第7話 捕まりました!
ほら、もっと早く歩け蒼河!」
日光が強く照りつける日向の中を、ゼスティに引かれて進んでいく。
「あれなんだろ、強制労働なんだろ?」
寝起きにゼスティから言われた事を思い出して、気分と共に歩く速度も落ちる。
「あれか?あれは軽い冗談だ、実際は詐欺師を捕まえて欲しいって、そんな依頼が来た」
「アクティブすぎだろ!?普通は掃除とか引っ越しの手伝いとかをするんじゃないのか?」
異世界の便利屋と、日本の便利屋事情とは根本的な定義が違うのだろうか?それとも単純に意味が広義なのか。
「そっち系の奴も勿論あるが、大体はこういう依頼だぞ?」
この仕事に余計に駄々をこねると、最悪ホームレス生活になってしまうので、郷に入れば郷に従え精神で溜飲を押さえる。
「で、どうやってその詐欺師を探すんだ?何か心当たりでもあんのか?」
「それは蒼河が一番しってるだろ」
ゼスティがキメ顔をして言っているが、いまいち意図が伝わってこないので、言わなくても分かるよね?的なやつだろうが、俺は躊躇なく聞き返す。
「えっと、どういう意味だ?もっと具体的に言ってくれ」
俺が言うと、キメ顔が一気に崩れて呆れに変わっており、力の無い溜息が漏れていた。
「蒼河も詐欺られてただろ?」
然るべき答えを出してこない俺を見かね、ゼスティが答えをいってくれる。
「もしかしてだけど、詐欺師って昨日俺が制服を売りつけた奴か?」
「そうだ、とりあえずそこに案内してくれないか?」
あれだな、街の入り口の所にあった服屋だったよな。
「ああ、ついて来い」
まだ一日も経っていないので、まだあんな事しているかもしれないが、バレる事に危惧はしてないのか?そんな事を考えながら、例の服屋へと足取りを進める。
「そうそう、蒼河の身分書を見せてくれないか?」
俺の能力の低さにバカにされると思ったが、これを口実にゼスティのも見れると思い、何も言わずに身分書を手渡す。
「アビリティを使えるのは凄いと思うが、隠密以外は壊滅的に低いな……」
案の定想定していた事を言われ、予想はしていたのだが、"壊滅的"という単語が、思いの外与えてくる心的ダメージは大きかった。
「それさっきジルに言われた、それじゃあ次はお前のも見せろ」
「そうだな、不平等だもんな、ほらいいぞ」
俺が手のひらを見せて催促すると、反抗もせず簡単に了承してくれたので、少し拍子抜けする。
『絶対に嫌だ!』『本当ちょっとだけ、マジで先っちょだけ!お願い!』を想像していたが、それだと俺が犯罪者の様に見えてしまうので、やっぱNGで。
俺のを返してくれると、交換するようにして、それを手渡してくれたので、俺は食い入る様に見る。
≪力79≫
≪魔力320≫
≪防御力121≫
≪知能66≫
≪隠密34≫
≪魔法グレイスオブファイア100≫
隠密以外は俺より高いのが若干ショックだが、それより魔法という欄に意識を取られる。
「な、お前魔法使えんのか!?」
「まあな、単純に手から炎が出るだけの物だがな」
魔法!やっとここに来て異世界の象徴たる物が出てきたので気分が高まる。
「その魔法ってどうやって覚えんだ?」
この世界に来たからには、魔法は使ってみたいので、たまらずに質問してしまう。
「啓示の魔導書を読むんだ、まあ滅茶苦茶高額だけどな」
努力という言葉は自体遅れ、この世界は金で実力を買えるとばかりに言う。
「で、まさかその高額の奴を買ったのか?」
「私のはお爺ちゃんからの貰い物なんだ、しかも数ある中の上位の奴だぞ」
下位の物は安く売られてあって誰でも手に入ると、そして上位の物は高く売られていて、必然的に金持ちしか手に入れられない。
「もしかしてレイグさんって金持ちなのか!?」
「いや、知人からの貰い物らしいぞ」
あわよくばレイグさんに買って貰おうと、ゲスイ発想が思いついたが、そんな最低最悪の作戦の実行。それは不可能らしい。
そしてそんな他愛の無い話をしながら道を進み、例の目的地にたどり着く。
「じゃあ入るか」
店の中に入ると、昨日俺に偽貨幣を送りつけた張本人がおれのブレザーを身分が高そうな奴に売りつけている所だった。
「おいあんた!それ偽貨幣だろ!」
店の中に入ると、ゼスティがいきなり男に向かって言う。
「は?何の話だ、邪魔だから出て行け!」
訝しみながら男がゼスティの事を見て言うと、手で追い払う仕草をする。
「何故その事を知っている」
客として来ていた派手な服装をした小太りの男が口を開くと、呑気に服を吟味していた四人の客が入り口の前に立ち塞がる。
「なッ!」
ゼスティがこの状況の深刻さに声を挙げるが、助けに来てくれそうならヒーローは居ない。
「詳しい話は奥で聞かせて貰おうか」
入店20秒で黒幕っぽい奴が出てくるとは思わなかった。
もっと謎を追ってやっと真実に辿り着くものだと思っていたが、俺達は運が良いらしい。
「グレフさん、これは一体?」
男が困惑の表情を浮かべて、派手な服装の男をグレフと呼ぶ。
「この事は他言無用だ」
グレフが男を威圧すると、俺とゼスティは手首を縛られ床に膝をつく。
「なんかとてつもなくヤバイ状況じゃないか!?」
「無駄な話とかしないで済むから手取り早いだろ、感謝しろよ蒼河!」
ゼスティが俺に向かいウインクをする。
「何言ってんだゼスティ!今の状況理解してんのか!?お前!」
一気にこんな展開が起きた為か、言動がおかしい。
「蒼河とゼスティか覚えたぞ」
グレフが弱みを握ったと言わんばかりに俺とゼスティの名前を反芻すると、入り口を塞いでいた一人が俺達の前に来て巨大なスケッチブックを取り出し筆を走らせている。
「蒼河なにやってんだ!あのキモイ小太り成金おっさんに名前がバレただろ!ほんと最悪だ!」
「キモイキモイ言うな!可哀想にだろうに、ああ見えて割と気にしてんだからな!人の気持ちも知らずに!」
ゼスティがこれ以上グレフを刺激しないように宥める。
「え?俺そんなに気持ち悪いか?」
ゼスティが棘のありすぎる事を言うと、グレフが辛そうな表情をして、隣にいた男にこっそり聞いている。
「いや、痩せたらカッコイイとおもいますよ!」
デブに言ったら喜ぶであろう褒め言葉ランキング上位に君臨している褒め言葉を男が言うとグレフは顔を綻ばせる。
「そうだよな、よく遊ぶ女の子にも痩せたら絶対カッコいいって言われるし……おい!貴様らそのクソガキを奥へ連れて行けい!」
クラスの女子に蒼河君は優しい所が長所だと長年言われた俺と同じだなあいつは、世界が違ったら文化祭を一緒に回れたかもしれない。
そうして俺達は店の奥にある扉へ入り、簡易的に設置された牢へ乱暴に入れられると、先客がいた。
「おう蒼河!奇遇だな!お、昨日の子も一緒か」
ジルが牢の中で我が家の様に寝転んでいた。
「ジ、ジル!?」
ジルと最初に会話した時は、典型的なチンピラだと思ったが、案外イイ奴で実力もあるので、見た目での判断は早計だなと自分の未熟さを直に感じさせられたばかりだ。
「何であんたがいるんだ?」
「ギルドでよ、討伐した魔物の牙を換金したら偽の金だったもんで、それを問い詰めたらよ、ここの店の奴が服の材料になる絹をギルドで買ってた事が判明してな、そんで偽物だろって言ったら捕まった」
「ま、大体俺達と同じ理由だな、それで俺達はどうなるんだ?」
「知らないな、ここで大人しくしてれば解放してくれんじゃーの」
ジルが眠そうに目を擦りながら言う。
「ダメだな、壁も大分厚いぞ]
ゼスティが壁を叩く手を止めて壁にもたれかかる。
「そんじゃ、殺される事は無さそうだし、気長に待ってるか」
俺は腕で枕を作り、睡眠を取るために小汚い床に寝転んだのであったのだ。
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