第7話:シャトルドール

 完全に日が暮れた夜、作業を終えたみんなが家に戻り、隣の壁の横に整列していた。


「ご主人さま、畑の用意ができました。これでいつからでも農作業が行えます」


 土のドール、アス子が作りあげた畑を報告する。


「川魚を幾つか干していますので~、ご主人様が食料に困ることはないと思います~」


 水のドール、暫定的に料理担当になっているスイ子さんが続いて報告した。


「マスター、収穫物があったからテーブルの上に並べた」


 木のドール、キーコがウッドマンを使って集めた物をテーブルに用意してくれていた。


「ご当主様、舗装した道に異常はありませんでした」


 石のドール、御影の能力で作り上げてくれた石の道の状態について報告してくれた。


「明かりの調整は自由に行えますので、マイマスターが必要なとき、不必要なときは遠慮なく申し付けてください」


 火のドール、火子が照明として設置してくれた火の玉について教えてくれた。


 現在この五人のドールが俺のために働いてくれている。


 【ドールクリエイト】で作り出したこのドールたちのおかげで、転生した異世界で苦もなく生活することができている。


 この家もアス子、スイ子、キーコの三人が能力で作ってくれた家だ。


 そして道の舗装を御影が行い、火子の火が暗闇を照らしてくれている。


 この能力をくれた神には感謝しているが、その反面、本当に大丈夫なのかという不安もあった。


 俺自身は何もしていないのに、それなのにこんな都合の良い状態だと逆に不安になる。


 何かを得るには何かを失う。


 それが絶対の理だと俺は思っている。


 ドールクリエイトで魔力を消費しているとは、それだって俺が何かをして得た物ではない。


 ドールクリエイトと同じく、神と名乗る者に与えられた物だ。


 ある日突然清算させられる──


 そんなことがあるかもしれない。


 俺は複雑な気持ちでみんなを見る。


「ご主人さま?」


 アス子が様子を伺うように俺を見ている。


「あ、あぁ、大丈夫だよ」


 今はみんなの前だ、それを考えるのはやめておこう。


 それよりもキーコが収穫してきた物を見ていこう。


「それで、結構収穫できたみたいだねキーコ」


「ん」


 キーコが無表情でサムズアップしている。


「見慣れた野菜ばかりなのが少し気になるけど、食べられるのかな?」


「大丈夫、マスターが食べることは可能」


 キーコが答えてくれた。


 大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。キーコを信じる。


「まずこれはトウモロコシだな。こっちはサトウキビか? これはバナナ、パイナップル……これは何かわかる?」


「それはコショウ」


「おぉ! コショウを手に入れたのか! でかした!」


 コショウがとれたということは、近くに暑い地域があるのだろうか。


 収穫物を見ると全体的に熱帯地帯などにありそうな物ばかりだ。


「あー……でもアス子はこれらを育てることはできる?」


「可能です」


 即答だった。


「え、気候的な問題とかあるよね?」


「その点もぬかりなく問題ありません。私の作った土ならどんな作物でも育てることが可能です」


 アス子が胸に手を当てて自信満々に堂々と答えてくれた。


「そ、そっか……」


 本当に大丈夫なのか逆に心配になるレベルで凄すぎるアス子だった。。


「あとで栽培できるようにしておきますね」


「あぁ、よろしく頼むよ」


 アス子の発言を受け入れ、さっきから気になっていた収穫物を手に持った。


「これは?」


「わからない。何かの道具みたいだから拾ってきた」


 キーコの拾ってきたという道具は、木でできた何かで、楕円形の木の板で、中心部分にも楕円形の穴が開いていた。


 座っている椅子を横に向けた。


「……ドールクリエイト」


 なんとなくでドールクリエイトを行ってみる。


 これをすれば何の道具か分かるだろうという判断である。


 木製のナニかは光りだし、その光が人の形をかたどっていく。


 そうしてみんなと同じようにメイド服の少女が目の前に現れた。


「おはようございますぅ~、ご主人様。なんなりとご命令くださいぃ~」


 クリーム色のふんわりしたショートヘアーで、髪先がくるんと可愛らしく巻かれていた。


 スイ子さんと同じような喋り方だが、語尾の伸びが違っていた。


 スイ子さんと比べると、語尾が上がってるような感じだろうか?


「いきなりで悪いんだけど、君は何が得意なんだい?」


「はいぃ~。わたしは糸を扱うことを得意としております。糸や糸となる素材があれば布を作ることができますぅ~」


「なるほど? ごめん、俺は君がなんの道具か知らないでドール化させたんだけど、自分が何の道具がわかる?」


 糸を布にするということは機織り機だと思うが、あれは機織り機にしてはあまりにも小さすぎるだろう。


「わたしはシャトルという道具から生み出されたドールですぅ~」


「シャトル……」


 俺の知らない道具だった。


「分かった、君の名前は今からシャトルだ」


「名付けていただき感謝いたしますぅ~」


「それにしても糸とかその素材かぁ、麻とかコットンとか、あとは絹糸とかだよなぁ……」


 テーブルの上の収穫物を見るが、糸に使えそうな物はなかった。


「明日は探索範囲を広げて探す」


 キーコが俺に気を使ってかそう言ってくれた。


 なんだか催促してしまっているようで申し訳ない気分だ。


「キーコは頑張ってくれてると思うから、無理しない範囲で頼むよ」


「あ、ご主人様、そのトウモロコシとサトウキビですが、繊維として扱うことが可能です」


「へぇ?」


「どちらもポリ乳酸という繊維になりますのでぇ~、ポリエステル繊維と同等の強さを持つ繊維になりますぅ~」


 シャトルが笑顔で教えてくれた。


「へー! そうなんだ、知らなかったなぁ」


 賢くなってしまったな。


「教えてくれてありがとうシャトル。アス子、トウモロコシとサトウキビの栽培を多めにお願いできるかな?」


「分かりました、ご主人さま」


「シャトルは作物が整ったら仕事を頼むよ」


「はいぃ~」


 笑顔で返事をしたシャトルは、みんなが整列している列へと並んだ。


 アス子、スイ子、キーコ、御影、火子に新たにシャトルが加わる。


「……みんなのおかげで衣食住が整ったわけだけど、みんなには感謝の気持ちでいっぱいだよ。ありがとう。俺からもみんなに何かお返しをしたいと思ってるんだけど、みんなは何か欲しいものとかあるかな」


 俺の言葉でみんなが戸惑ったような表情をしている。


「……あれ、俺なんか変なこと言ったかな?」


「ご主人さま」


 みんなを代表してか、アス子が口を開いた。


「私たちドールはご主人さまのために働くのが絶対の喜びとなります。ゆえに、今こうしてご主人さまといられるだけでも私たちは十分幸せなのです」


 アス子が満足そうな表情でそう語ってくれている。


「そしてご主人さまに完全無欠の忠誠を」


 全員が一斉に右手を左胸に重ね、片膝をついて跪いた。


「え、ちょ……」


 俺は突然のことに理解が追い付かず、頭が混乱してしまった。


 ドールたちの忠誠心がマックスオーバーで、ここまで想われているとは思わなかった。


 創造主である俺に対しての想いくらいはあるのだろうと思っていたが、ここまで強い忠誠心は少し怖い。


 だけどみんながそれほどまでに俺のことを想ってくれているなら、俺はそれを受け入れよう。


 神から与えられた力とはいえ、自らの意思で作り上げたみんなには愛着が湧いているし、家族と同じような愛情を持っている。


 だから俺は──


「……ありがとうみんな。その忠誠、確かに受け取ったよ」


 そう言うとみんなは立ち上がり、各々笑顔だったり微笑んでくれていた。


 キーコは無表情のままだったけど……。


「みんな、これからもよろしく頼むよ」


「「「「「「はい」」」」」」


 こうして異世界に転生して、一日目の生活が終わった。


 明日はどんなドールが増えるか楽しみだ。

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