第15話:冒険者カード
冒険者ギルドにある二階の隅に俺たちは陣取っていた。
一階にある物と同じ丸いテーブルを囲み、俺とガーランドたち冒険者が座っている。
アス子たちドールは俺の後ろで直立姿勢で待機しているので、そのメイド姿もあって周囲からじろじろ見られる。
「これで君も冒険者ギルドの一員になった。同じギルドの仲間としてこれからもよろしく頼む」
ざわつく中、ガーランドの太い声がよく聞こえる。
「はい、至らないところが多々あるとは思いますが、よろしくお願いします」
この世界にきてやっと人と出会い、人の街に入り、冒険者ギルドという組織に所属することができた。
なんとなくこの世界に認められてきたような感じがして嬉しくなる。
「それにしても灰色のマスタークラスとはねぇ」
ミザリィが呆れたように俺の冒険者カードを見ていた。
テーブルの中央には俺の冒険者カードを全員に見えるように置いてある。
「マスタークラスってやっぱり凄いんですか?」
「マスタークラスはその職業クラスの最高位で、この世界でもほとんど存在しないのよ」
「へー」
ミザリィの説明から、マスタークラスは希少価値が高い存在だというのは理解した。
だから受付の女性もあんな顔をしていたのだろう。
「普通マスタークラスの冒険者カードは紫以上なんだけど、それが最低ランクの灰色なんてね」
確かに最高位とされるクラスが最低ランクというのもおかしな話だ。
「それに、ドールマスターというクラスは今まで聞いたことがありません。望まない形で注目を浴びてしまう可能性がありますね」
ジェスは神妙な顔つきで灰色の冒険者カードを見ていた。
「さっさとクエストこなしてランクを上げて、立場をしっかり作っておくことね」
「分かりました、頑張ってみます」
ミザリィのアドバイスを素直に受け取り、クエストに向けて気合を入れる。
「そういえば冒険者カードって、灰色以外に何色が存在するんですか?」
「そうだな、下から順に灰色、橙色、黄色、緑、青、紫の五色が存在している」
ガーランドが教えてくれた色を聞いて、海外のゲームにあるレアリティ表記に似ていると感じた。
「ま、当然アタシたちは全員紫の最高ランクだけどねー」
ニヒヒと笑っているミザリィが冒険者カードを見せてくれた。
確かに紫色のカードだ。
「このカードを失くした場合、再発行が可能だが、手数料を取られるので覚えておくといい」
「もし誰かに拾われても、冒険者ギルドには本人確認の道具があるので、悪用されることはないので安心してください」
ミザリィとジェスが親切にカードについて教えてくれている。
手数料は分かるが、本人確認の道具というのは何なのか分からなかった。
この世界にそんなハイテクな物が存在しているとは思えないけど、魔法的な何かで解決できるのだろうか。
「本当にコイツをギルドに入れて良かったのかよ」
ローランドが不機嫌そうな顔で俺を見ている。
「アンタまだそんなこと言ってんの?」
「こいつは怪しすぎんだよ」
「アンタはギルドマスターの決定にケチつけるの?」
「そういうわけじゃねーよ」
ローランドの不満にミザリィがツッコミを入れていく。
冒険者ギルドの一員になったとはいえ、やはりまだ信用はされていないようだった。
「も、もしなにか分からないことがあったら、聞いてくださいね」
リリンが後輩になった俺に気を使ってくれているのか、優しく言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます」
ふと無言のティグレスを盗み見るが、瞼を閉じたまま動かない。
(寝てるのかな)
「ま、最低ランクのクエストとかすぐ終わるし、アンタもすぐ紫ランクに上がれるわよ」
隣に座っているミザリィがバンバンと背中を叩いてきて、後方にいるアス子たちが少し怖い。
とりあえず俺は、ここを離脱して早くクエストを受けてみたいと思うので、ここで席を立つ。
「それじゃあ色々お世話になりました。さっそくクエストを受けてきますね」
「あら、もう行っちゃうの?」
ミザリィがつまらなさそうに抗議するような視線を送ってくる。
「お金もないですからね、まずは稼がないといけませんし」
「ま、それもそうよね」
「それじゃあ失礼します」
テーブルを囲んでいるみんなを見渡す。
「ああ、頑張ってくれたまえ」
「貴方ならすぐに追いついてくると思っています」
「な、何か助けが必要なら、言ってくださいね」
「……」
「ケッ」
「まぁまたすぐ顔を合わせることになるし、頑張ってね」
「はい、本当にありがとうございました」
ガーランド、ジェス、リリン、ティグレス、ローランド、ミザリィの六人に挨拶を済ませ、席を離れた。
◇ ◇ ◇
一階へ降りてくると、一階にいた冒険者たちの視線が再び刺さる。
(そんなに目立つのかな……)
おそらくその原因は後ろにいるメイド姿をしたドールたちかもしれない。
みんな人間の美少女の姿をしているので、目を引くのは仕方ないだろう。
視線を気にしない振りをして、受付カウンターに向かう。
カウンター前には列ができているので、順番待ちをするために並ぼうと思ったけど、流石にドール全員を連れて並ぶのはマズイと気がついた。
「とりあえずアス子だけついてきて。他のみんなはあっちの壁のほうで待機で」
「かしこまりました」
六人のドールの声が奇麗に重なる。
こうして列の一番後ろに並んて順番を待つが──
「いってえええええええええええええええええええええ!!!?」
野太い男の声が冒険者ギルド内に響き渡った。
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