第50話 王女様の捜索願い

ゼスティと2人で家路についたのだが、泥だらけの見た目が故に周囲の目線や声が痛く突き刺さる。


 進行方向の先に俺と同年代の男女がおり、俺の存在が目に入ると予定調和の様に口を揃えて話を始めた。


『あの人凄くヤバイんだけど……』


『見た目通りだろ?って、アイツこっち見てる!』


 俺の向ける視線に気が付いたのか、男女が道を開ける様にして広がるが、その横を通り過ぎた俺の背中に再び好奇の視線が注がれる。


「人気者だな蒼河は」


 男女の会話が耳に入ったのかゼスティは肘を使い、軽い調子で俺の横腹を突くのだが、やめて!その気遣い!惨めな気持ちになるから!


「そうだな、俺には民衆の視線を誘引するスター性があるようだぜ!」


 ポジティブに物事を考えよう!泥の物凄い臭いに興味を惹かれたのでなく、俺の圧倒的な人望に興味をそそられたのだと。


「そ、そ、そ、そうだな、蒼河の周りには素晴らしい人が集まってくるもんな!」


「やめてくれその反応は、無理にでも現実へと目を向けなければならなくなるだろ……」


 無理に取り繕った様子で話を合わせてくれるゼスティに言葉を返した後に考えてみたのだが、俺の周りにいるのって、割と抜けている奴しか居なくないか?


 元知恵の天使なのだが、肩書きとは正反対の残念な頭を持った堕天使と、妹の感情を取り戻すという主人公宛らの使命が有りながら、受付嬢とヌフフな関係にあるナンバーワン冒険者。


 それとゼスティは……お爺ちゃんもメッチャ良い人だし、俺に対しても気遣いが出来て優しいし、料理も出来るし、あと変な使命も宿命も無い!これといった欠点が無いだと!?まさに灯台下暗しとはこの事か!


「どうした俯いて、気分でも悪いのか?」


「それとは真逆だな何故なら―――ってお前、最後まで話しを聞けい!」


 オレ風に格好を付けて言葉を出そうと思ったのだが、

 そこにはもう彼女の姿は無かったのだが、その代わりに火に群がる羽虫の様にして群衆が1カ所に集まっているのが見えた。


『"王都アミュセル"の"アストレア王女"の保護だってよ、報酬はえっと……1億パルセ!?』


 1億という単語が届いた瞬間には、俺はもう群衆の1部になっていた。


 掲示板の様な物にそんな事が書き出されており、人混みをかき分けるというか、臭いのせいで勝手に散っただけなのだが、貼り出された物の前に俺とゼスティ2人だけになったので、改めてそれを見ると。


『王都アミュセルのアストレア王女の保護

 ・性別 女性

 ・外見 不明

 ・年齢 16

 ・身長 150から160

 ・BWH 不明

 ・最後に目撃された場所 王都アミュセル』


 最後のサイズはとてつもなく気になるが、取り敢えず置いておくとして、何故今更なんだろうか。単純に最近居なくなったとかだろうか?


 そんな事を考えている横で俺にも気が付かずに食い付いているゼスティに向かい、期待の目を向けて問いかける。


「もしやゼスティ、心当たりがあったりするのか!?」


「いいや、なんでもないぞ。帰ろう蒼河」


 返事は冷たくそれ以上言及する気が起きなかったので、俺が宿していた興奮は冷め、それを黙って聞き入れて帰路についた。




 便利屋に戻り、フィーエル達が無事に着いたか確認する為に2階の部屋にゆっくりと部屋に侵入ではなく、入ってみると。


 2人が心地良さそうな寝息を立てて睡眠をとっていた。


「おい蒼河、目つきがいやらしいぞ」


 俺の横に立っていたゼスティが呆れた表情をして切り出してきたので、飄々として答える。


「バカ言え、元々こんな目つきをしているぞ俺は」


「はぁ〜、ほら下に戻るぞ」


 軽く嘆息した後、俺の首根っこを引っ張って階段へと誘導されるが、突如目線の先にあった扉が開き、緑髪の少女が姿を現した。


「おはよう〜蒼河君とゼスティ」


 腕をグゥーット伸ばし、目に涙を浮かべながら俺達に足を進める。


「あっ!もう少し寝ていなきゃダメだぞ」


 と、駆け寄るが分身丸の静止を受けると、黙って後方へ下がった。


「大丈夫だよ、そうそうゼスティ。悪いけど彼と話しが有るから時間を少しくれないかな?」


 俺と2人で話しだと!もしや俺の始末とかか!?


「うん、了解だぞ」


 ゼスティはそう言うと、フィーエルが眠る部屋に入って行ってしまったので、実質2人きりになってしまった。


「それで分身丸―――」


 話しに入ろうと普段通りに名前を呼ぶと、俺の声がより大きい声量に掻き消された。


「忘れていたけど、僕の真名を教えていなかったね」


 確かに仮の名前にしても分身丸はダサいからな、そろそろ名前を教えて欲しい所なのだが……本名の事を真名と言う辺り、凄く意識が高いな……。


「おう、確かにあの時渋ってたもんな」


「それで僕の真名は"シアリーゼ"だよ、改めて宜しくね蒼河君」


「シアリーゼか、分身丸よりかはマシだな。それで本題は何だ?」


「いいや、何の変哲も無い自己紹介だけだよ」


 笑顔と共にスッと差し出されるシアリーゼの右手に、俺の左手に重ねると、グッと握手をする。


 シーーーーーーン


「って、長くない?というか痛いんだけど?」


 俺の親指と人差し指の間に入ったシアリーゼの指がツボをいい感じに痛み付けてくる。


「まだまだ!」


 握る手が更に強くなり、自分の顔が苦悶に染まって行くのが分かった。


「やはり君のその表情は最高だよ!」


 シアリーゼは俺が今まで見た事の無い最高の笑顔を浮かべていたが、理由が理由なので畏怖の感情しか浮かばなかった。   


 今更になって思い出したが、シアリーゼと初めて会った時に俺は関節技をキメられたが、よくよく思い返すとあれは演出でやっていた訳では無く、私利私欲を満たすが為にやっていたよな?……はぁ〜、気が付くのが今更だな、俺ってマジでうっかりさんダゾ!


「お、お前、俺が苦しんでいるのを見てェェェェ!愉しんでいるのガァァ"!!」


「これからずっと僕を満たしてくれよ蒼河君!」


 ゴキッ!


「イ"イ"ャ"ャ"ャ"ャ"ャ"ャ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」

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