第22話:道具屋でひと騒動

「二人ともどうしたの?」


「もしかして、ゴブリンロードの討伐に行くんですか……?」


 シロンがおそるおそるといった感じで聞いてきた。


 その表情からとても心配してくれているような気がした。


「……うーん、そうだね。それで道具屋で糸を買いたいんだけど、どこか良い場所知ってる?」


 二人ともかなり悲壮感溢れる表情だったから、ここは場を和ませようと明るく振舞ってみた。


「……こっちだ」


 ライネスは特にそれ以上は話さず、道具屋まで案内してくれるようだ。


 無言のまま移動を続け、道具屋の前に到着した。


 道具屋の位置は冒険者ギルドのすぐ目の前だったとは。


 冒険者ギルドに勝るとも劣らぬくらいの規模の建物だ。


「ありがとう、それじゃ行ってくるよ」


 二人にお礼を言って別れ、道具屋の中に入る。


 出入口のところには槍を持ったガードマンのような人が二人いた。


 道具屋の中はとても広く、冒険者たちで賑わっていた。


 いや、賑わっているというよりも、騒いでるようように見える。


「ポーションありったけ寄こせ!!」


「オイ!! こっちには薬草だ!!」


「解毒剤確保しろ!!」


 だがこの騒ぎは、ゴブリンロードが出たということで我先にとアイテムを確保しようとしている冒険者たちが原因だ。


 ドールたち全員入れると窮屈になりそうなので、アス子とスイ子さんとキーコとシャトルの四人で中を進むことにして、他のみんなは外で待機してもらうことにした。


「アス子とスイ子さん、キーコは俺の護衛で、シャトルは欲しい糸を見てもらう。ほかのみんなは外で待機しててくれ」


「分かりました」


 別れてから道具屋の中を進んでいき、カウンターの近くまでやってきたが、冒険者たちで溢れかえっていて近づくことができなくて困った状況だ。


「どうしよっか……」


「まかせて」


 キーコがしゃがんで床に両手をついたけど、一体何をするつもりだろう……。


 多分大丈夫だろうと見守っていると、床から蔓が生え、次々に冒険者たちを捕縛して吊り上げていった!


「うわっ!?」


「なんだこれ!?」


「魔物の襲撃か!!?」


「くそっ、離せ!!」


「アカン……」


「ん、今のうちに」


 キーコが無表情でサムズアップしてる。


「貴様、何をした!?」


 奥からガードマンみたいな人たちがやってきてしまった……。


「あー、いえ、これはー……」


 どうする、何かうまい言い訳を考えないと……。


「あ、そうです、今にも暴動が起きそうだったので、僭越ながら抑えさせてもらいました」


「…………」


 さっきまでの喧騒が嘘のように場が静まり返った。


 なんだか気まずい……。


「なんだ、どうした?」


 奥から更に人が現れたけど、今度はふくよかでいかにも商人といった風貌をした男だった。


 多分この人が道具屋の店長だと思う。


「おー、凄いことになってるなぁ」


 愉快そうに吊り上げられている冒険者たちを見ている。


「いいから早く降ろせ!!」


「そうだそうだ!!」


 再び冒険者たちが騒ぎ出してきた。


「ちょっとうるさいですね~」


 スイ子さんが指先を吊られている冒険者たちに向けると、次々に冒険者たちの顔を覆うように水の球体が現れた。


「ゴボア!??」


「ぼぼぼぼぼ!!?」


 ヤバイ、このままだとみんな窒息死してしまう!


「スイ子さんストップ、解放して!!」


「は~い」


 スイ子さんは微笑んだ顔を一切崩さず、冒険者たちの顔を覆っていた水玉を解除した。


 解除された水は落ちずに、そのままスイ子さんの指先へと吸収されていくのを見て、スイ子さんは起こらせないようにしようと静かに誓った。


「ふぅむ」


 店長風の男が値踏みするように俺たちを見ている。


 さっきまで騒がしかった冒険者たちは口をつぐみ俺たちを睨みつけている。


 早く終わらせてここを出ていきたい……。


「それで、君たちは何をお求めですかな?」


「あ、あー……えっと、なんでもいいので糸を下さい」


「糸ですか。それでしたらこちらがございますが、いかがでしょうか?」


 カウンターの下から銀色の糸束を出してくれた。


「これはシルバースパイダーからとれる貴重な糸で──」


「あ、それでいいです。いくらですか?」


「ふぅむ、銀貨五枚ですな」


 銀貨十枚。高いけど今は一刻もここから逃げだしたいから、糸だけに糸目をつけずに即金で支払う!


「分かりました、ではこれで」


 値段を聞いて素早く袋から金貨を一枚取り出して出した。


 店長風の男の視線が金貨袋を見て一瞬目つきが変わった気がするけど、多分気のせいだと思う。


「あ、釣りはいりません、それでは俺たちはこれで!」


 金貨を一枚支払い銀の糸束を手に取り、足早に道具屋を出ようとした。


「あ、お客様!」


 呼ばれて振り返ると、店長風の男が吊られている冒険者たちを見ていた。


「あ、ああ! キーコ、降ろしてあげて」


「ん」


 俺の指示でキーコが吊っていた冒険者たちを次々に降ろしていった。


 ものすごい形相で俺のことを睨んでくるので、空気に耐えられずその場から逃げるように出ていく。


「ふぅ……お待た──」


 外に出ると、待機していた火子たちの他に、シロンとライネスがまだ残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る