第20話:新たなるクエスト

「なんだなんだ?」


 冒険者風の男が叫んだことでギルドの出入り口に注目が集まる。


 その男はボロボロで、矢が刺さった腕を抑え、頭からも血を流していた。


「……アレムドの草原にッ、ゴブリンロードが出たッ……!!」


 そう言って男は倒れ込んだと同時に、ギルド内に怒号が飛び交った。


 ギルド職員が駆け寄り男性を運んでいく。


「オイ! マジかよ!?」


「ガーランドたちはどうした?!」


「あいつらまた別の任務に行ってるぞ!!?」


 俺たちがクエストに行ってる間にガーランドたちもクエストに出てしまっていたようだ。


 ガーランドの名前が真っ先に出たということは、あのランクの冒険者じゃないと困難なクエストなんだろう。


 ガーランドたちを抑えたアス子たちならやれる可能性はあるけど、ゴブリンロードというのがどれくらい強いのか分からないから、もしかしたらアス子たちでも返り討ちに遭ってしまうかもしれない。


「ど、どうしよう……!?」


「……」


 シロンは泣きそうな顔になり、ライネスも苦しそうな表情をしている。


 それだけ凶悪な相手なのか……。


「ギルドマスターが出てきたぞ!」


 ゴブリンロードが出たという情報だけど、これだけ周りが焦っているということはこの街に攻め込んでくる可能性がある?


 それならこの二人を連れて森の奥まで逃げるという手もあるけど……。


「ケイト」


 ライネスに名前を呼ばれ思考を中断して顔を見上げると、ライネスが俺の横を見ていた。


 誰かが立っていることに気づいたので振り向くと、ギルドマスターのアーラシュア・ホンミール


「君に話がある。来てもらえるかな?」


 ギルドマスターの後ろにはギルドの制服を着た体格のいい男たちがいる。


「ご主人さまに何か御用ですか」


 珍しくアス子が割って入ってきた。


 アス子も何か危機的なものを感じ取ったのかもしれない。


「クエストについて相談したいことがあるんだ。来てくれるな?」


 ギルドマスターは目を細め、妖しく俺を見つめている。


 そのただならぬ雰囲気に逃げ出したくなったけど、多分後ろの男たちが俺を捕まえようとするかもしれない。


 そうするとアス子たちが抵抗を始めると思うから、この辺りが大変なことになる様子が容易に想像できてしまった。


「ア、アス子、ストップ。分かりました、話を聞きます」


「ありがとう。それではついてきてくれ」


「ごめん二人とも、そういうことで行ってくるよ」


「あっ……」


 シロンが伸ばした手をライネスが掴み首を振っている。


 多分話はゴブリンロードについてだと思うから、二人はこれ以上俺に関わらないほうがいいと思う。


 だからライネスの反応は助かった。


「それじゃ、パーティー楽しかったよ」


 そう言って席を立ち、ギルドマスターのあとをついていくことにした。


 周囲の視線が俺とギルドマスターに集まる。


 周りと視線を合わせないよう、ギルドマスターの後ろ姿だけを見て集中して歩く。


 早く部屋に辿り着きたい気持ちでいっぱいだ。


 そうしてようやくギルドマスターの部屋へたどり着き、ソファーへと座った。


「ふぅ……」


「急に呼び出してすまないな」


 ギルドマスターも対面に座り、両手を組んだ。


「あの、もしかしてゴブリンロードの件ですか……?」


 ギルドマスターはニヤリと笑みを浮かべた。


「察しがよくて助かる。君にはゴブリンロードの討伐を依頼したい」


 ですよねー。


「……まだ駆け出し灰色冒険者なんですけど」


「君の腕はウチの職員が見ていた。君ならそのポテンシャルを発揮して対処することができると私は踏んでいる」


 薬草クエストの一連の動きを見られていたらしい。


 これは下手に隠し立てしても意味がなさそうだ……。


「いやでも、なんか凄そうな規模ですし、そういうのって国とかが兵士出したりしないんですか?」


 しかしなんとかクエストを避けたい俺は逃げ道を探す。


「マスタークラスの君が還らぬ人になってしまったら国が動くだろうな」


 ギルドマスターは意地悪そうにそう言い放った。


「……ですがあの男性が言ってたことが本当か分かりませんよ? もしかしたら──」


「あの者たちにはゴブリンロードが存在しているかどうかの調査を依頼していてな。最近ゴブリンの数が増えて薬草クエストの難易度が上がっていると聞く」


 そのギルドマスターの言葉で、ライネスたちの言葉を思い出した。


「……つまり、ゴブリンたちが増えたのはゴブリンロードが現れたからですか」


「そういうことだ。場所は薬草のある岩場の更に奥のはずだ」


 この流れは俺が行くこと決定の流れだな……。


「行ってくれるな?」


 正直行きたくないし、どうして俺が行かないといけないのかと言いたくもなったけど、冒険者ギルドの所属して、マスタークラスという力を持っているから仕方ないか、と自分を言い聞かせて言葉を飲み込んだ。


「分かりました……」


「おお! そうかそうか! ありがとう! 君なら完遂できると信じているよ!」


 半ば脅された形ながらも、俺はゴブリンロード討伐のクエストを受けてしまった。

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