第17話:駆け出し冒険者

「君たちは……?」


 俺に話しかけてきたのは少女のほうだった。


 少女の恰好はまるで武闘家のような姿だが、赤髪の短いツインテールに白い肌で幼さが見え、まだ見習いレベルのように見える。


 青髪の青年のほうは腰に剣を携え、胴部分には革の胸当てなど軽装姿で、こちらも駆け出しの剣士というような印象を受ける。


「わ、わたしたちは灰色ランクの駆け出し冒険者で、あ、あの、良かったら一緒にクエストに行きませんか!?」


 どうやら俺に呼びかけたのはクエストの勧誘だったらしい。


「……どうして俺に声をかけてくれたの?」


 冒険者登録を済ませたばかりの俺に声をかけるのは怪しいと思ったが、もしガーランドたちと入ったときや、火子のあのやりとりを見ていたのなら、声をかけてきたのも分からなくはない。


「お前は薬草の種類や場所を知らないが、オレたちは知っている。薬草の情報を教える代わりにお前の戦力をアテにさせてもらいたい」


 青髪の青年が淡々と理由を話してくれた。


 やはり俺の戦力目当てのようだった。


 こっちが戦力を出す代わりに薬草の情報を教えてもらうという取引だ。


 悪くはない取引だが、最低ランクのクエストである薬草集めに戦力が必要になる理由が分からない。


「どうして戦力が必要に?」


 俺の質問に少女が俯いた。


「……あの、ゴブリンたちが姿を現して、その数が多くて手に負えないんです」


 どうやら原因はゴブリンが現れたことらしいが、ゴブリンはファンタジーにおいて最弱の生き物とされているが常だ。


 俺はともかくこの世界で育ったであろうこの二人なら倒せるものじゃないのかなと思いつつどうするか考えた。


「協力してクエストを突破するのも冒険者の務めと聞く。だからお前に協力を求めたい」


 青年は真剣な表情で、少女は不安そうな表情でこっちを見ている。


 俺としては断る理由はなかったので、二人の申し出を受け入れようと思う。


「分かった、二人ともよろしく頼むよ」


 俺がそう返すと、少女のほうは笑みを浮かべ喜んでくれた。


 青年のほうは表情が変わっていないのでよく分からない。


「わ、わたしの名前はシロンといいます」


 シロンと名乗った少女が頭を下げた。


「オレはライネス。見習い剣士だ」


「俺は……ケイト。ドールマスターかな」


 クラスを名乗るとライネスの眉がピクリと動いた気がした。


「……マスタークラスだと?」


「す、凄いです!」


 ライネスは怪訝そうな顔で、シロンは尊敬の眼差しを向けてきた。


「俺は文字が読めないから分からないけど、ドールマスターって書いてあるらしい」


 冒険者カードを二人に見せた。


「……本当だ、マスタークラスの人初めて見ました」


「何故マスタークラスが……」


 どうやら二人は文字が読めるようだ。


 何か分からないことがあれば遠慮なく二人に聞いてみようと思った。




 ◇   ◇   ◇



 特に準備することもなかったので、二人に案内されて街の東にあるアレムドの森を目指すことにした。


 移動は馬車で行い、料金はシロンが出してくれた。


 木製の荷台に幌の屋根がついたもので、後ろから乗り込んでいく。


「ふぅ……」


 俺、シロン、ライネスの三人に加え、アス子たちドールが六人で合わせて九人が馬車の荷台に乗った。


 十人乗りの馬車だったようでギリギリの人数だった。


「みなさん奇麗ですねー……」


 シロンがアス子を見て目を輝かせている。


 隣に座っているアス子はにこりと微笑んで返しただけだった。


 街に入ってからほとんどみんな喋っていないけど、息苦しかったり辛くなかったりしないのだろうか。


 少しみんなの様子が心配になるが、誰一人として辛そうな顔をしていないどころか、涼しい顔をして静かに座っている。


「ケイトさんって貴族なんですか?」


 対面に座っているシロンが話しかけてきた。


「うーん、貴族ではないかな……」


 この世界の貴族社会がどんなものかは知らないけど、貴族でないのは間違いない。


「でも沢山メイドさんたちを連れていますよね?」


 アス子たちのことをつっこまれてしまった。


 アス子たち全員が俺の作り出したドールと説明するべきかどうか悩むところだ。


 でもこの二人なら大丈夫な気がした。


「これから話すことは他言無用ということを約束してもらえるかな?」


 シロンとライネスを見る。


 二人はただならぬ雰囲気を感じたのか、真面目な表情で頷いてくれた。


「……えっとね、このメイドたち全員がドールなんだよ」


「……」


「……」


 驚く反応を見せるかと思ったけど、二人は落ち着いた様子だった。


 いや、何を言われたか理解できていないように見える。


「……ドールって、あの小さなお人形ですよね?」


「全員ただの人間に見えるが……」


 分かりやすい例を見せたほうが早いかもしれない。


「スイ子さん、体の一部を水にできる?」


「は~い」


 隣の隣に座っているスイ子さんに指示を出すと、振っていた手が水に変化して、魚の形になった。


「えっ!?」


「……!!」


 その変化に二人は驚き目を見開いている。


「スイ子さんは水のドール、俺の隣にいるのがアス子さんで土のドール。冒険者ギルドで撃退していたのが火のドールの火子だね」


「……みなさんお人形さんだったんですね。全然気がつきませんでした」


「ゴーレムの類ではないようだが、信じられない……」


「あまりこのことは知られたくないから、他言無用でお願いするよ」


「わ、わかりました!」


「ああ……」


 二人は駆け出しの冒険者だけどしっかりしてる印象を持てたので話してみたけど、本当に大丈夫だったか少し不安になってきた。


 うっかり口を滑らしてしまうのではないかという不安もあったけど、まだ出会ったばかりの二人だが、二人を信用してみたいと思った。


「凄かったね!」


「ああ……」


 臨時とはいえ同じクエストに挑む仲間なので、こういうところで信頼関係を築ければなと思う。


 それにもし二人が喋ってしまっても、駆け出し冒険者の話すことを本気で信じる人は少ないだろうし、能力自体を信じる人もほとんどいないと思っているので、今はまだ大丈夫だろうという安心感があった。


 早く目的地に着かないかなと、荷台から外の風景を眺めた。

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