第21話:謎の信頼
「あっ、報酬!」
ギルドマスターの言葉の直後に報酬について話していないことを思い出した。
そもそも報酬の話をしないで受けてしまうのは良くなかった。
別にそこまでお金に執着している訳ではなかったから、そこまで気にしていなかったというのもあるけど、貰えるものはしっかり貰っておこう。
「おぉ、そうだったな。報酬の話がまだだったか、すまない」
ギルドマスターはスマンスマンと言った顔で報酬について触れた。
俺が言わなかったらこのまま無報酬だった可能性もあったかもしれないと思うと、異世界の厳しさを少し実感した気がする。
「報酬についてだが、前金で金貨百枚だそう」
「金貨百枚……」
それが多いのか少ないのかあまりピンとこなかった。
銅貨三枚くらいで一食くらいだけど、銅貨何枚で金貨になるのかを知らない。
銅貨の次は銀貨で、その次に金貨だとは思う。
だから金貨百枚という数は普通に考えたら多い数だ。
だけどクエストに対しての適性額なのかが分からない。
別にそこまで固執しているわけではないからいいけど、もしナメられて少ない報酬を提示されているとしたら、あまり良い気分はしない。
「依頼をこなしてもらえれば、更に金貨百枚出そう。金貨二百枚の仕事だ」
ギルドマスターは真剣な表情をしている。
そこから俺を侮ったような雰囲気は感じられなかった。
だけどギルドマスターという肩書を持つ人物が、そう簡単に分かるような人物でもないと思う。
「あの、ゴブリンロードってどういう魔物で、どのくらいの戦力とかおおよそのこととか分かりませんか?」
分からないことを埋めるためにギルドマスターから情報を引き出せるだけ引き出したい。
「……そうだな。ゴブリンロードはゴブリンたちを率いる領主と思ってくれていい。そして戦力だが、おそらくゴブリンの数は百から三百くらいだろう」
ギルドマスターは淡々と話してくれるが、俺には聞き逃せない部分があった。
「いやいや、一人で百体以上のゴブリンを相手にしろと?」
流石に百体以上を俺たちだけで相手にするのは……やれなくはないかもしれないが、一体何を考えているんだろう。
いくら俺がマスタークラスと呼ばれる冒険者だとしても、たった一人で行かせる内容じゃない。
「しかし君は『わかりました』と引き受けてくれたではないか」
ギルドマスターがニヤリと意地悪そうに笑みを浮かべている。
迂闊……!
よく知りもしないで契約を結ぶべきではなかった……!
「もし俺が死んだらどうするんですか?」
「君は死なないさ」
ギルドマスターは表情を変えずに俺を見つめている。
今までの流れから、ギルドマスターが俺を使い捨てにしようという雰囲気は感じられないし、ベテランの冒険者に向けるような信頼を俺に向けている気がする。
もしかしたらこのギルドマスターの美しさに俺が魅せられているのかもしれない。
「……はぁ。分かりました。行きますよ。薬草のあった岩場の奥でしたっけ」
これ以上の問答は時間の無駄だと思って話を進める。
「ああ、そうだ」
「これを」
ギルドマスターの横にいた男から袋を渡された。
男の顔は凄く嫌そうにしていた気がするけど、すぐに別のことに意識を持っていかれた。
「おっ?」
重ッ!? この袋には一体何が入ってるんだろう?
一度テーブルの上に袋を置いて中を確認すると、無数の金貨が入っていた。
「前金の金貨百枚だ。それで道具を整えるなりしてくれ」
「……俺がこれを持ち逃げするとは思わないんですか?」
「君なら大丈夫さ」
何の根拠もないはずなのに俺を信頼しているギルドマスターの目が妖しく光る。
「……分かりました。やれるだけやってみますけど、あまり期待しないでくださいね」
「ああ、君には大いに期待しているよ」
何を考えているか分からないギルドマスターと別れ、部屋の外に出た。
「本当によろしいのですか?」
男の声が扉の中から聞こえる。
わざと俺に聞こえるように話しているかな。
「彼はきっとやってくれるよ。ガーランドがあそこまで語った男だ。面白いじゃないか」
どうやらガーランドが何かを話したのかもしれない。
だからギルドマスターはここまで俺のことを持ち上げて無茶なクエストを寄こしたのかな。
そんな憂鬱な気分になりながらも、内心ではちょっとワクワクしている俺がいた。
喧騒の広がる冒険者ギルドのホールまで戻り、受付でクエストの手続きを済ませて外に出る。
「さて、これからみんなには大仕事をしてもらうことになるけど、大丈夫かな」
「お任せくださいご主人さま。ゴブリンの千や二千、私たちの相手になんてなりませんから」
アス子が両手をぐっと胸元まであげて自信満々に返してくれた。
「マイマスター、僭越ながらゴブリン程度なら誰か一人だけでも事足りるでしょう」
火子が真面目な顔で変なこと言ってる。
なんで君たちそんなに自信満々なんだ。
「あ、あのご主人さまぁ~」
クリーム色のふんわりした髪を揺らしながら、シャトルが申し訳なさそうにしている。
「うちは糸がないと戦えないのでぇ~、もしよければ糸を買い与えていただけると大助かりですぅ~」
「魔力で作ったりはできないの?」
「うちができるのは糸に魔力を付与して変化させることなのでぇ~、元となる糸がないと何もできない役立たずなんですぅ~」
「なるほど、分かった。道具屋にあれば買っておこう」
「ありがとうございますぅ~」
シャトルが深々と頭を下げている。
どうにもドールたちの挙動に未だ慣れない俺がいる。
これが人の上に立つ者の宿命なのだろうか……。
そんなアホなことを考えながら道具屋を探そうとしたけど、どこにあるかサッパリ分からない。
ギルドマスターに場所を聞いておけば良かったと後悔。
「ケイトさん!」
そんな後悔をしていた後ろから名前を呼ばれた。
この聞き覚えのある声は……。
「シロン」
振り返るとシロンとライネスがいた。
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