第32話 料理作りました。
「うむうむ、いい感じに出来上がったな」
俺は気前良く湯気が上がっている魚が盛り付けてある皿を2つ抱えながら、2人の待つ場所へと足を運び、それ。テーブルの上へと置くと、すぐに2人は間髪いれずに口の中へと運ぶ。
フォークと皿が奏でる音と咀嚼の音が店に響く。そうして半分程食べ終わった所で一旦手を止めると、2人が同時に口を開いた。
「不味いな」
「不味いです」
直球であり、それ故に辛辣で心を抉られるが、嘘を言っている場合もあるので自分で確かめる事にした。
俺は誰も手をつけていない所をフォークで刺して口の中に入れると、魚特有の生臭さと腐りかけのような激しい酸味が口の中に広がった。
「ゴホッ、お前らよく半分も食えたな!こ、こんなクソ不味いもんを!味覚がおかしいんじゃねーのか?」
特に日本で育った俺は、高品質で改良されていた物ばかりを口に入れていたので、こんなものは毒にしかならない。
まさに俺の足りないスキル、食べ物品質の低さ、粗末な料理道具、それが奇跡的合わさって出来た完璧な汚料理や!
「いやでも!これを美味しいと思ってくれる奴はいる筈だ!……どこかにはな、多分だけどさ」
と、諦めの悪い事を言った瞬間、待ってましたと言わんばかりにタイミング良く扉が開け放たれ、引っ張られるようにして目を向けてみると、そこには頭に白い包帯をグルグル巻きにしたロックリーがいた。
「あの皆さん昨日は申しッて、なんですか!?」
心を込めた謝罪を遮り、俺はロックリーの前に例のブツを持ってくると。
「これを食べて感想を言ってくれないか?そうしたら昨日の事も許してやる」
そんな言葉をあっさりと信じて皿を受け取ると、貴族の嗜みだろうか、盛られた料理の香りを鼻腔でしっかりと受け取る。
「いい香りですね、程よい酸味が効いているようです。では丁度空腹だったので、いただきます」
その臭いは酸味じゃなくて腐っ……いや、いいや。
口の中に放り込むと、包帯に包まれた顔があからさまに顔が歪んでいたった。
「お、おて、お手洗いは!?」
俺が人差し指で方向を示すと、トイレに向かって凄い剣幕で駆けていった。
「やはり君の器には収まりきらなかったか、残念だ私は君を買っていたんだがね」
「なんですか、そのマッドサイエンティスト的なセリフは」
フィーエルが呆れた目で言ってくるので、こう切り返す。
「違うなこれは、信じていた後輩に裏切られた先輩が死に際に言いがちなセリフだ」
だが俺と同じ、いや以上に拒否反応が強かったように見えたが、ロックリーは貴族なのでそれ相応の食事しているだろう。だったら街で配ってみるのもいいかもしれない。
「今度は街で配ってみるか」
軽い冗談のつもりで言ってみるが、俺にはロックリーをトイレ送りにした前科があるので、2人にはそう聞こえなかったらしく。
「お願いだからこれ以上被害者を出さないでくれ」
「この負の連鎖をここで断ち切ってみせます!」
ゼスティが手のひらを俺に向け、フィーエルが拳に握って臨戦体勢であった。
「んな事する訳ねーだろ、冗談だよ冗談!そんな事したらテロ認定されても文句言えないからな」
そう言うと、2人は俺に対しての警戒を解いたので、俺はぐったりと椅子に座り込んで考える。
これをどうやって処理すっかなーと考え、ふと思いついた案が1つだけあった。それは少々俺の良心が痛むがそこは割り切るしかない。
「お、お待たせしました」
相変わらずにグルグル包帯のロックリーがトイレから帰還してきたので、料理の感想を聞く。
「どうだ?美味しかったか?」
「も、も、も、勿論ですッ!?」
バレバレの嘘だが、これを利用しない手はない。
「俺達の口には合わなかった様だし、全部やるよ」
俺は未だ手をつけていない魚達を壺に入れ、ロックリーに手渡す。
「是非皆で食べてくれよな!」
「あ、あ、ありが、ありがとうございます」
ロックリーは先程のがトラウマなのか、少量の涙を流していたが、受け取った方が悪い。
ノーと言える人間になれ!少年よ。
「貴族が泣くほどに旨い料理を作っちゃう俺って、全く罪な男だぜ!」
涙を流す背中をベシベシと叩く。
『ロックリーさんが拒否出来ないのをいい事に、調子に乗っていますね、性根から何もかも腐ってます』
『パルメから私を助けてくれた時は、もっと人情深かった様な気がしたんだが、まるで別人だぞ』
『演技ですよ演技、あの手の人間って表裏の使い分けがうまいんです』
背後から思いっきり人格否定をされているが、今更そんな物気にならないと言いたいが、こんな事を考えている時点で気にしまくりなのである。有名人が批判は気にしません!って自分のツールを使って言っているような物だ。
色々とあったが、いよいよ本題に入る。
「そんであの後どうだったんだ?」
「いや、昨晩は何もされませんでした」
包帯グルグル巻きの病人に技をかける程の冷酷さは無いと知り安心する。
「あっ、そうそう、これ手に入れたんだ」
「手に入れたって、何をですか?」
俺はテレレレーンと、即興で作った効果音を口で奏でながら、テーブルの上に鏡を置く。
「鏡?」
「普通の鏡じゃなくてな、真実が見える鏡だ!」
「蒼河さんのメイド服ウゴッ!」
フィーエルの口を封じ込め、最後まで言う前に咄嗟にガードする。
「まあ、この鏡に暴きたい物を写すと、真実が見える?抽象的だがそんな代物らしい」
俺がフィーエルの口を押さえている間に、ゼスティが事細かに説明をしてくれた。
「でもその様な素晴らしい逸品、一体どこで手に入るんです?」
「昨日ダンジョンで魔物から奪ってきたんだぞ」
「そんな危険を冒してまで僕達の……感謝の言葉もありません!」
ロックリーはドシンと頭を地面に叩きつけ、感謝の意を示す。
「いや未だ早いぞ、本当に効果があるのかも分からないし」
「それじゃあ善は急げってことで、早速向かうか……って俺ら出禁になってなかったっけ?」
もう来ないで下さい!と使用人に言われたのを思い出す。
「その件の誤解は解いておきました」
その言葉を聞いて安心し、今度こそ屋敷へ出発しようと、扉を開けるとそこには。
「ナーシャ!?何故君が!」
あの暴力娘のナーシャが立っていた。
また何かされるのでは無いかと、瞬時に身構えた俺だったが「ロックリー……」と儚げに呟くと、そのまま倒れてしまった。
その表情は俺が知っていた物とは違く、何処か不安を含んでいたようで、少女そのものであって別人のようにも見えた。
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