第13話:冒険者ギルド
街へ向かうことにした訳だが、ドールたち全員がついていきたいと話し、どうするか悩んでいた。
「私のアースゴーレムとキーコのウッドマンたちで防衛は十分かと思います」
アス子がそう提言して、火子がそれに続く。
「マイマスター、ウィルオーウィスプを出しておきますので、これで防衛戦力は申し分ないかと思われます」
火子の体から、サッカーボールほどありそうな大きさの火の玉が次々現れ、家を囲んでいった。
均等に距離を保ち家を囲む火の玉の姿は頼もしく見えた。
「分かった、みんなありがとう」
東西南北の位置にアースゴーレムが三体ずつ配置され、ウッドマンたちはニ十体ずつ配置されていた。
正直言って過剰戦力だと思った。
「これだけいれば安心」
キーコは無表情でサムズアップしている。
「はは、ありがと……」
準備もできたので、冒険者たちのガーランドたちが待つ場所で行く。
「お待たせしました」
「あ、あぁ……この家には何か隠されているのかね?」
ガーランドが苦笑いで話しかけてきた。
ガーランドなりのジョークなのかもしれない。
「何もないですけど、この家自体が俺にとっての宝物みたいなものですからね」
アス子とスイ子さんとキーコが俺のために作ってくれたこの家を、俺は大切に思っている。
「それじゃあアースゴーレムに乗っていきましょう。ガーランドさん、案内をお願いします」
「分かった」
アス子にアースゴーレムを四体用意させて、二体を冒険者チーム、もう二体を俺たちが分けて乗ることにした。
「それではここから向こうの南を目指してくれ」
「分かりました、アス子、ガーランドの指示に従って進んで欲しい」
「かしこまりましたご主人様」
アースゴーレムがゆっくりと足を進め、徐々にスピードを上げていき、凄まじい向かい風に襲われる。
道中何かモンスターのようなものを見かけたが、アースゴーレムが文字通り蹴散らして進んだので、特に戦闘などは起こらず、無事に街の近くへたどり着いた。
「ここで止まってくれ!」
ガーランドの指示でアースゴーレムたちが減速して止まった。
「これ以上進むと魔物の襲撃だと思われ迎撃されてしまうだろう」
ガーランドの言う通りだと思い、アス子にアースゴーレムを戻すように指示を出す。
「このアースゴーレムしまえる?」
「はい」
アス子が両手を地に着くと、アースゴーレムたちの形が崩れ、そのまま土へ還っていった。
アースゴーレムがいた場所は、何の違和感もなくただの土道として見えるので、ここにアースゴーレムが還ったと言われても気づかないだろう。
「ありがとう」
アス子に礼を言ってガーランドの指示を待つ。
「配慮に感謝する。それでは出発しよう」
「はぁ~、アースゴーレムだっけ、あれ便利で良いわよねー」
魔法使いのミザリィが羨ましそうにボヤいた。
「移動が楽なので、これなら街と家を行き来することも簡単ですね」
そこまで口にして、アースゴーレムの移動はこの世界の流通事情を変えかねない代物だということに気づいてしまった。
「あの危険な森を難なく行き来できるというのは非常に大きなことです」
金髪剣士のジェスが真面目な顔で考え込んでいた。
「それ故危険すぎる存在だ」
エルフで弓使いのティグレスが相変わらず睨んでくる。
「で、でもその危険な人を仲間にできれば、かなり心強いのではないでしょうか?」
白いローブを被ったヒーラーのリリンがおずおずと口を挟む。
「本当に味方になってくれるならな」
黒いローブを着用している魔法使いのローランドも、ティグレス同様俺に鋭い視線を向けてくる。
「アンタたちまだそんなこと言ってんの?」
呆れたようにミザリィが口にした。
そんなやり取りをして暫く進んだところで、街の門が見えてきた。
門は灰色の石造りで、それに連なるように同じ材質の壁が街を囲っていた。
門前には街へ入るために並んでいる人たちがいたが、俺たちはそれを素通りして門番の前までやってきた。
入場待ちをしている人たちの視線が痛い。
「勤めご苦労、私たちは例の調査を終えて戻ってきたのだが、先に通してもらってもいいかね? 後ろの彼らは重要参考人だ」
ガーランドがポケットからカードのような物を出して門番に見せている。
「は、はい! どうぞお通りください!」
門番は血相を変えて道を開け、俺たちはガーランドに続いて門の中へ入っていった。
「おぉー!」
門を抜けたその先で見た光景に俺は感動していた。
地面は石畳で舗装され、武器を携え鎧を着ている人たちや、ミザリィやローランドみたいな魔法使いのような人たちが街を歩き、漫画やアニメで見るような中世のような街並みに感動した。
「まるで田舎者ね」
ミザリィが口元を隠しながら笑いを堪えて俺を見ている。
確かに今の俺は田舎から都会にやってきた田舎者に見えるかもしれない。
「いやぁ漫画やアニメで見るような街並みを実際に見られるなんて、感動しちゃいますよ」
「あにめ?」
俺の言葉の意味を理解できなかったミザリィが首を傾げている。
「あぁ、文献でしか見たことがないって言ったほうが伝わりやすいかな」
「冒険者ギルドはこっちだ」
ガーランドが歩きだし、冒険者ギルドへ向かいだした。
俺は見るもの全てが新鮮で楽しく、テンションが上がりっぱなしだった。
「テーマパークにきたみたいだ、テンション上がるな~」
道幅はかなり広く、馬に引かれる馬車が前からやってきた。
道の右側によって走っているということは、日本と同じ左側通行なのだろうか。
金の細工で装飾された奇麗な馬車とすれ違っていく。
(きっとあの中に貴族とかがいるんだろうなぁ)
右側には露店が野菜や果物を売り、とても活気のある場所だった。
そんなこんなで色んな物を見ながら足を進めていると、ひと際大きな建物の前までやってきた。
「ここが冒険者ギルドだ」
木材と石材を合わせて作られたような建物は年季が入っていて、ワクワクのあまり心臓が破裂しそうになった。
「あの、大丈夫ですか?」
リリンが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「あ、はい、ちょっと興奮しすぎちゃって」
「アンタほんとに変わってるわね。それじゃ入るわよ。戻ったわよー!」
ミザリィが先に中に入り、それに続いてガーランドと俺たちも中に入る。
「お、おい、やつらが戻ってきたぞ!」
「ほとんど無傷で戻ってきてるってことは、水龍はどうなったんだ?!」
「あの後ろのやつはなんだ?」
「あのメイド一人くらいくれないかな……」
冒険者ギルドの中は広く、まず入口から広場になっていて、丸いテーブルがいくつも置かれ、それを囲うように冒険者たちが座っていた。
壁にはクエストの依頼が張ってるのか、大量の紙が貼られていた。
二階もあり、見える範囲では下と同じように丸いテーブルを囲って冒険者たちが座ってる。
そしてその下、入口からまっすぐのところに受付カウンターがあった。
そこで冒険者たちがクエストのやり取りをしていたのだろうが、今は動きが止まっている。
全員が静まり返って俺たちに注目していた。
ガーランドは気にせず受付まで進み、俺も後へ続く。
「ギルドマスターは?」
「は、はい! 少々お待ちください!」
受付の女性は慌てて立ち上がり、奥へと姿を消していった。
「なんか凄い注目されてませんか?」
小声でミザリィに聞いてみる。
「当たり前じゃない。私たちは冒険者ギルドで最強のパーティーと言われてるくらいなのよ? それが水龍の調査から戻って、アンタみたいな面白人間とメイド姿の女の子を沢山連れてくれば、そりゃみんな興味しかないでしょ」
「街中でもかなり注目されていましたよ」
ミザリィとジェスが教えてくれた。
どうやら俺は俺が思っている以上に注目を浴びる存在だったようだ。
奥から受付の女性が小走りで戻ってきた。
「お待たせしました。こちらへついてきてください」
受付の女性に案内されてカウンターの奥へ入り、大きな扉の前まで案内された。
「入ります」
ガーランドがそう言って扉を開けて中に入る。
俺たちも中に入ると、紫色の長い髪の女性が立っていた。
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