第52話 金の成る木

今日の夜に行われるパーティに向け、各々が準備を進めているのだが……。


「パーティーって言うには、やはり服装をビシッと決めなきゃいけないのかー?ここはいっちょ強烈な印象を残してみたいけどな」


 木製タンスの中を掻き乱しながら1人で呟くが、そこから出てくるのは年季の入ったジジくさいパジャマなどであるのだが、何故好青年である俺のタンスから出て来るのか、それはレイグさんのを拝借させて貰っているからだ。


 自分探しの旅に出てしまった老人を思い浮かべていると、


「下着泥棒はこちらですかー?」


 背後から声が刺さったので、こっちも冗談交じりの返答を返す。


「わざわざお前らが居る時間帯に盗むバカが何処に居るんだ?」


 そんな事言うと、フィーエルは露骨に顔を歪めながら口を開いた。


「蒼河さんって発言から行動の全てが犯罪者予備軍ですよね」


「バカ言え、俺はバリバリ1軍で活躍する現役のスター選手だぜ」


「一見冗談の様に聞こえますが、これはガチでやってるパターンですね。クスリやってそうなキャラで売っているのに、本当にクスリをやっているのと同じ奴です」


 分かる!人殺してそうな奴が本当に人殺しだったらキャラが崩れるもんな!


「それでお前は服どうするんだ?もしやプリティーでキュアッキュアッなゴスロリ着たりすんのか?それとも今の神様補佐みたいな服装のままか?」


 フィーエル自体が幼女っぽい見てくれをしているので、似合わない事も無いと思うのだが。


「飾らなくても私は元々可愛いのに、美しいドレスとかを身に纏って今以上に魅力が増してしまうと、男性諸君は内なる欲に抗えなくなってしまいましてですね、私のせいで前科持ちに!そんなの純朴な天使である私が許せる訳がありません。それらを加味してこのままで」


「金は?金貨なかったっけ?それで服を買えよ」


 依頼を解決した時に貰った金は何処に消えたのだろうか、まさかと思うが……。


「はい!あれはですね、カジノで消えました。でも、今私が手放したお金で誰かが笑顔になっているならば、それでいいんじゃないかと思うんです」


 片足でくるりと回転すると、悪戯な笑顔を浮かべる。いや、正しくは横領な笑顔だな。


「なにしてんだぁ!あの金全部使ったのか!?」


「テヘッ☆」


 舌をチョロッと出し、ごめんなさい!と言っては来るが、反省の色無し。反省していても許す訳では無いのだが。


「んじゃ、その金はパーティーで適当な一発芸でもして貴族から回収してこいよ?時間はたっぷりあるんだろ」


 ドスの効いた声で言ったつもりだったのだが、反応は思ったのと真逆であり、俺の発言に対して疑問を投げかけて来た。


「あれ?蒼河さんはもしかして、絵を見るだけのパーティーだと思っていらして?」


「違うのか!?」


 男女のペアになり、音楽に合わせてダンスしたりすんのか?


「絵はあくまでもおまけで、本来の目的はパールザニアの貴族達が親睦を深める為のパーティーだそうですよ」


「それじゃあ一発芸は出来ないな……。なんか売れる物はないか?」


「偉く切羽詰まってますね。何か有りましたっけ?」


「維持費だ、ここの街で店を経営していると月に銀貨10枚程の金が必要になるんだ。それが払えないと……お前のを担保に入れるからな」


 納期はあと3日後程であり、ゼスティは金貨が無くなっている事に気が付いていない。


「と"と"う"しましょう"!!」


 フィーエルは乱心をした様に店の中で暴れ始めると、ドン!本棚に頭をぶつけ、乱雑に積まれた本が一気に崩れる。


 フィーエルは膝辺りまでに積もった本を1つずつ手に取って本棚戻す作業を始めるが、数冊納めた所でこちらを振り返って涙目で助けを求めてきた。


「見てないで手伝って下さいよぉ〜」 


「あーはいはい」 


 黙って横まで行って1つの本を取り上げ、それをまじまじと見つめていると……。


「これだ!!凄まじい事を思い付いたぞ」


「どうしたんです!?」


 今俺の掌の上には、フィーエルが天界から持って来たであろうマンガの1巻が強く握られており、足下に散乱している他のマンガ達が今の俺には金の塊に見えた。


「何をするんです?」


 俺の動向に興味津々なのは悪いが、俺はこれを金に変えたりは出来ないが、金に成る木には変える事が出来る。


「これを貴族に売りつけるんだ」


「いきなりですね!?」


「おう、いきなりだな」


「え?でも日本語なので―――」


「今はそんな細かい事はどうでも良い」


 この世界には絵本という概念はあった筈だが、マンガという概念は無かった。


「売れる確証とかはあるんですか?」


「脅して買わせるだけでもいいし、最悪1冊買ったらチョークスリーパーを食らわせてあげるとかだな」


「それで喜ぶドMな貴族を探せと!?」


「そうだ!頑張れよ!」


 ガチャン!


「今の話聞かせて貰ったよ……」


 背後を振り返ると、店の扉が開き、眩い光と共にシアリーゼが店の中に入って来た。


 覚束ない足取りであり、俺達の目の前まで来るとピタッと足を止めた。


「あのさフィーエル……」


 地に這いつくばる様に重く、鋭利な金属の先端をなぞる様に冷たい声でフィーエルに矛先を向ける。


「ごめんなさぁい!!」


 フィーエルは金を使った事を言われると思い、先手必勝で謝罪をしたのだろうが、相手の反応は。


「へぇ!?ち、ちがうよ!さっきの話で言っていたチョークスリーパーを僕にやらせて欲しいなって」


「頼んだぞ、俺にやった時よりは抑えろよ!」


「今日の夜だったよね?」


 質問に対してコクリと頷く。


「蒼河君、練習させてくれないかな?」


 俺の肩に手を置くが、先の出来事から嫌な予感が頭を遮る。


「いや無理」


「ちょっとだけだから……ね?」


「無理デエエエエエス!!」

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チート無し転移者の俺は、自慢の隠密を駆使してひっそりと便利屋を経営する! 玉五郎 @sakazaki1306

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