第26話:ゴブリンロード討伐クエスト完了
ガーランドの言葉を思い出し、街の手前までやってきたところでゴーレムから降りて徒歩で街へ向かった。
「あ、そういえばアス子は冒険者の二人運んだときどうしたの?」
「一刻を争うと思って、アースゴーレムと一緒に街の中に入っちゃいました……」
アス子は少し申し訳なさそうに顔を俯かせている。
「まぁ、一刻を争う状態だったしね、もし少しでも遅くなってたら俺が死んでたかもしれないし、アス子は落ち込まなくていいよ」
もしアス子が遅れていたら、俺は今頃ゴブリンロードの頭をはねられたか、胴を串刺しにされていたかもしれない。
街は多少混乱してしまったかもしれないけど、アス子は俺と一緒にいたところを注目されて見られてるだろうし、冒険者の二人の救助だと分かれば、街の人たちの感情はそう悪いものではないはずだと思いたい。
そんなこんなで街に到着すると、ギルドマスターが出迎えてくれていた。
「やぁ、待っていたよ」
ギルドマスター直々の出迎えに何か怪しいものを感じ、顔が物凄いしかめっ面になってしまった。
俺にポーカーフェイスは無理かもしれない。
「……どうしてギルドマスターである貴女が直々にお出迎えを?」
「ゴブリンロードを倒した英雄だ。まぁ、街の混乱もあるしな、私がいたほうが便利だろう」
確かに色々と面倒なことに巻き込まれる可能性も否定はできない。
そう考えるとギルドマスターが一緒にいてくれたほうが助かる……かな?
「さぁ、冒険者ギルドに帰ろうじゃないか」
そう言って背を向け歩き出した。
それについていくように門を通っていくが、門番たちの俺たちを見る目が、恐怖に近いような顔をしていた。
いくらゴブリンロードを倒したとはいえ、そんな恐れられるほどだろうか?
アス子たちは得意げな顔をしている。
ギルドマスターと一緒にいるということが更に注目を浴びる原因になっているのか、街中の視線が俺たちに向いている気がする。
あ、もしかしたら俺ではなくギルドマスターに恐怖しているのかもしれない。
まぁどんな評価をこのギルドマスターが受けているのかは分からないので、真偽のほどは分からないけど……。
そうして冒険者ギルドに到着した。
人の活気に溢れ喧騒に包まれていた冒険者ギルド内だったけど、俺たちの存在に気づくと何もいないかのように静まり返った。
コツコツコツとギルドマスターの歩く足音が奇麗に響き渡り、俺たちもそれに続く。
「はは……」
なんだか物凄く気まずい気持ちになり、苦笑いして誤魔化した。
いつもの部屋まで案内され、周りの視線から逃げるように入る。
「ふぅ……」
「座ってくれ」
ギルドマスターに促されソファーにドサッと座った。
一気に気を抜きそうになったけど、このギルドマスターの手前、完全に気を抜くのは怖い。
一体何を考えているのか全く読めない。
アス子たちはソファーの後ろに座り待機状態だ。
ギルドマスターも対面に座る。
「改めてゴブリンロードの討伐、ご苦労であった。クエスト完了の手続きを」
テーブルの上に置かれている黒い箱に冒険者カードと手を乗せて手続きを済ませる。
「報酬の残りの金貨百枚だ」
出発前に貰った袋と同じ袋に同じだけ金貨が詰められていた。
「はぁ……」
手続きも済ませてもらう物も貰ったので、長居は無用だと思って立ち上がろうとすると──
「まぁ待ちたまえ。帰ってきたばかりだ、少しはゆっくりしたらどうだ?」
ギルドマスターがそう言うと、ギルド職員の女性がお茶を持ってきてくれる。
コトリと奇麗な装飾が施された陶器のカップが置かれた。
正直飲みたくない。
「えっと、まだ何か俺に用ですか?」
「君に話しておきたいことがあってね」
なんだか嫌な予感がする。
「ゴブリンロードの他に、オークロード、コボルトロード、オーガロードが誕生していたのだよ」
「は?」
ゴブリンだけではなく、他の種族のロードが生まれてるって、それ世界滅亡フラグでは?
「ガーランドたちにはオークロードの討伐に行ってもらっていてね、他は他の冒険者ギルドに所属している冒険者たちが向かっているはずだ」
ガーランドたちがいなかったのはそういうことだったのか。
「その中で一番最初に終わらせたのが君だ」
「そうですか……」
「その功績を称えて、君のランクを灰色から緑色へと一気に昇格させることが決まった」
橙を飛ばして緑ランクにいきなり昇格だ。
正直紫ランクまで一気に駆け上がってもおかしくない働きをしたのではないかと思っているけど、何か理由がありそうな気がする。
「私としては紫まで上げてやりたい気持ちもあったが、他の者たちがそれを許さなくてな。もう少しクエストの数をこなしていけば近い内にでも上がられるだろう」
「駄目な理由って何かあったんですか?」
「……他のギルドマスターたちは君の存在をまだ信用できていないようだ」
「なるほど」
確かにぽっとでのやつがいきなりゴブリンロードや無数のゴブリンを倒したと言っても信じがたいだろうし、信用もしにくいと思う。
「地道に数をこなしていけば自ずと信頼もされていく。だからそう気を落とさないでくれ」
「いや別に落としては……」
「だが緑とはいえ、これで灰色だったときよりかは信用は得られていると思っていい」
「はぁ……」
「ああそうだ、その子が連れてきた二人の冒険者だが、今は治療も済んで安静にしている」
「それはよかったです」
「パーティーリーダーが君に礼をしたいと言ってたから今度あってやってくれないか?」
「別に礼なんていりませんよ」
二人が無事なのは良かったけど、別にそれで礼をされるのは少し違和感があった。
助けたのは俺ではなくアス子であり、その手柄を俺が貰うような形になるようで心苦しい。
「そうか。やはり君は変わっているな」
ギルドマスターの瞳が妖しく輝く。
「そ、それじゃもう俺たちは行きますね」
「なんだ、もう行ってしまうのか」
「今日はもう疲れましたから。それでは!」
そう言って逃げるようにギルドマスター室から出る。
「ふぅ……帰ろう」
それから冒険者ギルドホールに戻ると、再び喧騒が収まり、ひそひそ声が聞こえてくる。
あまりいい居心地ではないので、足早に外へ出た。
「……」
周囲を見渡すがシロンとライネスの姿はなかった。
もしかしたらいると思ったけど、二人もそんな暇ではないかもしれない。
ガーランドたちや他のロードについても気になるけど、あそこで俺を引き留めなかったということは、問題なく対処できるということだと解釈しておく。
「それじゃ俺たちの家に帰ろっか」
「はい!」
こうして俺たちは街でのクエストを終えて、自分たちの家へと戻る。
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