第10話:和解
土の牢獄に囚われている冒険者の前までやってきた。
「えーっと、初めまして」
目の前の男の冒険者は、胸部分に鎧を着こみ、中にはインナーやズボンを着用し、籠手、脚、足と鉄プレートで防御を固めていた。
顔は体は歴戦の戦士のような風格があり、黒い短髪で無精ひげを生やしている。
そして拘束されているにも関わらず、力強い目で俺を見つめていた。
相手の動きを封じてるとはいえ、この冒険者の威圧感に押されてしまう。
「いきなりすみません。俺たちは俺たちに危害が加えられないなら、あなたたちに敵対する意思はありません」
「……」
返答はなく、男は黙って俺を見つめているだけだった。
「そちら側が俺たちに手を出さないのであれば、今すぐ拘束を解かせるのですが、どうでしょう?」
ビクビクしながら交渉を試みるが、男の表情は変わらなかった。
「あ、それならアタシは手出ししないから出してくれない?」
思わぬところから声が聞こえてきた。
声をあげたのは、後ろで木の牢獄に囚われている魔法使いの風貌をした女性だ。
「オイッ!」
それを止めるように同じく木の牢獄に囚われている男の魔法使いが声を荒げる。
「だってこんな研究しがいのあるモノ見たら、破壊するより調べたくなるでしょ」
女魔法使いの言動から敵意は感じられず、どうやら純粋に研究対象として見ているように感じられた。
まだ信用できる訳じゃないけど、どうなるのか気になった俺は、キーコに女魔法使いの拘束を解かせた。
「キーコ、あの人の拘束を解いて」
「……本当にいいの?」
キーコは無表情のまま女魔法使いを見ていた。
「何かあったら、みんな、頼むよ」
我ながら酷い創造主だと思った。
「……わかった」
そう言ってキーコが女魔法使いの拘束を解いた。
「はぁ~、やっと出られたわー」
女魔法使いは体を伸ばしてから、俺のいるほうへ歩き始めた。
アス子とスイ子さんが俺の身を案じてか、俺の前に出る。
「あなたがこのゴーレムたちのマスター?」
女魔法使いがアス子たちの前で止まり、俺を見つめている。
先が折れた紫色のとんがり帽子に、裏地が赤色の黒いマント、装飾された木の杖を持ち、紫色のふわっとしたドレスを着ていた。
いかにも魔法使いな格好に感動しつつも、冷静さを取り繕い言葉を返した。
「……ええ、昨日──ここにきたばっかりなんですよ」
女魔法使いは信じられない物を見るような目で俺を見た。
「……それ本当に言ってる?」
「本当ですよ。突然この森で目が覚めて、この世界のことを何も知りません。だから教えてくれませんか?」
このときの発言は、自分で言っていてもなんだか悪役じみてると思いつつ、下手に腹の探り合いをするよりかは、ストレートに話して情報を交換したほうが早いと考えていた。
「…………」
女魔法使いの整った顔立ちに見つめられると気恥ずかしくなり、つい視線を逸らしそうになってしまう。
「嘘言ってるようには見えないしなー……あ、そうだ、アタシたちがここに来た理由って昨日の水龍なんだけど、アンタ何か知ってる?」
まるで友達と話すように気安く話しかけてくる女魔法使いに、学生時代のクラスメイトの女子を思い出してしまった。
「あー……多分スイ子さんのあれじゃないですかね……」
スイ子さんを見ていると、俺の視線の気づいたようにスイ子さんが振り返った。
「あぁ~、これのことですか~」
そう言ってスイ子さんの両腕が液状化して、ぐにょぐにょと変化してミニ水龍になった。
「えっ!?」
女魔法使いが驚愕して後退り、杖を構えた。
「大丈夫ですよ~」
スイ子さんはそう言いながらミニ水龍の口をパクパクさせている。
(パペット……?)
「……えっとつまり、昨日の水龍の仕業もアンタたちなのね?」
「ええ、まぁ、そうなりますね……何か問題になっちゃっていましたか?」
「アタシたちは昨日の水龍を調査するために集められたパーティーなのよ」
どうやら昨日のスイ子さんの水龍がかなり問題になっていたようだった。
冒険者を集めて調査させるというのは、正直言って穏やかじゃない。
「……なるほど、分かりました」
仮にここで全員を殺してしまった場合、更に戦力を強化されて送られてくることになることは間違いない。
「ええっと、それじゃあここで立ち話もなんなんで、俺の家にきてもらってもいいですか?」
「え、家があるの!?」
こんな辺鄙な場所に家があると言われたら、驚くのも無理はないかもしれない。
「それじゃ行きましょ!」
女魔法使いはあっさり承諾した。
「いや普通罠とか警戒しませんか?」
「今死ぬのも後で死ぬのも変わらないなら、知らない物を知ってから死にたいじゃない」
女魔法使いは自分が死ぬことを前提で話を進めているようだが、俺は決して殺したりするつもりはない。
そんなことをすれば更なる厄介が舞い込むからだ。
「いやいや、殺すとかそんなことしませんよ、安心してください……」
俺は苦笑しながら言葉を返した。
「それじゃ今すぐ行きましょ!」
「いや、パーティーの人たちは……?」
「さっきから何も言わないんだもん、ここに置いていってもいいでしょ」
「待ってくれ!」
声をあげたのは剣を持った金髪の青年だった。
「僕も連れて行ってくれ!」
「どうしてですか?」
はいそうですかと拘束を解くわけにもいかなかったので、理由を聞いてみる。
「僕は木のゴーレムに一切攻撃をあてられないどころか、手加減までされて生かされた……」
金髪の青年は俯いた状態で悔しそうに声を震わせていた。
「だから……君がマスターなら、僕に稽古をつけて欲しい!」
どうやら金髪の青年はウッドマンにやられたことがこたえたらしく、俺がマスターならウッドマンで稽古をつけて欲しいと言い出した。
俺は青年の熱い想いに応えたくなった。
「キーコ、いいかな?」
「命令なら」
「じゃあ彼の拘束を解いてあげて」
キーコは相変わらず無表情のままで感情が読めないけど、多分大丈夫かなと思い、拘束を解かせる。
「ん」
木の牢獄から解放された青年は剣を鞘に仕舞い、俺の元までやってきて頭を下げた。
「どうかよろしくお願いします」
「う、うん……」
青年の真摯な態度に気圧されつつも、二人が好意的な態度を見せてくれたので、残りはあと四人だが──
「……分かった。私たちは君に危害を加えないと約束しよう」
二人がこちら側にきたのが効いたのか、目の前にいたリーダーらしき男が目を閉じてそう言った。
「……ありがとうございます。全員拘束を解いてあげて」
俺の指示で全員が冒険者たちの拘束を解いた。
「私の名前はガーランド。この臨時パーティーのリーダーをしている」
「ああ、これはご丁寧にどうも。俺は栗江田形人です」
名乗られたことで反射的に頭を下げて名乗ってしまった。
日本人の悲しい性だ。
「クリエダケイト? 変な名前ね。アタシはミザリィよ、よろしく」
女魔法使いはミザリィと名乗った。
「ええっと、栗江田って呼んでください」
「分かったわ、クリエダね」
三人の後ろにいる他の三人は、未だ俺を警戒した目で見ている。
攻撃はされないだろうが、油断はできない。
「僕はジェスです」
「よろしく」
ジェスの名乗りに軽く返して、アス子にアースゴーレムを用意させる。
「アス子、アースゴーレムを用意してもらっていいかな?」
「かしこまりました、ご主人さま」
アス子がアースゴーレムを生成してくれた。
「……は~、すっごいわねー」
ミザリィは興味津々でその様子を眺めている。
「とりあえずさっきも言いましたが、向こうに家があるので、アースゴーレムで案内しますね」
「えっ、アースゴーレムで運んでくれるの!? 貴重な体験だわ!!」
魔法使いの性なのか、ミザリィは喜んでくれていた。
他の仲間も渋々とアースゴーレムの手のひらに乗ってくれたので、全員を家までご招待した。
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