第4話 娘さんを探そう!
あれ、見知らぬ天井にふかふかなベッド、そして俺を上から覗き込んでいる美女ではなく、残念ながらレイグさん。
「お気づきになられましたか」
体を起こし、額を触ると激しい痛みが波の様に走ってくるので、反射的に手を離してしまう。
ベッドに横たわっていたって事は、あの後ここに運ばれたんだろうなと平易な推理が出来る。
あれから10年も昏睡状態だったのよ!とか衝撃の展開は無さそうだ。
「うちの孫娘が申しわけないです」
「いや、覗き込んで見ていた俺にも過失はありますよ」
「覗き込み?」
「いや、なんでもないです」
俺とした事が、ついつい口が滑ってしまったぜ!滑らすのはギャグだけでいい。
「で、娘さんはあのままどこかに行ってしまったんですか?」
「はい、そのまま、街へ出てしまいました」
あんな感じで飛び出して行くって事は、追いかけてきて欲しいのだろうな。この街の事も知っておきたいし、土地勘程強い武器は無い。
街の地形を頭に入れるがてら娘さんを探しに行こう。
「俺、探してきますよ、レイグさんは店の番で居なくちゃいけないと思うので、俺が一番適任の筈です」
「本当によろしいのですか!?」
流石にここまで喜ばれるとは思わなかった、なら早速探しに行こうと言いたい所だが、俺はその娘の特徴を知らないので一応尋ねておこう。
「娘さんの見た目の特徴を教えて頂けないでしょうか?」
「特徴は、ミディアムの淡い金髪に透き通った紫眼で、足元にまで伸びた白いドレスを着ています」
金髪に紫の目で白いドレスを着ているのか、これだけ聞いてみるとお姫様みたいな印象を受けるな。
「じゃあ、行ってきます!」
ベッドから立ち上がり、レイグさんに背を向けて歩き出すと、後ろから声をかけられる。
「背中に穴が空いているので、これを着てください」
レイグさんが紺のローブを、ブレザーの上から被せてくれる。
着心地は悪くないと思うが、制服にローブとはファッションセンスの無い俺でも酷いと分かる。
よしっ!これで準備完了!俺は階段を降りて1階へ降りると、緑に塗装された扉を開けて外へ繰り出す。
扉を開けると、オレンジの夕日が俺を照らし、カラスの様な生物の鳴き声と、男の叫び声が聞こえた。
いい夕暮れだ、叫び声が無ければの話だが。
真横を見ると、先程酒場から吹き飛んできた巨漢を、小柄な男がボコボコに踏みつけていた。
「兄貴ィ、ごめんごめんよぉ!」
「俺が悪いィんだ!ゆるしてくれェ!弟よォ!」
泣きながらボコボコにしてるもんなんで、とにかく闇が深い、てか酒場から笑い声が聞こえるんだが……。
開幕嫌な物を見てしまったが、変な奴に絡まれる前に娘さんを探そう、それじゃあ最初は入り口付近にまで戻ってみるか。
俺は朝方に来た道を引き換えす事にしたが、人がごった返しており、人探しをしている場合ではない。
定期的に額へと何かが当たり、自然に声が出てしまう。
人混みにかき乱され、されるがままに進むと、辛うじて街の入り口まで戻ってこれた。
俺は額の汗を手で拭う仕草をしてしまい、無事にセルフキルをしてしまった。
「アガッ!痛いッ!」
俺の情けない声を聞いて、近くにいた仕事帰りの冒険者達が笑う。
ああ、凄く恥ずかしい、俺はハァと、大きな溜息をついて
大きな呼吸すると、ふと甘い食べ物の匂いが風に乗り、鼻腔を刺激する。
腹減った……てか、朝来た時もこんな事思っていたな、早い所見つけて、レイグさんの所に早く帰りたい。
とりあえず門の付近を見渡すが、鎧を着た男達が屯むろしているだけで、特徴にあった女性が見当たらない。
引き戻すしかないかないのか、気持ちが落胆して再び人混みを凝視していると、肩をポンと叩かれて真横から声が届く。
「おい、あんた珍しい服着てんじゃねーか、それ売ってくれよ、高く買い取るからよ」
横を見ると、あからさまに怪しい黒装束の男がいたが、今は金が必要なので。
「その話、詳しく聞かせてください」
俺は即答する、第一こんな服装のままだとこの世界に溶け込めないだろうし、ローブを着ているのに見抜くその慧眼、それに賭けようではないか、というのは建前で、腹が減ったので金欲しい。
男は俺が即答したのが意外だったのか、少し戸惑っている様子だったが、くるりと俺に背中を向けると、手招きしながら言った。
「じゃあ、ついてこい」
俺は一人でに進んでいく男の後ろをついて行くと、比較的新しい外観に、店内へ日光が入る様に数多に設置された窓硝子が特徴的な店の前まで来た。
「ここだ」
男がとぼとぼと、その外見に合わない程にフレンドーな店へ入るので、その後へ俺も続いて入る。
中を見てみると、色とりどりの布で出来たローブやマントが丁寧に積まれており、数人のお客さんがそれを吟味していた。
「査定をするのでそこで脱げ」
俺は言われるがままに、ローブの下に着ているブレザーからスマホを取り出し、履いていたズボンを脱ぐと、それを男に渡す。
パンツ一丁になるのが見苦しいと思ったのか、積まれてあった紺色の布で出来たズボンをとって、俺に履く様に促してくる。
ズボンに足を通すとサラサラとしていて、はき心地は案外良かった。
「背中に小さな穴が空いているが、それを除けばこれは高く付くぞ」
ブレザーを机の上に広げ、虫眼鏡で細かい縫い目を見ているので、その横にあった椅子に黙って腰を掛ける。
この世界の水準で見れば、化学繊維なんて物は未知の領域のなんだろうな、出来れば高額で買い取って欲しいが不明瞭すぎて安価になるとかいうオチはやめてほしいが、高く付くという言葉を信じてまっていよう。
そして俺は空腹と疲れに負けて、椅子に座ったままいつの間にか寝落ちしていた。
「おい、お前、起きろ!」
男の声が耳に刺さり、俺は渋々重い目蓋を開ける。
「これ全部合わせて1万エルだ」
この世界の貨幣はエルと言うらしいが、物価が分からないので大金なのかどうか分からないが、日本円だったら福沢さんなので、少しは気分も上がるのだが。
そして煌々と輝く金貨を一枚だけ俺に握らせてくると、態度が急に冷たくなる。
「そのズボンはおまけだ、ほら用は終わりだ、閉店時間だから出ていけ」
俺は弾き出されるように店の外へ出ると、布の繊維を潜って、冷たい風が肌を刺激する。
外は日がすっかりと落ちて夜だったが、現代社会では見れない満天の星空が広がっていた。
自分に星空で感動出来る程の心が残っている事にびっくりしつつ、単純に星空に心を奪われてしまう。
よし、屋台でこの金貨を使って買い食いするぞ!そう意気込んでいると、ふとある事を思い出す。
「あ、娘さん探すの忘れてた」
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