第5話:グラニトドール

 飯を食べ終わってから話し合い、土の操作が得意なアス子には畑を耕してもらい、スイ子にはとった魚を捌いて干物を作ってもらい、キーコにはウッドマンたちに森にある作物の探索を任せた。


 俺が何もしなくても周りが動いてくれている。


 まだまだな環境だが、俺が理想とする環境が始まりつつあった。


 今はまだ何もできない気がするが、生活基盤が整ったらみんなには何かしてあげたいと思う。


 福利厚生は労働とセットの基本だ。


 いくらみんなが俺のために尽くしてくれるドールだとしても、やはり何かで返してあげたい。


 そうすればみんなのやる気も上がって、更に効率も上がるのんじゃないかと考えた。


 今日の夜にでも何か希望があれば聞いてみるのもいいだろう。


(それにしても暇だな……)


 何もすることがない、やれることがないので暇だ。


 意味もなく無暗にドールを増やしても、管理に困る未来が用意に想像できる。


 俺の傍には護衛用のアースゴーレムとウッドマンが一体ずつ配備されていた。


 何か現れてもこの二体がなんとかしてくれるだろう。


 ということで川辺を少し散策することにした。


 アースゴーレムとウッドマンがついてきてくれる。


 俺が足を止めると二体も止まる。


 なんだかペットを飼っているような感覚になった。


 そういえば、このウッドマンやアースゴーレムにドールクリエイトの能力を使ったら、一体どうなるのだろうか?


 どちらも俺が作り出したドールの生成した眷属だ。それを俺が更にドールクリエイトしたら?


 かなり興味が湧いてきたが、ふと足元に落ちていたつるつるした奇麗な石が目に留まった。


 石のドールということで、石の道を舗装できたりしないだろうか?


 それに石なら色々と有用かもしれない。


 俺はその拳ほどの大きさがあるつるつるの白い石を拾った。


「ドールクリエイト」


 石が一度粉々に砕け、砕けた破片が人の形をかたどっていく。


 そして今までと同じようにメイド服姿の少女の姿となって現れた。


 肌は白銅食で、黒のショートカットヘアーに前髪で目元を隠している。


「おはようございますご当主様。なんなりとご命令ください」


「ああ、よろしく頼むよ。とりあえずみんなの場所に移動しようか」


「分かりました」


 石子という名前でもいいかと思ったけど、石には色々な種類があるから、アス子に聞けば何か分かる──この子に直接聞けばいいのでは? 俺は訝しんだ。


「と、君はなんの石だか自分で分かるかい?」


 俺は足を止め、振り返って尋ねた。


「はい。私は花崗岩がベースになってご当主様に作られたドールです。花崗岩は別名、御影石とも呼ばれています」


「なるほど。それじゃあ君の名前は今から御影にしよう」


「承りました、ご当主様」


「よし、それじゃあ拠点の場所まで案内するよ、と言ってもすぐそこなんだけどね」


「はい」


 俺のつまらないやり取りにも笑顔で対応してくれる御影に、良い子だなぁと癒される。


「あれ~、その子は新しいドールですか~?」


 川魚を捌いているスイ子さんが俺たちに気がついた。


「ええ、そうですね」


「御影と申します。以後よろしくお願いします」


「わたしくはスイ子です~。こちらこそよろしくね~」


 御影がお辞儀をして続いてスイ子さんも頭を下げる。


「それじゃああっちの二人にも挨拶してくるよ」


「はい~」


 スイ子さんと別れ、次はキーコのいる場所へ向かった。


 キーコはウッドマンを生成して指示を出しているところだった。


「キーコ、精が出るね」


「ん……マスター、新しい子?」


「そうだね、仲良くしてあげてね」


「御影と申します。以後よろしくお願いします」


「キーコはキーコ。よろしく」


 御影のお辞儀に合わせてキーコもしっかりお辞儀で返していた。


 幼そうに見えるキーコだが、その辺りはしっかりしていて少し感動した。


「それじゃあアス子のところに行ってくるよ。仕事頑張ってね」


「ん」


 こうしてキーコと別れ、次は畑仕事をしているアス子のところへ向かった。


 アス子は両手を地面について何かをしているが、一体何をしてるのだろうか?


「アス子、何をしてるんだい?」


「わっ!?」


 アス子が跳ね上がった。


 驚かせてしまったようだ。


「ああ、ごめんごめん、邪魔しちゃったかな」


「い、いいえ、大丈夫です。その子は新しい仲間ですか?」


「御影と申します。以後よろしくお願いします」


「うん、石のドールだからアス子と相性はいいかな?」


「私はアス子。よろしくね御影」


 なんだかアス子から先輩風を感じる。


 確かに一番最初のドールなので、先輩なのは間違いない。


 だがアス子が先輩風を吹かせているように見えてしまい、可愛く見えてきた。


「そうですね、御影と力を合わせれば、強固な壁や掘りなどを作ることができると思います」


 アス子の土壁に御影の石壁を合わせる感じになるのだろうか。


 堀は日本の城周りにある堀りをイメージした。


「そっか、それは楽しみだな。ところでアス子は何をしていたんだい?」


「土に魔力を与えて活性化させています」


「なるほど?」


「これによって畑に適した土を作り上げ、連作障害などを引き起こさないようにすることができるようになります」


「……なるほど?」


 俺は畑のことは詳しくないから分からない。


 畑に適した土作りはまだ分かる。


 しかし連作障害を引き起こさないようにすることができるというのは、かなりのチートではないだろうか?


「早く種が届かないかな~ってワクワクしてます!」


 なんだかアス子が楽しそうなので、そのまま頑張ってもらおう。


「わ、分かった。それじゃあ向こうで御影に仕事を頼むから、アス子は引き続き畑のことを頼むよ」


「分かりました!」


 こうして三人の先輩ドールたちに挨拶を済ませ、家の前までやってきた。


「えっと、今更なんだけど御影の得意なことは何かな?」


「はい。自分は土属性魔法を得意とし、石や岩を自由自在に操ったり生成することができます」


 やはりアス子の石バージョンと考えていいだろう。


「なるほど。それじゃあこの家の入口からあの川まで、石の道を作ることはできる?」


「可能です」


 御影は即答してくれた。実に頼もしい。


「それじゃあよろしく頼むよ」


「分かりました」


 そう言って御影はしゃがみ、地面に両手をついた。


 地面に魔力を流しているのだろう。


「メイク、ロックタイルロード」


 すると御影の言葉のあとに、石畳みが土の中から飛び出してきた。


 奇麗に配置された御影石のタイルが川まで続いている。


「お待たせしましたご当主様。歩いても問題ありません」


 御影に促され、一歩踏み出してタイルの上に乗った。


「おぉ……!」


 足に感じる舗装された道の感触に感動した。


 一歩一歩足を踏み進め、地面の感触を確かめていく。


 そうして川までたどり着いた。


「いかがでしょうか?」


 御影が心配そうにこちらを窺っている。


「ああ、問題ないよ、素晴らしいよ御影!」


 そう答えると御影の口元が笑顔に変わった。


「お褒めの言葉をありがとうございます」


 これで一気にこの場所の雰囲気を変えることができるということに興奮し、ますます開拓が楽しくなってきた。


 次はどんなドールをクリエイトしようか?

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