第23話:突撃隣のゴブリンの巣

 道具屋を出ると、まだシロンとライネスが残っていた。


「……まだ何かあったかな?」


 二人がどうして残っているのか、なんとなく察しているが、一応その口から聞いておきたい。


「ゴブリンロード……本当に一人で行くんですか?」


 シロンが今にも泣きそうな顔をしている。


 会ってそんななに長くない俺の対してどうしてそこまで心配してくれるのか、俺には理解できなかった。


「オレたち冒険者はいつ死ぬかも分からない不安定な存在だと教えられてきた。だからこそ一回一回の出会いを大切にしていきたいと思っている」


 ライネスはシロンと違い、真剣な表情で俺を見ている。


 ライネスの言葉から察するに、死生観や価値観の違いなんだろう。


「二人が心配してくれてるのは嬉しいけど、大丈夫だよ。俺にはアス子たちみんながいるからね」


 大丈夫という根拠は薄いが、これ以上は重い空気にしないために明るく振舞ってみる。


「だからそんなに心配しないで欲しい」


「で、でも……!」


 これ以上口で語るより、見せたほうが早いかもしれないな。


「アス子、アースゴーレム出してくれる?」


「かしこまりました」


 俺の指示でアス子がアースゴーレムを生成し、周囲の視線を一気に集めた。


「こんな感じで他にも色々用意できるから、そんな簡単には死なないよ」


 そう言いながらアースゴーレムの手に乗る。


 二人は驚愕のあまり言葉を失っていた。


「それじゃ行ってくるよ」


 別れの挨拶を済ませ、アースゴーレムをアレムドの草原へ向かわせた。






 全速力のアースゴーレムによってあっという間にアレムドの草原に到着した。


 手で押さえてくれていたとはいえ、向かい風が半端なかった。


 髪がボサボサだ。


「よ~しよ~よ」


 スイ子さんが濡れた手で髪を整えてくれている。


 なんだか少しこっぱずかしい気分だ。


「あ、見えてきました!」


 アス子の指さす方向にはシロンたちと薬草を採った岩場があった。


 今はゴブリンの姿はないが、あの奥にいるのかな。


「よし、全員戦闘準備をお願い。アス子とキーコはゴーレムを作れるだけ頼む」


「分かりました」


「ん」


「ご主人様の護衛は自分にお任せください」


 御影石のドールである御影が名乗りでてくれた。


 何かあっても石でガードしてくれると思うけど、一人だけだと少し不安だ。


「それならうちも護衛いたしますぅ~」


 銀の糸束を持ったシャトルも俺の護衛をしてくれるようだ。


「ありがとう。それじゃスイ子さんと火子さんは中衛で、ゴーレムたちの援護をしてもらえるかな」


「分かりました~」


「了解しました、マイマスター」


 前衛はアス子、キーコと生成した数えきれないほどのアースゴーレムとウッドマンたち、それを援護するように中衛としてスイ子さんと火子、そして後方には俺と俺の護衛で御影とシャトルの布陣だ。


 ゴーレムたちを先頭にして暫く岩場を進むと、谷底のようにへこんだ場所があり、その奥の崖の麓に洞窟のような穴があった。


 穴の前には二匹のゴブリンが見張り役のように立っている。


 おそらくあそこが発生源だろう。


 何故なら谷底の広場には血痕が散らばっていたからだ。


 あの冒険者ギルドに戻ってきた人以外、みんな全滅して穴の中に連れ去られた可能性が非常に高い。


「アースゴーレムたちを先行させます」


 アス子の指示で十数体のアースゴーレムたちが次々に飛び降りていく。


 それに驚いた見張りのゴブリンたちが大慌てで穴の中に入っていった。


「ウッドマンたちも行かせる」


 更に無数のウッドマンたちも飛び降り、谷底の広場はゴーレムたちで埋め尽くされてしまった。


「もうあれでいいんじゃないかな」


「何か言いましたかご主人さまぁ~」


 シャトルが首を傾げてこっちを向いた。


「いや、なんでもないよ」


 穴の広さ的にアースゴーレムは入ることができない。


 ウッドマンたちなら入ることができるだろう。


 そのまま穴を埋めるもよし、火責め水攻めするもよしだが、もしかしたらまだ中に生存者がいるかもしれない。


 まだゴブリンたちが出てくる様子がないけど、もしかしたら別の出入り口があるのかもしれない。


 早めに突入したほうが良かったかもしれないな。


「キーコ、ウッドマンを中に入れて様子を探れる?」


「任せて」


 キーコの指示でウッドマンたちが列を作って洞窟の中に入っていった。


 鬼が出るか蛇が出るか……。


 まぁ小鬼のゴブリンが出てくるんだろうけど、あれだけ恐れられてたゴブリンロードだ。


 決して油断せずに詰めていこう。

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