第24話:直球ストレート

 キーコが俺の隣まで戻り、ウッドマンを操作していた。


「中にいっぱいゴブリンがいる」


 ウッドマンと視界共有しているキーコが状況報告をしてくれる。


 無数のウッドマンたちが洞窟の中に入っているので、中は大変なことになっているだろう。


 暇だ。


「そういえばアス子、アースゴーレムをウッドマンみたいに小さくできないー?」


 アースゴーレムはウッドマンの倍以上の大きさだ。


 これを小さく圧縮できれば高密度のアースゴーレムができるんじゃないかな?


「……!」


 アス子は「その手があった!」という顔でこっちを見ている。


 気づいていなかったようだ。


「さっそくやってみますー!」


 アス子は乗っていたアースゴーレムから降りて、新たにゴーレムの生成を始めた。


 場所が少し離れているからよく見えないけど、アス子と同じくらいの身長のアースゴーレムが生成されている。


 生成したゴーレムをさっそく洞窟の中へ突入させた。


「状況は?」


「生存者らしき人間を発見した」


 人間生存者ということは、あの冒険者の仲間かな?


「救助は?」


「今やってる」


「偉いぞキーコ」


 キーコを褒めるように頭を撫でた。


「ん」


「それにしても凄いな……」


 俺の周囲には細長い石の壁が無数に立ち並んでいた。


「シャトルと考案した防衛方法です」


 まるで背の高い墓標のように並び立つ石の壁を設置した御影が説明した。


「これでご主人さまの守りは完璧ですぅ~」


 何をしているのか分からないが、二人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。


「二人救出した」


 キーコのその言葉で洞窟の入口を見ると、ウッドマンたちがボロボロ姿の女性たちを運び出していた。


 救出されたのは二人の女性のようで、衣服はボロボロで酷い有様だ。


 多分急いで医者とかに見せたほうがいいかもしれない。


「アス子ー!」


「はーい!」


「アースゴーレムでその人たち街まで運べるー?」


「運べますー!」


「じゃあお願ーい!」


「分かりましたー!」


 アス子がアースゴーレムに飛び乗り、ボロボロの二人の女性をアースゴーレムの手のひらに乗せた。


 アースゴーレムが屈んだと思いきや、物凄い勢いで谷底から飛び出してきた。


「それでは行ってきます!」


 そう言ってアス子は全速力で街まで突っ走って行った。


 ボロボロな二人の女性たちは大丈夫かな……。


「……いない」


 キーコが何か不穏なことを呟いた。


 いない、というのは中にゴブリンロードがいなかったかな?


「何がいなかった?」


「ゴブリンロード」


 やっぱりかー。


「もしかしたら裏口から脱出されたかも」


「それは困るな……」


 右側で何かが折れる音がした。


 何かと思って振り向いてみると、矢が空中で真っ二つに折れていた。


「え?」


「ご当主様、敵襲です」


 御影が淡々と状況報告をしてくれた。


 矢の折れてる向こう側を見ると、崖上に弓を構えたゴブリンたちがいた。


 折れてる矢を見ると糸の様なものが光に反射して見える。


 ゴブリンたちが何か騒がしいと思ったら、弓兵ゴブリンを飛び越して無数のゴブリンたちが攻め込んできた。


 着地に失敗して倒れるゴブリンや足を折ったゴブリンがいるが、他のゴブリンはお構いなしに俺の元へ駆け寄ってきている。


 そして石が無数に刺さっているエリアにゴブリンたちが入ると──


 ゴブリンたちの体がスライスされていった。


 体をスライスされたゴブリンたちが倒れ、宙に緑色の血が滴り、落ちる。


「ふっふっふぅ~、そこから先は一歩も進ませないですよぉ~」


 シャトルが怪しげな笑みを浮かべ、両手を胸の前でクロスさせていた。


 その握られた手から糸のようなものが見える。


 つまり折れた矢もスライスされたゴブリンたちも、全てシャトルの力だ。


 道具屋で買ったシルバースパイダーの糸に魔力を流して強度と切れ味を上げて、御影の刺した石を利用して無数に張り巡らせているんだ。


「す、凄い……」


 素晴らしいコンビネーションプレイを見せられて、感動し過ぎて思わず声が漏れた。


 降りてきたゴブリンたちは一瞬戸惑うも、そのまま再び突っ込んできていたが、もれなくスライスされていく。


「あっ!」


 更に今度は杖を持ったゴブリンたちが崖上に現れた。


 ゴブリンたちが何か話してると思ったら、無数の火の玉がこっち目掛けて飛ばされた。


「問題ありません」


 そう言って御影がバカデカい石の壁を作り、全ての魔法攻撃を防いだ。


「ここからだとちょっと攻撃が届かないですねぇ」


 シャトルがしかめっ面で崖上を見ながら悔しそうにしている。


「ここからはキーコたちに任せて」


 キーコが何をするのかと振り向くと、谷底からスイ子さんと火子が飛び出してきた。


「遅れてごめんなさい~」


「この遅れは今すぐ取り戻します」


 二人が水と火の魔法を飛ばし、崖上にいた魔法使いゴブリンたちを次々に倒していく。


「ロード見つけた、崖上からこっちきてる」


 キーコの言葉で崖上を見渡すと、何かが飛び出してきた。


「戻りましたよーーーー!!」


 同時にアス子が街から戻ってきていたが、まだここまでの距離は遠い。


 ん? アースゴーレムが投球モーションをしてる?


 御影は再びバカデカい石の壁を展開している、が──


「うそぉっ?」


「くっ!?」


「え?」


 シャトルの糸と御影の石の壁が飛び出してきた何かに突き破られた。


 突破された個所からその何かと目が合う。


「ロード……!」


 俺は一目見てそいつがゴブリンロードだと分かった。


 ニヤニヤと汚らしい笑みを浮かべて俺めがけて剣を突き出してきている。


 無表情だったキーコの表情が目を見開いて絶望的な顔をしている。


 御影とシャトルも悲壮感漂う表情を俺に向けている。


 スイ子さんと火子はゴブリンたちを殲滅している。


 今の俺には全てがスローモーションに見えていた。


 俺、死ぬのかな。


 ゴブリンロードの剣が数センチのところまで迫ってきた。


 死──


「ドッカーーーーーーン!!!!」


 目の前でゴブリンロードの顔が変形した。


 アス子が物凄い勢いで殴ったからだ。


 その瞬間スローモーションが途切れ、等速の世界に戻ってきた。


「ふぅー、間に合ってよかったです!!」


 さっきのアースゴーレムの投球モーションを思い出した。


 そうか、アス子は自分を投げさせて突っ込んできたんだ。


「あ、ありがとう……死んだと思ったよ」


 ゴブリンロードがやられたことで、無数にいたゴブリンたちが散らすように逃げていったが、一匹残らずドールたちに倒された。


「ご主人さまは私たちが護ります!」


 アス子が胸を張って声高らかに勝利宣言をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る