第16話:さっそくトラブル発生

 声のしたほうへ振り向くと、火子の前に男たちが這いつくばっていたのが見えた。


(これは、何かトラブルになったな……)


 俺は嫌な予感がしながらもその様子を見守った。


 もしそこで男たちが引いてくれればそれでいいし、まだ続きそうなら出て話すつもりだ。


 他のドールたちは目を閉じたまま動いていない。


「てめぇ……! オレ様にこんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」


 這いつくばったまま声を荒げるそのリーダー格のような大男は、俺たちが冒険者ギルドに入ってきたには見かけなかったやつらだった。


「その汚らわしい手でこの身に触れるな。灰にされなかっただけありがたいと思え下種が」


 ギルド内は静まり返っていたので、火子が男を見下した発言をしていたのがよく聞き取れた。


(アカーーーーーーン)


「……」


 火子と目が合う。


 俺は思いっきり首を横に振って穏便に済ませるように意思疎通を図る。


「……」


 火子はコクリと頷き、手の平に火球を生成した。


「マイマスターからの命令だ。貴様は塵も残さん」


「違うからーーーーーー!?」


 火子の謎解釈に俺は慌てて止めに入った。


 床に蹲っている男たちと目が合う。


「テメェかぁ……!」


 俺は大振りで首を横に振る。


 リーダー格の男の殺意に溢れた瞳に、視線だけで殺されそうになる。


「何をしている!!」


 ハッとなって声のした二階部分を見る。


 するとガーランドがこっちの異変を察知したのか止めにきてくれたようだ。


 ガーランドが二階の手すりから飛び降りてきた。


 その姿さながら洋画のヒーローのように見えた。


「またお前か、ブルック」


 ガーランドはブルックと呼んだ大男へと寄っていった。


「チッ……」


 ブルックと呼ばれた大男はバツが悪そうにしている。


「彼女たちに手を出したのか」


「テメェには関係ねぇだろ」


「彼女たちは私の関係者だ」


「そうかよ」


「彼女たちに手を出せばどうなるか、身を持って理解できただろう。これに懲りたら二度と手出しはするな」


 ガーランドが格好良く釘を刺してくれている。


「チッ、行くぞお前ら」


 ブルックは仲間を引き連れて冒険者ギルドから出ていった。


 ガーランドがいなかったから一体どうなっていたか、考えるだけでゾッとした。


「アス子、ちょっとここにいてくれ」


「はい」


 アス子に列に残ってもらい、ガーランドに小走りで駆け寄った。


「すみませんガーランドさん、ここでも助けてもらってしまいましたね」


「気にしないでくれ。ここで彼女たちに暴れられたら一大事だからな」


 ガーランドは肩をすくめて冗談めかして言った。


「本当は俺が解決しなきゃいけないことだったのに、ありがとうございます」


「ブルックは青色ランクの冒険者だ。実力はある。だが危険な奴でもあるからブルックには気をつけてくれ」


「はい」


「では君の幸運を祈っているよ」


 それだけ言うと、ガーランドは二階へと戻っていった。


「申し訳ありませんマイマスター」


 火子が頭を下げている。


「火子、怪我とか大丈夫?」


「はい。腕を少し掴まれた程度でしたが、皺ひとつありません」


「無事ならよかった。だけど無暗に人を殺そうとするのは止めて欲しい。大問題になりかねないから」


「以後気をつけます」


 ブルックというあの大男にはこれから気をつけるべきだろう。


 多分目をつけられたので、クエスト中に闇討ちをされるかもしれない。


 ドールのみんななら大丈夫だと思うけど、それでも油断しないように気をつけていこう。


 火子と別れ、アス子のいる列へと戻った。


「おかえりなさいませご主人さま」


「ただいま」


 冒険者ギルド内は再び活気を取り戻し喧騒に包まれる。


 そうして列が進み、俺たちの順番がやってきた。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


 最初に対応してくれた人とは違う受付のお姉さんがカウンターの向こうに座っている。


 カウンターの上には黒い長方形の箱のような物が置かれているが、何に使うのか全く予想できない。


「えっと、文字が読めなくてクエストが分からないんですけど、駆け出しの俺で受けられるクエストってありますか?」


「失礼ですが、冒険者カードを拝見させてもらってもよろしいでしょうか?」


 受付の女性に言われ灰色の冒険者カードを提示した。


「……灰色の冒険者カードですと、まずはアレムド草原でアレムドの薬草を十個集めるクエストになりますが、よろしいですか?」


 受付の女性はカードを見て少し眉が動いたが、特にクラスに触れることなくクエストの話をしてくれた。


「はい、問題ありません」


「それではこちらに冒険者カードと右手を乗せてください」


 受付の女性が黒い長方形の箱を指している。


「これは?」


「これは不正を防ぐ魔道具になっております。冒険者カードの持ち主ではない者がカードを使用しようとすると、警報が鳴る仕組みになっています」


「なるほど……」


 言われた通りに冒険者カードと右手を置いた。


 すると箱の中で白い光が波打った。


「はい、これでクエストの受付が完了となりました」


「あ、もう終わりですか」


 あっという間にクエストの手続きが終わったことに少し拍子抜けだった。


「はい。それではクエストの完遂をお祈りしています」


 受付の女性はそう言って頭を下げた。


 しかし俺は重要なことを聞いていない。


「あ、あの、薬草って、どんな物なんですか……?」


「それを調べて入手するのが冒険者の仕事となりますので、頑張ってください」


 受付の女性は笑顔でそう答えてくれた。


 おそらくこれ以上聞いても教えてもらえないと思い、俺はどうしたものかと冒険者カードを受け取り、受付から離れてドールたちのいる場所へ戻った。


「みんなごめん、結構待たせちゃったね」


 待機していたドールたちは無言で頭を下げる。


「あ、あぁ、ここじゃ目立つから外に出よっか」


 周囲の視線を集めながら俺たちは冒険者ギルドの外へと出た。


 邪魔にならないように入口から離れた場所に陣取り、これからのことを説明する。


「それでこれからなんだけど、アレムドの草原でアレムドの薬草を十個集めるんだけど、その草原の場所や、その薬草がどんな形をしてるのかも分からないんだよね」


「ガーランドさんたちに聞くのはどうでしょうか~?」


 スイ子さんが間延びした喋り方で提案してくれた。


「さっきの今でまた頼るのはちょっとね……」


 あの後にまた頼るのは格好悪いとか情けないとか、そんな感情が俺の中に渦巻いていた。


「それに冒険者なんだから自分でどうにかしなきゃな!」


(冒険者。そう、俺は冒険者になったんだ)


 自分の灰色の冒険者カードをかざしてニンマリとしている。


「あ、あの……」


 すると後ろから声をかけられた気がした。


「ん?」


 振り返ると二人の少年少女が立っていた。

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