第6話:ファイアドール

 みんなの作業風景を眺めて時間を潰していたら、いつの間にかもう日が暮れ始めてた。


 キーコが生成した眷属、ウッドマンがせっせと薪のような物を運び、それを受け取ったスイ子さんが焚火にくべていく。


 そこでふと気づいたことがあった。


「夜の明かりどうしよう?」


 後ろで待機していた石のドール、御影に振り向いて聞くように話しかけた。


 御影は直立姿勢のまま口を開いた。


「……電気はありませんし、松明を用意するのも現在の状況では難しそうですね」


 そう、当然電気はないし、松明を作るための道具も足りていない状態だ。


 顔を前に戻し、焚火を見つめる。


「……いけるかな?」


「は?」


 俺は川で手を濡らし、焚火の前に立った。


「一瞬の隙が命取りになる。これはスピード勝負だな」


「あら~? ご主人様どうされましたか~?」


 スイ子さんが興味を持って近づいてきた。


「だ、大丈夫でしょうか……」


 御影は俺のやることに気づいているようだ。


 手が乾ききる前に精神を整え──


「──今だ!」


 俺は濡れた右手を火の中に突っ込んだ。


「えっ!?」


「っ!!」


「クリエイトドール!!」


 手を大きく火傷する前に一瞬で火から離した。


「む~!」


 スイ子さんは俺の右手を取り、自分の両手を液状化して冷やしてくれた。


「あ、ありがとう……」


 しかしその顔は少し怒っていた!


 俺はスイ子さんから顔を逸らし、人の形をかたどっている火を見た。


 その火が俺の前まで移動すると、メイド服の少女へと変化する。


「おはようございます、マイマスター。なんなりとご命令ください」


 赤いストレートヘアーで、後ろ髪の先端はウェーブがかっており、黄色く色が変わっていた。


 まるで燃え盛る炎のような髪だ。


 そしてその顔は釣り目で気が強そうなイメージを感じる。


 正に火というイメージだ。


「ふぅ……成功したようだね、よかったよかった」


「よくありませ~ん!」


 隣でスイ子さんが怒っている。


 水圧なのか、右手が押しつぶされそうな感覚に襲われた。


「いだだだだだだだだだだだ!!??」


「なんであんな危ないことするんですか~!!」


「ご、ごめんごめん、火とか灯りが安定すれば便利かなって思って……」


「も~お……危ないことはやめてくださいねぇ……」


 スイ子さんは今にも泣きそうな顔をしていた。


「……ごめんなさい」


 かなり心配かけてしまったようだ。素直に反省。


 赤髪の少女に視線を戻す。


「えーっと……君は火から生まれたから、火子かこでどうかな?」


「マイマスターからの命名、お受けいたしました」


 火子は奇麗な姿勢でお辞儀をする。


「それで、火子には部屋の照明とか、食事のときの火付け役とかお願いしたいんだけど、いいかな?」


 なんかしょぼいような役割を任せてしまったような気がして、少し申し訳ない気分になる。


「了解いたしました。お任せくださいマイマスター」


 火子のハッキリとして発音に少し威圧のようなものを感じるが、それが少し心地よくも感じていた。


「あ、そうだ、この手を冷やしてくれているのがスイ子さんで、後ろにいるのが御影だよ、仲良くしてね」


「……はぁ。わたくしはスイ子です。仲良くしてくださいね~」


 スイ子さんは火子を見てため息をつき、納得したように挨拶をした。


「自分は御影と申します。以後よろしくお願いします」


「火子です。よろしくお願いします」


 水と火は相性がよくなさそうに感じるが、スイ子さんと火子が仲良くしてくれるといいなと思いつつ、家に戻った。


「ここが俺たちの家なんだけど、どうにか明るくできる?」


 日差しがなくなった家の中は薄暗くなり視界が悪かった。


「お任せくださいマイマスター」


 そう言うと、火子は両手を前に突き出した。


「メイク、ファイアライト」


 その言葉とともに火子の両手から火の玉がぽこぽこ出現した。


 そしてその人の玉は部屋の中心、隅と至る所に配置された。


「えっ、火事にならない? 大丈夫??」


 俺は慌てて火子に確認を取る。


「はい。光る性質だけを持った火なので、家を燃やす心配はありません。マイマスター、触れてみますか?」


 俺の作り出した火子がそういうのなら大丈夫なのだろう。


 俺の目の前でふよふよしている火の玉に手のひらを近づけた。


「おぉ、全然熱くない」


 そのまま握るように持ち上げる。


「んっ……」


「凄いな、どういう仕組みなんだろう?」


 感触を確かめるように握ったり撫でたりしてみた。


「あっ……はぁん……!」


 隣で火子が艶かしい声をあげている。


 どことなく顔が赤くなっているような……。


 なんだかイケナイことをしている気分になったので、火の玉を手放した。


「あっ……」


 火子は眉をハの字にして寂しそうな表情をした。


「と、とりあえずこんな感じで頼むよ!」


「……了解しました、マイマスター」


 こうして家に灯りがついた。

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