第31話:和と米と味と

 ユリに案内されて大和国までやってきた訳だが……。


 見渡す限り和服和服和服で、実に日本っぽい。


 髪型は自由でチョンマゲスタイルはまだ見つかっていない。


 和服の種類は色んな時代のものが入り混じっているように見える。


 江戸時代のようなものから大正時代くらいだろうか。


 建物は木造に瓦の屋根で、時代劇でよく見るようなものだった。


 建築に関してはそこまで発展していないのかな?


 まぁそれは俺が気にするようなことじゃないな。


 俺の目的は米だ。


「キサラギさん、お米屋さんってどこにありますか?」


「米問屋ですか、それでしたらこちらです」


 案内してくれるキサラギについていく。


 最初は日本テイストな街並みに驚いたが、こうして進んで見てみると、洋風の恰好をした冒険者らしき人たちもちらほら見かける。


 和風の町に洋風の冒険者の姿っていうのは、なかなかそそるものがある。


 メイドにしてもそうだ。


 なんでこんなに胸が高鳴るんだろう?


 俺が今まで気づかなかっただけで、こういうのが好きだったのかもしれない。


 ここは見てるだけで楽しい素敵な町だ。


「つきました、ここです」


 キサラギに案内された場所は、垂れ幕に米と味と書かれた大きな建物だった。


 大きいと言っても二階建てとかではなく、横に広い。


「じゃあ俺とアス子とスイ子さんとキーコで中に入るから、三人はここで待ってて」


「かしこまりました」


 キサラギに先導されて米屋の中に入る。


 中では忙しそうに駆け回る人たちが多かった。


 正面にカウンターがあり、そこで手続きをして米を買うようだ。


 カウンターの奥には色んなサイズの米俵が置かれている。


「あ、今更なんだけど、金貨でも大丈夫かな……?」


 ここにはここの通貨があるかもしれない。


「ああ大丈夫ですよ。この国の通貨は存在しますが、冒険者ギルドから支払われる報酬は同じなので、銀貨や銅貨でも問題ありません」


 それならよかった。


 しかし価値的な問題はどうなっているんだろう?


「おぉ、これはこれは! キサラギ様よくおいでくださいました!」


「店主殿、今日も忙しそうですね」


「ええ、各地に出たロード種の被害で大忙しです」


 いつの間にかキサラギは恰幅の良い男と何か話していた。


 どこかで見たことがあるような……。


「……キサラギ様、そちらの方は?」


「紹介が遅れてすみません、この方は私と同じマスタークラスのクリエダ殿です」


「ああ、どうも、ケイト・クリエダです」


 キサラギに紹介されたので、頭を下げて店主の男に名乗る。


「ああ! 貴方が兄の話していた冒険者様でしたか!」


 店主が兄と呼ぶ人物……店主、そこで気がついた。


 この人、道具屋の店主とソックリなんだ。


 なんだか店主の目つきが獲物を見るような目に変わった気がする。


 早めに用事を済ませて逃げよう。


「ええと、お米を買いに来たので、奥の小さな米俵一つ頂けますか?」


「あの大きさのですと……そうですね、百食分ほどになりますので、銀貨四枚ほどになります」


「じゃあ金貨一枚でお願いします」


 アス子が店主に金貨を一枚渡す。


「おーい、奥から俵小一つ持ってきておくれー!」


 店主がカウンターに向こうにいる店員?に指示を出した。


 これでお米が手に入ると思うと嬉しさが込み上がってくる。


「そうだ店主さん、味噌とかってありますか?」


「おお、ありますありますありますとも! おーい! 味噌も追加だ!」


 店主のオーバーアクションに少し引き気味になったけど、味噌もあるのは嬉しい。


 垂れ幕の味は味噌の意味だったのかな。


 少し待って小さな米俵と、片手で持てるくらいの壺が運ばれてきた。


「えっと、味噌の値段はいくらですか?」


「こちらは銀貨三枚の量となっています。米と同じく百食分はあるかと」


 ということは米と合わせて銀貨七枚。


 百食分で考えれば、そんな高くはないのかもしれない。


 まぁ妥当な値段かな?


「分かりました、買わせてもらいますね」


 アス子が米を受け取り、キーコが味噌の壺を受け取る。


「確かに。こちらは釣りの銀貨三枚になります」


「はい、確かに」


 今度はちゃんとお釣りをもらっておく。


 こうして米と味噌を手に入れて、俺たちは米屋を後にした。




「キサラギさん、ありがとうございました。貴女のおかげ楽に目的の物を買うことができました。俺たちは暫く町を散策してから帰りますね」


 ここまで案内してくれたキサラギに感謝だ。


「いえいえ、これくらいお安い御用です。私は冒険者ギルドにいますので、何かありましたら遠慮なく相談してください」


「はい、そのときはよろしくお願いします」


 そう言ってキサラギと別れた。


 俺の勘だけど、もしかしたらキサラギとはまた近い内に出会うことになるかもしれない。


「さてと、城のほうでも行ってみよっか」


 俺たちは高くそびえる城を目指して歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る