天使、1人の少年の為に堕天する。
「ふぇ〜疲れたぁ〜」
俺達は屋台で購入した物を食べる為に設置されたベンチに腰掛けていた。
「お腹減りました」
フィーエルが上目遣いで俺の事を見て、何か食べ物を買えと促してくるが、それを無視する。
しばくして、俺はベンチから立ち上がり小麦粉屋へ向かおうとするが。
「ねぇ〜もうちょっとお話しましょうよぉ〜!」
パッと見は包み込む様な慈悲深い見た目だが、本当は異様な程に力が強い手で俺を逃させまいとする、悪魔の様な奴だ。
例により、逃げようとしても圧倒的な力の前には俺は無力なので黙って従う事にしよう。
「はぁ〜分かったよ」
「蒼河さんは何で生きているんです?」
多分暴言の方じゃ無く、未知の世界に突如ほっぽり出されて何故生きながられているのか、どうやって食いつないでいるのかそういう意図を含んだ質問だろう。
「ある老人の店に世話になっていてな、今はそこで働いていて生きながらえている」
「いえ、蒼河さんってなんでそんななのに生きているのかなーと」
「初期の段階で切り捨てた方だったのかよ!?てか俺そこまで直球で暴言を言われたこと無いぞ!」
まさか無いだろうなと、消去法の1番最初に破棄されるであろう選択肢の方が選ばれており驚愕してしまう。
「いえいえ冗談ですよぉ、それじゃあ私もそこで働きたいです」
「冒険者にでもなれよ、天使だから凄い加護でも付いてるから店で黙々と働くよりも、儲ける事が出来んじゃねーの?」
天使といったらスゲー力とか宿してそうだし、フィーエルに至ってたは力も強いので圧倒的に冒険者向きだろう。
「それで冒険者ってどうやってなるんですか」
儲かるといった瞬間に、店で働きたいと言った事を忘れ、冒険者の話に食いつく。
単純でバカな奴なのか、合理的な方を選ぶ現実主義なのか、絶対前者ですね。
「てかお前身分書発行してないだろ?」
俺がゼスティに言われた様に、今度は俺がフィーエルに向けて言う。
「ん?なんですそれ」
「ビザとか滞在許可証的なやつだよ、それが無いと騎士に連行されて死刑になる」
そんな事を言うと、フィーエルは目を白黒させ辺りをキョロキョロとする。
「お願いします連れて行って下さい……」
ギルドがある方向に小麦粉屋があるので、道案内くらいしてあげてもいいだろう。
「そんじゃついて来い」
チンピラから逃げている間に無意識だったがギルドの近くまで来ていた事に気が付き、少し得した気分になる。
余程さっきの言葉が効いたのか、フィーエルは無言で俺の後ろに隠れているだけで、逆に怪しさが増している。
「フィーエルって何の天使なんだ?」
沈黙が続くのも嫌なので、ふと疑問になった事を質問する。
天使といえば神の補佐や使いで、炎や水や風とかを司ったりしてるもんだろ?
「私はですね、元は知恵の天使だったんですけど、蒼河さんを記憶持たせたまま転移をさせてしまい、結果。神の意思に背いてしまい堕天してしまいましてね、俗に言う堕天使って奴ですか?本当蒼河さんは罪な男ですよッ!このこのッ!」
最後は軽く言っていたが、本当にショックなのはフィーエル本人だろう。
凄く申し訳ない!!堕天というヘビーな単語を聞いた瞬間に俺がしてしまったことの深刻さに気付いてしまった。
堕天と言えばあれだ、天界から永遠に追放されて下界で生きて行く事を余儀なくされてしまった天使。俺のせいでこの少女は未知の異世界に放り出されてしまった。境遇で言えば俺と同じだが、老人が助けてくれるなど運の良い事は無く、不安を抱えて世界を彷徨っている時に偶然俺と出会った。そして俺に助けを求めた。そしてそれを俺は突っぱねようとしてしまった。
「俺のせいでゴメンな」
最低だ、つくづく俺は最悪な男だ。
「別に私の意思でやった事ですし、正直あの主従関係ってめんどくさかったんですよ。ババアの脇毛を剃る事とかを強要されるんですから。蒼河さんが気に病む事はないですよ、むしろ感謝すべきかもしれませんね!」
嘘臭さが無く、本当の天使の様な笑顔で、俺の心が揺らいでしまい、この子に恋を……。
「と、今のはマニュアル対応で記載されていた事を言っただけで、本音は高収入の職業を失ってしまい割と恨んでいます」
「ですよね、知ってました」
「ここだ」
数多の冒険者が出入りしているギルドの前に来ると、フィーエルは目に星を浮かべ、マンガで手に入れたであろう偏った知識をワクワクとした口調で羅列する。
「ここマンガで見ました!凄い暑苦しい所ですよね!新入りの顔に唾をかけてくる人とか、ギルドマスターがドラゴンだったりする所ですね!!」
「おう、なんせ冒険者ギルドだからな!」
今は夜で、俺も1日カウンターで尾てい骨を痛めながら仕事をこなし、疲れているので適当に遇らう。
ギルドの中へ入ると、一斉にいやらしい視線がフィーエルに向かうが、当人はギルドの真ん中に設置さらている巨大な骨に釘付けで、そんな事は気にも留めていない様子だ。
骨に気を取られているフィーエルを連れて受付嬢の所へ行き、フィーエルを登録するように頼むと、握力計の様な物が手渡せられてそれをグッと握る。
どうせ能力がスゲー高くてギルド全体が湧き上がるんだろ?知ってる知ってる。
「ふにゅぅ〜!」
「終了です」
そう言われるとフィーエルは、ロクに掃除もされていないであろう小汚い床に尻をつく。
「床に座ったら汚ーぞ」
俺が受付嬢に気を使ってフィーエルに耳打ちする。
「そうですね、ロクに掃除もされていませんもんね!」
受付嬢がギクッとしていた様な気がしたが、俺は鈍感系なのでそんなのは知らない。
ああいう事を悪気も無くサラッと言う所に、毒舌の域を越えて畏怖の感情を浮かべてしまう。
「蒼河さん!身分書出来ましたよ!」
他人のテストを見るような感覚で、自分のは見せたく無いが、相手のには興味を惹かれる、そんな引力がある。
フィーエルに身分書を手渡されて見てみるとが、思っていたよりも散々な結果だった。
≪攻撃力362≫
≪防御力134≫
≪防御力166≫
≪知能13≫
≪隠密43≫
ふむふむ、おかしくないか?知恵の天使?加護?そんな物は無かったんや。
「フィーエルって知恵の天使だったんだよな?」
「へ?そうですけど?」
今思い返せば知恵の天使なのに、何故あんな簡単な漢字を読めなかったのか、あと何故あんなにバカそうなのか、もっとこう知恵の天使って凛々しかったり、悟ったような表情をしている物ではないのだろうか。
ふと目線をフィーエルへ向けてみるが、お触り禁止の骨を子供の様な無邪気な表情を浮かべ、今もゴンゴンと叩いていており、屈強な冒険者達が度肝を抜いている。
俺は大きなため息をつき、フィーエルがどこからか現れた黒服の男達に連行されるのを横目に呟くのであった。
「ダメだこりゃ」
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