第23話 勇者擬
フィーエルが屈強な男達の手によってギルドの奥の部屋へ連れて行かれると、激しい怒鳴り声や何かが割れる音など物騒な物音がその部屋から聞こえ、しばらくすると目頭を真っ赤にさせたフィーエルがトボトボした歩き方で出て来た。
ちなみに俺が何故待っていたかと言うと、ギルドの役員の手により勝手に保護者にされてしまったからだ、別に心配で待っている訳じゃないんだからな!?か、勘違いするなよ!
「アグッ、蒼河さん?ゲホッ、ウグッ、オエッ!」
どんな散々な目に合ったのか想像もしたくないが、嗚咽を漏らしながら今も泣き続けているので、俺は泣いている子供をあやす様に背中をさする。
「店に来いよ、話はつけてやるからよ」
時間も時間なので、流石にナンパされる程の美少女を置いて帰る訳にも行かなく、とりあえず店に招いてやる。
「それ本当ですか?ヒグッ、グヘッ」
バカみたいな音量で泣いているので、変に周りに目を集めてしまい、俺が泣かせた最低な男の様な構図に見える。
「ほら、大丈夫だから泣くなって」
俺がいくらクズとはいえど、女を泣かせる愚行に走ったりはしない。俺レベルの紳士となると、逆に毎回泣かされている。
「早く行くぞ」
ここに長く滞在し、色々な人から好奇の目に晒されるのも嫌なので、泣きじゃくるフィーエルの腕を掴み、無理矢理出口へ向かおうとしたその時だった。
「その子嫌がっているじゃないか!!」
向かって真正面の出入り口付近からその声は聞こえた。
目線で冒険者達の隙間を縫い、その声の主を探るが、俺が見つけるより先にそいつは姿を現した。
「その子から手を離せ!」
男は俺と同じ位の歳で、頭には天空の甲虫的な物を装着してあり、腰には長剣がさしてあり、いかにもな格好をしている。
周囲には取り巻きであろう女の子達が2人が添えられており、そいつらは俺を睨みつけている。
女の子達は胸を大きく露出した格好をしており、ハッキリ言って俺の好みだ、揉ませろ、揉ませて下さいお願いします。
今の所判明しているのは、俺の性癖と男の性癖が酷似しているくらいだ。
「あーえっと、何か勘違いしてないか?俺はコイツの友達?でな、さっき色々あってギルドの職員さんに説教されちまったんだ」
状況だけ見たら、そんな間違いをするのも分からなくもないが、相手も人間なので丁寧に言葉で説明したら分かってくれるだろうと、そんな俺の考えもこいつらの前だと無意味だった。
「その子泣いているじゃないか!」
話が通じない!?少女が泣いている事にだけ重心を置きすぎてコイツ本筋が見えていないぞ。
唯一の頼みの綱のフィーエルは泣いているだけで弁解に走ってはくれないので、どんどん時間が経過するごとに俺が悪い奴みたいな空気が広がっていっている。
俺が1番嫌いなのは、人の話を聞かないで場だけで判断する人種で、恐らく相手も他人を傷つけている俺が唾棄すべき人種だと考えているのだろう。
「女の子を泣かせるなんて最低よ!やっちゃって下さい"直斗"さんッ!」
ハーレムの中にいた1人の少女が俺を睨み、男の腕に胸を押し当てながら言う。
「そうだね、然るべき裁きが必要だね」
そうすると長剣を取り出し、問答無用で俺に飛びかかってくる。
俺は咄嗟に背後へと回避すると、俺がさっきまでいた床が派手に破壊される。
斬るというより、叩き潰す。タイルが粉々に砕けているので、そう表現する方が適切だろう。
手加減なし!?コイツ俺の事を殺す気満々じゃねーか!?
回避を成功した俺が反撃してこないと思ったのか、一瞥もくれずに、男はその足で泣いているフィーエルの所へ行くと。
「君大丈夫かい?僕なら君を救える。さあ僕の手を握って」
男はフィーエルに手を差し伸べ、ハーレムの女の子達は慈愛の表情でその光景を哀れんでいるようで、仲間に引き入れようとしている。
まるで宗教だな、反吐が出る。
「その劣情に塗れた目つきで私を見ないで下さい」
フィーエルは泣き止み、叛逆の瞳で男を見据えると。
「はぁ、可哀想に、完全にこの男に洗脳されている」
拒否されたのが予想外だったのか男は頭をポリポリと掻いて、困惑を顔を浮かべ言う。
「洗脳術ってたしか術者を殺せば解けるはずだわ」
ハーレムAがそんな事を言うと、女の子達が見えない角度で男がニヤつき、長剣の先を再び俺に向ける。
また斬りかかってくると来ると思い、俺は回避の準備をして身構えると、案の定先程と同じ様な動きをして飛んできたが、1つ違う所があった。
俺が回避を取る行動をした瞬間、足元に違和感を感じたのである。
瞬時に視線を足元に移すと、俺の足首が植物のツルの様な物でその場に固定されていた。
正面を見ると、長剣を握りながら飛んできている男と、不自然に手元が緑に光っているハーレムBが見えた。
ヤバイッ!!死ぬ!?
本来は走馬灯が流れる感動のシーンの筈だが、そんな物は無かった。
俺の人生が振り返る程何も無く、空虚な物だという事を隠喩している訳では無く、本当にそれが無かったのだ。
何故なら俺が男の斬撃をくらってリョナる寸前に、ギルド全体に電車が通過した時に発生する列車風の様な物が発生したからだ。
ゴキンッ!!ジリリリリ
そして俺の目の前で金属と金属がぶつかり合う甲高い音と、激しい火花が散った。
ついには俺に斬撃は届く事なく、ギリギリで食い止められた。
「俺の友達と俺のギルドになしてくれてんだッ!!」
そこにいたのは黄金の剣を駆使し、理不尽な斬撃から俺を防いでくれているジルだった。
「退いてくれないかな?そこの男を殺さないと少女を助ける事が出来ないんだ」
「そもそもこんな所で暴れてんじゃねぇよ、ナルシストが」
双方の凄まじい剣幕の前で、俺は言葉を発する事が出来なかった。
足に絡みついていたツルはいつの間にか消滅しており、俺は自由に動けるようになっていた。
どうやら男のターゲットは俺から喧嘩を仕掛けて来たジルに移行したらしく、俺がしれっと移動しても眼中にないらしい。
フィーエルの所へ行き、女の子達をしっしっと手で払う動作をして追い払うと、フィーエルとギャラリーに混じり、ジルと男の様子を傍観する。
「あの人知り合いなんですか?」
「そうそう、マジヤベーから、ジル君にガン飛ばしたらパールザニアの街は歩けないと思った方がいいからマジで」
「今の蒼河みたいのを虎の威を借る狐って言うんですね」
「そうだ、俺は人の褌で相撲を取るのが好きだからな」
「あれですよね?それをろくでなしって言うんですか?」
「どちらかと言えば、穀潰しの方が近いかも」
「勉強になります!」
「おう!勉強はしといた方がいいからな」
一方2人は俺みたいな常人には認識出来ない速度で斬り合っている。
ナンバーワン冒険者と、ある程度善戦出来ているという事は、割とあの男も実力者だという事になるだろう。
「君、なかなかやるね」
金属がぶつかり合う音が反響していたギルドに静寂が訪れる。
「テメェは全然みたいだな」
ジルは流石の貫禄を見せつけ、男を圧倒していた。
「2人共今日は引き上げるよ」
そう言うと女の子達は男の側に寄って、くっつきながらすぐさまに出口へ向かってしまう。
「なんだ、逃げんのか腰抜けが」
すると扉の数歩手前で立ち止まり、俺の横にいるフィーエルに向かい。
「次は君を手に入れてみせるよ、あとお前達には正義の粛清が必要だね」
そんな捨て台詞を言うと、女の子達とキャッキャしながら出て行ってしまった。
「ど、ど、ど、どうしましょう、私もしかしてあの変態に狙われてます!?」
「俺ではどうしようも無いからな、山奥で自足時給の隠居生活でもしたら?」
そんな事を話していると、横から声が入る。
「新しい女の子か?蒼河も隅に置けないな!」
「やめろ、俺程すみっこが似合う男は居ないぞ、実写版すみっコぐらしと言われた男だからな」
「あれ可愛いですよね!ぺんぎん(本物)とか」
この世界に来てこんな感じの事を言っても、当たり前だが乗って来く人が居なかったので、日本の知識を持った奴が居ると話に熱が入ってしまう。
その後俺達は何の話をしているか理解していないジルを横に、その話題で盛り上がったのであった。
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