異世界オートライフ ~クリエイトしたドールたちと楽しい異世界ライフ~

裏影P

第1話:【ドールクリエイト】

「あっ」


 仕事の帰りに青信号を渡っていたらトラックがノーブレーキで迫ってきた。


 俺は動けなかった。


 死んだな。


 そう思った瞬間、俺は意識を失った。



 ◇   ◇   ◇



「……ここは」


 目が覚めた俺はむくりと起き上がり、周囲を見渡した。


 辺り一面白い空間で、壁も何もなかった。


 俺は一体何をしていたのか、思い出せない。


 頭がぼやける。意識がハッキリしない。


「やっと起きたわね」


 パッと目の前に菱形のブロックが現れた。


「私は神よ」


 人の顔くらいの大きさのソレは、神と名乗った。


栗江田形人くりえだけいと、あなたはトラックに轢かれて死んだわ」


 神と名乗ったソレは俺が死んだと告げる。


 だが俺はこうして生きている。


 この整合性のない事態は夢だな。俺はそう思うことにした。


「まだ意識と記憶が混濁してるのね……まぁいいわ、生前のあなたの善行を評価して、異世界で第二の人生を送らせてあげる。何か欲しいものとかないかしら?」


 どうやら俺は異世界で第二の人生を送れるらしい。


 欲しい物。


 ぼやける頭で考える。


 金や権力が欲しいといえば欲しいが、それよりも欲しいものが俺にはあった。


 俺は毎日家事と仕事で一切の遊ぶ暇がなく生活してきた。


 誰かが俺の代わりに家事をしてくれれば。


 誰かが俺の代わりに仕事をしてくれれば。


 いつもそう思いながら、何の夢も持たず、ただただ毎日を生きていた。


 だから──


「……俺の代わりに家事とか仕事とかしてくれる存在が欲しいです」


 こう答えた。


「なるほどね……。確かにあなたの生前は、家事や仕事に追われすぎて、人間らしい生活を送れていなかったわねぇ」


 だから、俺の代わりに動いてくれる存在が欲しい。


 そしてゆくゆくは何もしなくても生きていけるようになりたい。


 これは夢だ。夢ならそれくらい馬鹿げたことを考えても悪くないと思う。


「うーん、それじゃあこれなんかがいいわね。あなたには【ドールクリエイト】の力をあげるわ。これで自分の代わりに動いてくれる人を作りなさい。使い方はもう分かるはずよ」


 神と名乗った者がそう言うと、俺の体を淡い光が包み、俺の意識は再び落ちた。


「……余計なお世話だったかしらね」


 誰もいなくなった空間で、神は一人つぶやいていた。



 ◇   ◇   ◇



「んあ……?」


 目を覚ますと知らない森の中にいた。


「なんで?」


 きっとこれは夢だと思い、俺は再び眠ろうと目を閉じた。


「ワオォーーーーーーーーン!!」


 突然聞こえた狼のものと思われる遠吠えに飛び起きる。


「ウッソだろ……」


 頭はまだ冷め切っておらず、だが心臓はバクバクと鼓動している。


 周囲を見渡しても何もいない。だけど遠吠えはしっかり聞こえた。


「ヤバイんじゃないの~……?」


 軽口を出して気を紛らわそうとしたが、逆効果だったかもしれない。


 額から汗が流れ、地面へと落ちた。


 落ちた汗を見つめる。


(そういえば)


 夢の中で神と名乗った者から、ドールクリエイトという力を与えられたのを思い出す。


 力の使い方は既に知っている。


「……夢か幻か」


 俺は意を決して力を使うことを決め、地面に片膝片手をついた。、


「──ドールクリエイト!」


 すると俺の体から何かが地面に流れ込んでいくのを感じた。


「これが魔力かッ……!」


 ドールクリエイトには魔力を消費する。


 それまで魔力を持っていなかったが、このドールクリエイトの力とセットで、俺には魔力が備わっていた。


 魔力を注ぎ込まれた地面の土が、モリモリと盛り上がっていく。


 そしてソレは徐々に人の形をかたどり──最終的にメイド服を着た美少女になった。


「マジか……」


「おはようございますご主人さま。なんなりとご命令ください」


 まるで人間と変わらないドールが目の前にいた。


 黒いワンピースにフリルのついた白いエプロン、頭には白いヘッドドレスを装着し、茶色いショートボブの髪が印象的だった。


 土で作り上げたはずのそれは、まるで人間そのものだ。


 俺は確認せずにはいられなかった。


「えっと、髪、触っても良い?」


「はい。この体はご主人様がお作りになったものです。ご自由にして頂いて構いません」


 少女は屈託のない笑顔でそう答え、俺はゆっくりと手を伸ばして髪に触れた。


「す、凄い……!」


 その髪は人間の髪の毛と同じようにサラサラで、土であることを一切感じさせなかった。


 よく見ればメイド服もしっかり皺があり、触れてみると布の生地の感触だった。


「本当に土から作ったんだよな……?」


「はい。私はご主人さまによって土から作られたドールです」


「意思の疎通もできるし、いよいよもって人間──」


 俺が感心しているところで、後ろからガサっと茂みが揺れるような音が聞こえた。


「そう言えば狼の声が聞こえてたんだった……」


 あまりの出来事に危機的状況を忘れてしまい、血の気が引いていく。


「ご主人さま、お下がりください。ここは私が対応致します」


 そう言って少女は前に出た。


 茂みを揺らす音の数が増えてきた。何かの数が増えたのかもしれない。


「……君は、一体何ができるんだ?」


「私は──」


 少女が何かを言う前に、前方の茂みから三匹の狼が吠えながら飛び出してきた。


「アースウォール!!」


 少女が地面を踏みつけると、目の前に一瞬で土の壁がせり上がった。


 そしてその壁が三匹の突撃を防ぎ──


「アースショット!!」


 その言葉とともにせり上がった壁が粉々に砕け、まるでショットガンのように前方に発射された。


 その攻撃をモロに受けた三匹の狼は、体中が穴だらけになり、見るも無残な姿になり果てていた。


「メイク! アースゴーレム!!」


 少女が両手を地面につけると、さっき俺が少女を作り上げたあげたときのように土が盛り上がり、10メートル近い土の巨人ができあがっていた。


「…………」


 俺はあまりの出来事に開いた口が塞がらず、言葉を失い、ただその場に立ち尽くすしかなかった。


 一体何が起きているのか、俺の頭は理解をすることができなかった。


 今度は一際大きな狼が飛びかかってきたと思ったら、土の巨人のアッパースイングで遥か彼方に吹き飛ばされていった。


「たーまやー……」


 それから不穏な気配はなくなり、危機的状況を脱することができたようだ。


「ご主人さま、やりました!」


 少女と土の巨人が連動するとうに動いてピースサインをしている。


「あ、あぁ、うん……」


 呆気にとられた俺はそう答えるしかできなかったが、少女は満面の笑みで喜んでいた。

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