第20話 パルメさんとの決闘
歓声が鳴り止み、正面からパルメと向かい合う。
俺の対策をしっかりしていると言うのは自意識過剰かもしれないが、パルメは俺と同じでラフな格好に片手剣を一本だけ握っていて、俊敏さが下がってしまう為に防具は身につけていない。
『なんだあいつら、戦う気あんのかよ?』
俺達の格好が従来の決闘の服装と乖離しているからか、騒めきの波紋が観客達に広がっている。
『やっほー皆んな大好きな決闘が行われる闘技場の管理者の"ググリン"だ!』
突如闘技場の管理者を名乗る男がマイクの魔導具を介し、声を上げる。
『突然だが簡単にルール説明をしよう!この決闘で作為的に相手を殺すのはダメだ、寓意的に死んでしまったらオッケイ?相手を殺したいなら観客の皆んなに悟られないように殺せよ!それだけだ』
わざと殺したらダメと、それだけのルールなので、闘技場の管理者があんな適当で良いのだろうかと至極真っ当な疑問を浮かべてみるが、気に留めていたのはどうやら俺だけで、観客は馬鹿らしく騒いでいるだけだ。
舞台の中心で決闘が始まるので、重い足で距離を進め、指定された場所に移動して開戦の鐘が鳴るのをじっと待つ。
胸に手を当てて深呼吸するが、周りが森閑としているせいか、拍動が伝わってくる。
あガァァァォァァァ!怖ェェェェ!音楽の授業あった一人で歌うテスト待っている時より緊張するぅ!
とはいえ、そんなビビっている暇は無いので、目を閉じて今一度情報を整理する。
パルメと正面からまともにやり合っても到底勝ち目は無いと言う事と、相手を撹乱させる為のスモークは3回しか使えないという事だけが頭に浮かぶ。
それ以外の情報は無いが、不意にアビリティが発動し、一転攻勢のチャンスが訪れる可能性もある。
だが今の所、勝利への唯一の道は、相手の視線から外れ、レイグさんから教わった技を決めるくらい。それだけだろう。
カーン
そして異様に軽い鐘の音が反響し、ゼスティの貞操とレイグさんの笑顔と俺の今後の生活を賭けた戦いが始まった。
俺は即座に背後へ向けて走り距離を取ると、パルメから出来るだけ離れる。
一方パルメは開始地点から微動だにしていなかった、ただ1つ光る剣の先を天に掲げている以外は。
空を漂う光の残滓が剣に収束し、あからさまにヤバイ技を撃とうとしているのが否が応でも伝わってくる。
そしてパルメが聞こえない声で何かを呟くと、俺のいる方向へ向かって光の斬撃が飛んできた。
それはいとも簡単に地面を切り裂き、ギリギリで回避した俺は空中で衝撃にさらされながら、数m飛ばされ石の壁に叩きつけられてしまう。
「ゴフゥッ!」
背中に耐え難い激痛が走り、砂の上にへたり込んでしまう。
辛うじて目蓋を開くと、パルメがニタニタとして邪悪な笑みを浮かべているのが分かった。
呑気に寝ている暇も無いので、すぐさまに起き上がってパルメの様子を伺うと、全速力でこっちに向かってきているのが分かった。
ヤバイッ!と一瞬思うが、冷静に動きを読めば避けられない事は無いだろう。
剣が縦に振られたので瞬時に横へ回避して、パルメの真横に来ると俺は魔法を唱えた。
「"スモーク"!!」
周囲に不自然な煙が充満してパルメの視界を遮り、背中に手を伸ばそうとするが、ギリギリのところで霧の効果が切れたので、俺は再び走って間合いを取る。
煙は数秒しか保たれずに消えてしまうので、ここぞという瞬間に使わないと、只の無駄遣いになってしまう。
パルメはギロリと舞台を見渡すと直ぐ様に俺を見つけ、剣の刃をベロリと舐めると俺に向かい走ってくるので、全速力で走り一定の距離を保つ。
『逃げてんじゃねーぞ!!戦えよ!!』
基本的に逃げているだけなので、見ている側からしたら面白く無いだろうが、こちとら色々な物を賭けた戦いなのでそんなリクエストに答えている時間はない。ごめんね!!
流石にこのままのペースで逃げ続けていても確実に追いつかれるので、こっちから仕掛けた方がいいだろう。
ってパルメさっきから何で黙ってんだ?せめて『逃げるなー』とか『この一撃耐えられるかな?』とか言ってもいいんじゃないか?アイツもアイツで緊張してたりしてんのかな?
そしていよいよ走っているのがキツくなってきたので、思い切って振り返り、逆にパルメに向かい走っていく。
パルメは意表を突かれたのか一瞬だけ硬直すると、再び向かってくる。
距離がどんどん近づいていき、再び魔法を唱える。
「"スモーク"!!」
先程の様に煙が辺りを覆うと、そのまま正面から向かって来ると思ったのか真正面に剣を振って地面を叩く。
圧倒的な隙間が出来て、今度は素早く背後へ向かい背中に手を回そうとするが、パルメの背中には似合わない異質な物が目に入る。
チャック?パーカーに付いている様な小さい物ではなく、着ぐるみに付いているデカイバージョンのやつがくっついていた。
俺は変な好奇心に駆られて、それ一気に下へ引くと、案の定チャックで噛み合った部分が解ける音が聞こえ、中から特異な存在が飛び出してきたので、煙から抜け出して距離を取る。
煙が晴れてその姿が晒されると、一瞬で観客の間に響めきが広がった。
『なんだ!?何が起こった!?』
黒々しい不健康そうな鳥の様な見た目に、空を支配する為の翼があり、強靭な爪が地面を抉っている。
「パルメ?ではないよな?」
「ばれちまったばれちまった〜折角入れ替わったのにな〜」
それは面倒くさそうに首をゴキゴキと回し、人の言葉を話す。
「パルメをどうした、まさか殺したのか?」
この様な展開になると、本人は一ヶ月前に自宅で何者かに殺されていたとか、某ミラーさんとかが思い浮かぶが。
「いや殺してねーよ、"アラキバハ"で俺の代わりに真横軍の仕事でもしてんじゃねーの?」
パルメの生死についてはぶっちゃけどうでもいいが、今の会話の中で気になると単語が出てきたのでそれについて問い詰めてみる。
「アラキバハって何だ?街の名前か?」
某オタクの街に酷似した名前に疑問を浮かべ、質問をしてみる。
「真横軍が本拠地を置いている街の名前だ、てかお前そんな事も知らなかったのかよ、このご時世では常識だぞ」
「なんでお前は俺と戦おうとしたんだ?ゼスティとそんなに結婚したいのか?」
「それはもちろんあの女には―――」
ドギュュュュュュュュュュュュュン!!
目がおかしくなりそうな閃光と、鼓膜が破裂しそうな圧倒的な轟音が鳴り響き、俺は耳を押さえてその場に蹲る。
しばらく経って奴がいた場所に目を向けると、そこには隕石が落ちたかの様なクレーターと、騎士団長エルダーが立っていた。
「やあ、久しぶりだね蒼河君」
金髪で白いマントを華麗にたなびかせるエルダーは、俺に向かい手を差し伸べてくれている。
「ど、どうも」
俺はエルダーさんの手を取り立ち上がると、一連の出来事について叱責をされる。
「蒼河君危ないじゃないか!ギリギリの所で僕が来たからよかったけど、あのまま続けていたら"魔物決闘罪"で牢獄行きの可能性もあったんだよ?今後は気をつける様に」
そのまま俺の頭に手を置いてワシャワシャやってくる。
「僕はそろそろ失礼するよ、話を聞きつけて仕事の途中で来てしまってね、今後はこんな真似をしない事分かったね?」
「了解です」
「ふむふむ、よろしい!それではさらば」
瞬きをして目を閉じたその一瞬で姿が消えてしまう。
あの魔物から俺を助けてくれた事には感謝をしないといけないが、一つ腑に落ちない事がある。
何故あのタイミングだったのか、俺には奴が話す内容が書かれてまずかったのかエルダーが咄嗟に口止めしている様に奴を撃退している様に見えてしまったが、恐らく思い違いだろう。
「無事か蒼河!!」
気を張った声に振り向くと、涙目のゼスティが俺に向かい走って来ていた。
「背中が痛いから医者に行きたい、骨折れたかも」
そんな適当な事を言うと、パルメ(偽物)との決闘は終わった。
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