第28話:食べ物

 目が覚める自分の部屋にいた。


 元の世界の部屋ではなく、アス子、スイ子さん、キーコの三人が作った部屋だ。


 そして俺はスイ子さんで寝ているのではなく、白いスーツに枕、掛布団をかけられている。


「あ、目を覚まされましたね。おはようございます。と言っても外はもう真っ暗なんですけどね」


 アス子がベッドの隣で直立姿勢で立っていた。


 もしかしたらずっとここにいたのかもしれない。


「そうか、疲れて寝ちゃったのか……この布団は?」


「シャトルが街に行って購入した材料を使い作り上げたものです」


 なるほど。糸を操る能力を持つシャトルだけど、こんなこともできるんだと感心した。


「よっと」


 勢いよく体を起こして起き上がる。


「おはようアス子」


「おはようございます」


 起きたら誰かがいる生活って、いいな。


 アス子の笑顔に自然と気持ちが明るくなる。


「みんなは?」


「キーコはウッドマンで周辺調査、それ以外は全員下で待機しています」


「分かった。少しお腹空いたね、シャトルは何を買ってきたんだろう?」


 食料を求めてベッドから降りて部屋を出る。


「すぐに食べられるパンをいくつかと、果物や果実酒、肉や調味料などを購入してきました」


「へー、色々買ったんだね」


「しかし保存する術がありませんので、ナマモノは早めにお召し上がりください」


「分かった、ありがとう」


 冷蔵庫があれば保存できるけど、この世界にそんな物はないだろう。


 氷のドールをクリエイトできれば、他のドールとの合わせ技で冷蔵庫が作れそうだけど……。


 そんなことを考えながら階段を下りて一階までやってくると、キーコ以外の全員が待機姿勢のまま壁の前に並んでいた。


 やっぱりこういう人間離れしているところを見ると人間ではないと認識してしまう。


「おはようございます」


 全員の挨拶がハモる。


「お、おはよう……」


 みんな俺に忠実なんだろうけど、もっとこうフランクに接して欲しい。


 アス子は最初と比べると少しだけマシになったように思うので、みんなもアス子を見習ってほしいけど、それもまた個性だと思うので、特に何も言わないでおこう。


 列からスイ子さんが前に出た。


「今からお食事をご用意しますね~」


「あ、うん、お願いします」


 いつも食事は店で買ったり外食で済ませていたので、こうやって誰かが自分のために作ってくれるというのはなんともこそばゆい。


 スイ子さんは水のドールであり、料理を作ることがメインのドールではないのに作ってくれていることに感謝だ。


「ご主人さまぁ~、お預かりしていたお金をお返しいたしますぅ~」


 買い出しに行ってくれたシャトルがテーブルの上にお金を置いてくれた。


 予備の金貨二枚は余り、銀貨と銅貨が置かれている。


「シャトル、買い物してて金貨の価値とか分かった?」


「はいぃ~。銅貨百枚で銀貨一枚でぇ~、銀貨十枚で金貨一枚でしたぁ~」


「……なるほど」


 予想とは違ったけどそれでもやはり多い。


 銅貨千枚で金貨一枚。


 それが手元に二百枚近く。


 一食銅貨五枚前後。


 やっぱりどうしても報酬の金貨二百枚が引っかかっる。


 あのギルドマスターは何か別の意味も込めて多めに渡したんじゃ……。


 この件はこれ以上考えないようにしよう。そうしよう。


「お待たせしました~」


 スイ子さんが料理を目の前に置いてくれた。


「……作るの早いね?」


「予め調理を済ませておきましたので~、最後の仕上げをしただけです~」


 目の前にある料理は肉料理で、食欲をそそるかなりいい匂いがしている。


 置かれている木のフォークとナイフを使い、ステーキのような肉を切り分ける。


「そういえばこれ、何の肉?」


「ジャイアントカウの肉と聞いてますぅ~」


 カウ……牛の肉かな?


 つまりこれは牛肉のステーキ。


 起きてステーキか……いや、好きだけど。


「それじゃ、頂きます」


 切り分けた肉を口に運ぶ。


「……」


 肉は非常に柔らかく、かけてあったソースもサッパリとしているものでとても食べやすい。


 肉の重い感じもなく、これなら起きたばかりでも全く気にならないで食べられる。


「うん、凄く美味しいよこれ」


「お口にあったようで良かったです~」


 割烹着姿のスイ子さんがほっとしたように笑みを浮かべている。


 手が止まらず、次から次へと口へ運び、あっという間に食べ終わってしまった。


 こんな美味い肉料理は元の世界でも食べたことがないかもしれない。


 備え付けの何かの葉っぱも食べてしまう。


 置いてあることは食べられるだろうという判断で確認せず食べたが、大丈夫だった。


 レタスのようなシャキシャキした食感で、口の中に野菜と水分が溢れる。


「あぁ、ご飯が欲しいなぁ……」


 白米があれば尚良かった。


 この世界に米もあればいいなぁ。


「ご主人さまぁ~」


 シャトルが俺を呼んでいる。


「ん?」


「そんなこともあろうかとお店の人に聞いたんですけどぉ~、東の島国に行けば手に入るかもしれないと教えてもらいましたぁ~」


「ほう……」


 その言葉を聞いて真剣な眼光をシャトルに向けた。


「分かった、ナイス情報だシャトル。明日は東の島国に行ってみよう」


 行き当たりバッタリの活動だが、米の誘惑には勝てない。


 しかし東の島国か。


 まるで日本みたいだなぁ。

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