第45話 あれが弱点みたいですよ?蒼河さん
よしッ!加勢するぞ!などと意気込んだはいいもの。
「んで、俺達は何をすれば……」
「特にやる事が無いな。魔法を撃てば逆に邪魔になってしまうぞ」
今もなお激しい戦いを繰り広げる2人を見ながらゼスティが呟く。
「うぅ〜、じ…次元がちがいすぎる…!!」
フィーエルが何処かの三つ目の様な事を言うが、実際問題事実であるので、チラッと横目で見るだけで何も言わない。
「そうです皆さん!お菓子でも食べますか?」
「き、君は緊張感が無いんだな……」
流石の分身丸も呆れたいる様子である。
「てかさ聞くのもあれなんだけど、仮にもアイツ元同僚なんだろ?説得とか出来ないのか?」
「いや、無理だね。ホーンは自分の髪型をバカにされるとキレて手がつけられなくなるんだよ」
なにそれ!?どこの杜王町にいる高校生?
「だったらバカにされないような髪型にすればいいのに……」
ゼスティがそんな至極真っ当な事を言うと、ドシンッ!と、地面を叩く様に不快な音が耳を撫でた。
会話に意識が集中していた俺だったので、あまり2人の戦闘に目を向けていなかったのだが、何故そんな音が出たのかは直ぐ分かった。
音源に視線を向けると、街を守る為に設置された壁に寄りかかる様にしてジルが倒れていた。
「愚民よ、これが私の髪型をバカにした罰だ」
ホーンが俺達に背中を見せながら、倒れているジルに向かって歩みを進めている。
「ま、まずいな、このままじゃあジルが殺られる」
そう言っても、俺にはこれといった打開策がある訳では無く、考えているフリをして誰かが状況を動かしてくれるのを待つしかなかった。
「グレイスオブファイア!」
情けなく項垂れていた俺の横で、ゼスティがホーンの背中に魔法を放つが、それは手刀によっていとも簡単に弾かれてしまい、黄金の火の粉が舞うだけだった。
「ん?なんだ貴様ら?」
不快そうな表情を浮かべ、首だけを動かしながらこちらに視線を向けるが、それより目を引く物があった。それは。
「ホーン、頭が燃えているよ?」
分身丸が端的に内容だけを伝えると、急に表情を崩し、顔面が蒼白になり頭に手を置くと、らしからな声を上げた。
「私の髪がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!」
膝立ちをしながら何処からとも無く櫛を取り出すと、
必死の形相で髪を整え始めた。
もう俺達など眼中にないようであり、完全に自分の世界に入ってしまっていた。
しばらく時間が経過すると落ち着いたのか、また悪そうな表情を浮かべながら立ち上がった。
「ふっ、生きながらえるチャンスを上げたと言うのに、逃げ出さなかったのか、バカ共が」
「よそ見してんじゃねーぞ!」
ジルは体勢を戻すと、剣を片手に斬りかかり、先程の様にして再び2人が斬り合いを始める。
アイツってもしかしなくて、髪型を超気にするタイプだよな?と、戦いを横目に頭の中で考えを巡らすと。
「あの人って髪型が弱点ですよね?」
フィーエルが今まさに俺の考えていた事を言ってくれた。
「だよな、髪型が崩れた瞬間にゼスティが攻撃すれば倒せるかもしれないな」
「でも2発連続では撃てないぞ」
マジかって、そらそうか。魔法にもクールダウンくらいあるか。
「だな、どうすっかな、ってなんで俺の事を見るんだ!?」
フィーエルがジーっと俺の顔を見上げているので、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「お前まさか俺にラディッツ戦の悟空の様な事をさせる気じゃ!?」
胸に穴を空けられ、界王星で修行して仲間のピンチに駆けつける最高の主人公になれってか?
「違いますよ。前提で蒼河さんは地獄行きなので」
"行きなので"と言うが、確定している事なのか!?
「俺ってそんな悪行は積んで無いぞ」
考えてみても、ジルを脅したり、金を払わずに魔導者を盗んだことだけだよな?人とか殺してないし。
「人間性ですよ」
「うっ、そんなストレートに言わなくたって……」
人格否定!?そんなに破綻してないだろ。
「って、フィーエル早く教えろ。打開策か何かあるんだ
ろ?」
ゼスティが痺れを切らしたのか声を上げると、フィーエルが『えっへん』と腕を組みながら口を開く。
「それはですね、すばり―――」
フィーエルの声を遮り、分身丸の声が耳に届く。
「君の高い隠密を利用すればいいんじゃないかな?」
「マ、マジか、やっぱりそれしか方法がないのか……」
それは渋々自分でも思っていた事だった。俺の隠密を上手く使って近づいて何かしらすれば、アイツに大きな隙を作れる。
「わ、私の完璧な作戦を先に言われたぁ!」
フィーエルが頭を抱えながら悶えて、地面に腰を落とす。
「まあ、全員思っていた事だから、そこまで悔しがる事は無いぞ。次はもっと皆んなを驚かせる様な推理を見せてくれ」
ゼスティが慈愛に満ちた表情をしながら、喚く白髪の上に手を置くが。
「いやフォローになってないよ?」
はぁ、全くダメだな。女の子の扱いに慣れている俺が手本を見せてやろう。
「頭が残念なお前が、俺らと同じ思考に辿り着いた事にビックリだよ。だから泣くな」
「な、泣いてないもん!!」
フィーエルは感情が昂ると、敬語キャラを完全に忘れてしまうので、非常に分かりやすくて助かる。
「それこそフォローになってないぞ!?」
「お前に言われたく無いわ!」
と、ゼスティと俺の間にビリビリと電撃が走る。
「はいはい、2人共そこまでだよ」
分身丸が俺達の間に割り込んできたので、互いに威嚇を解く。
「それでどのタイミングで行けばいい?」
「ホーンは大技を出す時に長い溜めが入るんだ。その隙に髪型を崩して欲しいんだけど」
割と完璧な作戦だったのだが、分身丸はあまり明るい表情では無かった。
そりゃそうか、腐っても元同僚だもんな。躊躇いはあるのだろう。
「ごめんな、何から何までさ……」
自分の仲間を撃破する為の作戦を彼女に練らせている事と、自分達の無知への謝罪の意を込めて口に出すが、それを聞くと彼女の顔に光が差し込んだ。
「いやいや、パワハラやセクハラだったからね。清々するよ」
「よしっ!やっちゃいましょう!女の敵です!!」
さっきまで地面に伏していたフィーエルが、闘志を燃やしながら拳を突き上げる。
「びっくりした!」
「でね、ホーンの髪の毛って、普通の短剣とかでは傷がつかないんだよ。だからどうしよっかなと―――」
「あるじゃねーか!なっ、フィーエル!」
俺がフィーエルの肩に手を置きながら言うが、とぼけていると言うか、全く察しがついていない様子だ。
「えっ、私ですか!?」
コイツ自分の魔法の事をすっかり忘れているな。
「お前ハサミだよ。無限創造インフィニットだ!」
「あ、あぁ〜、そうですね。ありですね」
反応が薄いな。それとは真逆で分身丸と言うと。
「万物を創造出来る伝説の魔法が使えるの!?」
「ま、そうですね」
証拠となるであろう身分書を分身丸の前に渡すと『何でもありだね』と軽く呟く。
「って、大技を繰り出そうとしているぞ」
ゼスティが指差す方向を見ると、宙に浮いて、紫に発光した円形が徐々に質量を増やしている最中だった。
「おいフィーエル!早くハサミを出せ!!」
俺がそう言うと、フィーエルが魔法を唱え、激しい光と共にハサミが掌に出現すると、それを俺に手渡す。
相手はこっちに背中を向けており、紫の玉が轟音を発しているので、俺がバレる可能性は極めて低い。
そうして俺は、ホーンの背中に向かって飛び出した。
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