チート無し転移者の俺は、自慢の隠密を駆使してひっそりと便利屋を経営する!
玉五郎
第1話 不安な幕開け
公園に設置された緑色のベンチに腰を下ろし、真っ暗な空を仰ぐと、力の無い溜息を出す。
早朝から毎日のように満員電車に乗り、学校で寝不足の目を擦りながら授業を聞いて、再び電車に乗ると外は真っ暗、そんな生活を何年も続けていると流石に精神も摩耗してくる。
制服の胸ポケットからスマホを取り出し、液晶を見ると、時刻は十九時と表示されていた。
七時か、そろそろ夜ご飯の時間だな、帰らないと。
そして俺はベンチから立ち上がろうとするが、なかなか体が動かない。
あれ、もしかしてペンキ塗りたてだったとか?
俺は足を踏ん張って、やっとの思いでベンチから立ち上がると、それと同時にビキビキと嫌な音がする。
俺が振り返ってそこを見てみると、その予想は的中した。
ベンチには俺が座った所が、白い人型のシルエットとして浮かび上がっていた。
そういえばこのベンチ朝見た時は白色だったなと今更思い出す。
疲労を癒す為にやったことで更に面倒くさい事が増える。
家帰ったら制服洗わないとな、折角の休息の時間がこんな事に消費されると思うと辟易する。
俺は教材がぎっしりと入っているバッグを片手で持ち、家への帰路を進める。
疎らに配置された外灯が点滅して、不気味さを演出している。
しばらく夜道を進むと、背後から足音が聞こえてくる。
どうせランニングかなんかだろうと短絡的に考えていると、どんどん音が近く大きくなっていく。
そして最期その音は俺の背後まで来ると、音が無くなった。その代わりに背中へと激しい痛みが走る。
ドカッ!!
俺は地面へと倒れ込む。
痛い、苦しい、熱い、その事で頭が一杯になって思考が上手に働かない。
刺された、背中には何かが突き刺さっている様な圧倒的な違和感を感じる。
鉄の味がする液体が口元に届き、みるみる内に血溜まりが目の前に広がっていく。
しまいには尋常ではない眠気が襲ってくる。
よく冬山である、寝たら死ぬぞ!!という常套句が頭に浮かぶ。
やっとの思いで顔を上げると、男が走って逃げているのが見えた。
そうして俺は眠気に抗う事が出来ずに、そのまま意識はフェードアウトした。
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