第29話:倭の国

「ご主人さま、到着しましたよ」


 アス子に起こされて目を覚ます。


 三日目の朝。


 あれからお腹いっぱいになって二度寝して、ついでに体内時計も調整。


 あのまま起き続けていたら生活リズムが崩れちゃうから仕方ないね。


 そして今日の目覚めはいつもと違う。


 起きるとそこは見知らぬ土地だった。


「極東の地」


 キーコが指をさしている方向を見ると、和風建築が目に入る。


 まるで江戸時代のような瓦屋根と背の低い建物が並ぶ町。


 そして和風の城。


 それが俺の視界に映っている。


「寝てる間に移動お願いしたけど、まさか海すら渡ってるとはね……どうやったの?」


 ベッド代わりになっているスイ子さんから離れ起き上がり、スイ子さんは人型に戻る。


「海は私が道を作って進みました~」


 スイ子さんが笑顔でそう言う。


「……どうやって?」


「海水を分けて道を作って~、その道をアースゴーレムちゃんたちに走ってもらいました~」


 モーゼの十戒か!


「ああ、そう……うん、凄いね、はは……」


 スイ子さんは水を操ることができるドール。


 だから海水を操ることも造作もないのかもしれない。


「もっと褒めてください~」


 スイ子さんが抱きつきながら頬ずりをしてくる。


「ちょ、ちょっとスイ子さん……!」


「ち・か・い!!」


 スイ子さんはアス子に無理矢理引き剥がされ残念そうな顔をしている。


 俺はまだ胸がドキドキしていた。


 なんだかスイ子さんの距離感が近くなっているような……。


「マイマスター、これからどうなさいますか?」


 火子がキリっとした表情でこれからの行動について聞いてきた。


 土地が変われば生態系も変わっていると思う。


 そうなると出てくる魔物も今までと違うかもしれない。


 ゴブリンは西洋だとして、和風だと……。


 ──『ゴブリンロードの他に、オークロード、コボルトロード、オーガロードが誕生していたのだよ』


 ギルドマスターの言葉を思い出した。


 コボルトかオーガ、どちらも和風なイメージがあるので、もしかしたらその二つが現れるかもしれない。


 そしてその二つはどちらもロード種が誕生している。


 もしこの島国に二種類も誕生していたら、この島詰んでないか?


 実際どうなのかは分からないが、油断せずに行こう。


「とりあえず街……町? に行って情報を集めたいな。もう少し近づいたら歩いて町に入ろう」


「かしこまりました」


 相変わらず全員がハモって返してくれる。


 和風の町か。


 もしかしたら刀とかあったりして、ワンチャン刀のドールとか作れるかもしれない。


 だが目的は米だ。


 もしかしたら味噌もあるかな?


 和食に期待を寄せ、アースゴーレムで森の中を進んでいった。


 道中目の前を猪みたいな生き物が、ウリ坊みたいな子供何匹か引き連れて横切っていったのには癒された。


 そうして進み、舗装されたような土道に出たので、アースゴーレムを戻し、徒歩で町まで歩き出した。


 キーコのウッドマンたちに周囲を囲まれ移動をしているが、魔物に囲まれている一行みたいに見えなくもない。


 歩き続けて数十分、もう少し町に着きそうだ。


「危ない!!」


「え?」


 聞きなれない声に慌てて周囲を見渡し、アス子たちが俺を囲み周囲を警戒する。


 ウッドマンの一体が切り倒されていることに気づいた。


 あのガーランドたちですら傷つけることができなかったウッドマンが、真っ二つに薪のように斬られている。


 ウッドマンを斬り倒した者の正体は──


「今お助けいたします!!」


 和装に身を包んだ黒髪ポニーテールの少女だった。


「マスター、どうする?」


 キーコが聞いてくる間にも、少女は次々に無抵抗なウッドマンたちを斬り倒していく。


 少女自体は俺たちに敵意はなく、その言動から魔物に囲まれている俺たちを助けてくれているのだと思う。


「とりあえずウッドマンを一旦全部戻せるか?」


「分かった」


 キーコがウッドマンを全て地面に戻し、少女は斬る対象がいなくなったので辺りを見渡し安全を確認したのか、刀を納刀した。


「いやはや危なかったですね、助けが間に合って良かった」


 和装の少女はやりきったという顔をしているが、こっちのドールたちは気を許していない。


「ああ、いきなり飛び出して申し訳ありません。警戒するのも当然ですよね」


 少女は両手を軽く上げて敵意がないことをアピールしている。


「私は倭の国の冒険者ギルドに所属している、ユリ・キサラギ。クラスはソードマスターです」


 ユリと名乗った少女は紫色の冒険者カードを見せてきた。

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