第3話:ウッドドール

 再びアス子に地面を盛り上げてもらい、高所からの周辺調査をしていた。


「ご主人様~、あの木何か変じゃありませんか~?」


 すると新たに作り上げたウォータードールのスイ子さんが、おかしな木を見つけたと報告してきた。


 指さす方向を見てみると、確かに一際大きく、赤い実をならして葉の色や種類が違う木があった。


「あそこまで移動してみよう」


「分かりました」


「は~い」


 アス子の作り上げたアースゴーレムで問題の木の場所まで移動する。


「アス子、このゴーレムは本当に便利で助かるよ、ありがとう」


「ありがとうございます。全てはご主人さまのためですので、喜んでもらえて嬉しいです」


 実際このアースゴーレムのおかげでかなり移動時間を短縮できている。


 四十キロくらい出ているんじゃないだろうか?


 それくらい早いので、移動手段には欠かせない存在だ。


 そしてあっという間に問題の木までたどり着いた。


「アス子はアースゴーレムたちに周辺の警戒を。スイ子さんもお願いします」


「分かりました」


「は~い」


 これでまたいきなり狼とかに襲われるということはないだろう。


 狼といえば、あの死んでいた個体でもドールクリエイトできたのだろうか。


 狼のドールがいれば探索がかなり楽になりそうなので、今度見つけたら試してみたい気もする。


 だが今は目の前の大木だ。


 太さが明らかに他とは違う。


 2倍くらい違う。


 色も焦げたような茶色で力を感じるし、葉も大きくみずみずしい。


 赤いリンゴのような木の実がなっているが、食べるのはちょっと怖い。


 丁度良い機会なので、この木でドールクリエイトをしてみる。


 木の幹を両手で押える。


「……ドールクリエイト!」


 今まで同じように魔力が抜けていく感覚がやってきた。


 気分や体調に変化はないので、まだまだ問題はなさそうだ。


 木がベキベキと折れるような音を出して形を変えていった。


 そして今までと同じように人の形をかたどっていくのだが──


「おはよう。マスター。命令を」


 俺の両手の先には、メイド服を着た小さな幼女が収まっていた。


 幼女の肌は褐色で、髪は黄緑色のセミロング。


「あら~、かわいい女の子ですね~」


 こっちの様子が気になったのか、スイ子さんが近寄ってきた。


「と、とりあえず紹介しようか……」


 俺は幼女をそっと地面に下ろし、アス子を呼んだ。


「えーっと、この子が新しいドールでー……名前は、キーコでどうかな?」


 木から生まれた女の子だからキーコ。


「キーコ、わかった」


 大丈夫そうだ。いや、断るパターンはあるのか?


「私はアス子です。よろしくね、キーコ」


「よろしく、アス子」


 アス子が腰を落として目線を合わせキーコと握手をしている。


 アス子の優しい一面が見れた気がする。


 そこに同じようにスイ子さんが地面に膝をつき、キーコと握手をした。


「わたくしはスイ子です~、キーコちゃんよろしくね~」


「よろしく、スイ子」


 挨拶が終わり、キーコが振り向いた。


「マスター、キーコはなにをすればいい」


 生まれたときからずっとキーコは無表情だが、これも個性だろうか?


 口数も少ない気がするが、特に問題はなさそうだからいいか。


「うーん、キーコには──」


 俺がどうするか悩んでいるとキーコの目が見開き、左手を横にかざした。


「ウォ~タ~カッタ~」


 それと同時にスイ子さんが、水の刃をキーコのかざした手の先に放っていた。


「ギュッ!」


 何かの呻き声が聞こえた。


 何事かと見ていると、植物の蔦が縦に真っ二つになったムカデを持ってきた。


「敵、いた」


 どうやらその蔓はキーコが操っていた物で、さっきの動作で捕まえていたようだ。


「キーコちゃんナイスです~」


「スイ子もナイス」


 スイ子さんはキーコの頭を撫でて、キーコはサムズアップでスイ子を褒めた。


 一瞬で捕獲したキーコも凄いが、真っ二つにしたスイ子さんも凄い。


「ここ危険。キーコも人形出す」


 そう言うと、キーコが四つん這いになった。


「メイク、ウッドマン」


 その声とともに、地面から蔓が生え、太くなり、やがて木へと変化して、最終的に人間サイズの人型になった。


 アースゴーレムならぬウッドゴーレムといったところか。


 木でできた体なので弱そうに見えるのだが、アス子のアースゴーレムの件もあるので、見た目だけでは判断できない。


「これだけあれば大丈夫」


 キーコは立ち上がり、満足そうにふんぞり返っていた。


「あーもうー、汚れてますよ」


 服に着いた土をアス子が払ってあげている。


 まるで姉妹みたいだと思ったが、あながちそれでも間違いではないのかもしれない。


 おっとりした長女がスイ子さん、しっかり者の二女アス子、放っておけない三女キーコ。


 まだまだドールは増えることになるだろうけど、みんな仲良くしてくれるといいな。


「これでよし……。ご主人さま、次はいかがなされますか?」


「そうだな……」


 キーコ以外は特に変わった物が見つけられなかったので、ここは一度川まで戻るべきだろう。


「一度川まで戻ろう」


 アースゴーレムに乗って川まで戻ってきた。


「降りるときに気をつけてくださいね」


「ふふふ~、里帰りですね~」


 スイ子さんがボケてるのか天然なのかよく分からないが、見ていると和む気がする。


「マスター、ここで暮らすのか?」


 キーコが俺の隣に立って見上げている。


「ここで暮らすって言っても家がないからなぁ」


「わかった。アス子、スイ子」


「なぁに? キーコ」


「どうしたのかしら~?」


 三人が集まって何かを相談しているが、その内容は俺には聞こえなかった。


 そして相談が終わったと思いきや、キーコが四つん這いになった。


 キーコの両サイドにはアス子とスイ子がしゃがみこみ、両手を地面についている。


「キーコたちが家作る」


「え?」


 そう言うと地面が揺れ、さっきよりも多く蔓が生えてきて、次々に丸太になっていった。


 そしてそれはキーコの操作で次々に組み上げられていき、あっという間に家の形を作っていく。


「できた」


「できたました!」


「できました~」


 そうして立派な二階建てのログハウスが完成した。


「うん、お疲れ……」


 俺はもう驚かない。


「中に入ってみて」


 キーコに手を引かれてログハウスの中に案内された。


「おぉ……」


 中にはとても急造の建物とは思えないほどしっかりしていて、既に椅子やテーブル、キッチンなどが設備されていた。


 蛇口やシンク、それらも木製で作られているようだ。


「これ、水でるの?」


「試してみて」


 キーコに促されるまま、木製の蛇口を捻った。


 すると水が勢いよく流れた。


「え、す、凄いぞこれ……」


 もう驚かないと決めていた俺だったが、まさかの出来事に驚かされてしまった。


「水はわたくしが川から引っ張りました~」


「私とキーコで協力してろ過機構を作ったので、そのまま飲める水になっています」


「二人のおかげ」


「排水機構もしっかりできていますので、川を汚すことなく循環させています」


 アス子の説明を聞きながら、両手に水を溜めて、口に運んだ。


「んぐ、んぐ、んぐ……ハァーーーー!! 美味い!! みんな、凄いぞ!!」


「イエーイ!」「いえ~い」「イエーイ」


 三人が笑顔でハイタッチしている。


 このドールクリエイトという力、思っていたよりもかなりとんでもない力だった。


 これを駆使すれば夢のオートライフもすぐに実現できそうだ。


 自分が何もしなくても誰かが何かをしてくれるので生きていける、そんな夢のような生活を目指して、俺はここでの生活を始めることにした。


「「「ご主人さま、なんなりとご命令ください」」」


 アス子たちは満面の笑みでそう言った。

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