第15話 恋バナタイム

 さてさて、そろそろ話を切り出そうかと思っていたちょうどその時。


「皆もええ感じで出来上がって来たやろし、恋バナでもしようや」


 そうカナが切り出す。


「カナは彼女ののろけ話したいだけやろ」

「そやそや」

「いっつもカナは惚気けたがるよね」

「そ、そうなんだ……」


 だいだい、これまで四人で集まって恋バナになると、カナが自分の彼女を惚気けるところから始まる。ちなみに、前回集まった時は、残る二名にはこれといって恋バナは無いようだった。気恥ずかしくて言えない可能性もあるけど。


「別にええやろ。幸せで何が悪いんや?」

「あー、はいはい。で、今回はなんや?」


 赤ら顔で絡みだすカナに対して、どうでも良さそうにマユはあしらう。


「あかりちゃんだっけ。よく泊まってくんだよね」


 写真を見せてもらっただけだけど、明るい表情が魅力的な感じだった。


「そうそう。あかりの奴はほんま可愛くてな。こないだベッドの中でも……」


 夜の秘め事をカナが話しだそうとするので、


「下ネタ禁止!」


 すかさず、ストップをかける。僕は下ネタに耐性がないのだ。


「ユータはそういう所、純情なんやから~」

「節度をわきまえているといって欲しいんだけど」


 マユに笑われたので、少しムっとして言い返す。


「まあまあ、それであかりちゃんがなんやって?」

「よー聞いてくれた。あかりの奴、いつまでも初々しくてな。

キスする時も、いっつも恥ずかしそうにするのが、こうぐっとくるんや。で、ベッドの中でも……」

「だから下ネタ禁止!」


 僕は、そういう体験がないから、生々しい話をされるのが苦手ということもあるのだけど、他の二人……とかおちゃんはどうなんだろう?


「しゃあないな。じゃあ、コンドームは何mmがええと思う?」

「……」


 それも下ネタだろうと言いたくなったけど、生々しい体験を聞かされるよりはマシだろう。ただ、何mmがいいと言われても、僕には答えようがないのだけど、他の皆は如何に。そう思って見渡すと、


「……」

「……」

「……」


 皆無言だった。ひょっとして、皆も体験がない?


「おうおう。ひょっとして、皆童貞なんか?……あ、処女もおったか」


 がっはっはと笑うカナ。こいつ、もう完全に出来上がってる。しかし、特に、女性陣にそれは危険じゃないかな。


 特に、マユとかおちゃんが殺意の籠もった眼差しでカナを見つめている。


「ああ?自慢か?自慢か?」


 マユが関節技を仕掛けにかかる。


「痛い、痛い」

「童貞捨てた事なんか、いちいち自慢するからや」


 ふん、とマユは言い放つ。


「私も、さっきのはいただけないなあ」


 実力行使には出ないものの、かおちゃんも似た意見らしい。


「別にええんやない?童貞でも童貞でなくても」


 素知らぬ顔のこーちゃんだけど、さっきの反応を見る限り、そうでもないような。


「まあまあ。別に、そのくらいは許してあげようよ」

「全く、ユータは甘いんやから」


 かけていた関節技をようやく止めたマユ。


「で、ユータはかおちゃんで童貞を捨てるんか?ん?」


 酔ったついでの言葉だろうけど、皆がドン引きしていた。それもそうだろう。まさしく、僕とかおちゃんを、皆でくっつけようとしていたのだから。


 しかし、これはいい機会かもしれない。


「いい機会だから言っておきたいんだけど」


 はっきりと、しかし、ゆっくりと僕はしゃべり始める。周囲の皆は、普段と雰囲気が違うのに気がついたのか、ビクっとしている。


「僕はかおちゃんにはもうそういう気持ちはないからね。でしょ?」

「うん。私も……卒業式の事は昔の想い出だし、今はいい友達だと思ってるよ」

「だから、皆の気持ちは嬉しいんだけど、くっつけようとするのは止めて欲しい」

 

 きっぱりと言い放った。しばらくの間、場がしーんとなる。


「そ、そうやったんや。私は今もてっきり……と思うてな。ほんとごめんな」

「すまんかった。あと、酔ったついでに、変なこと言って悪かったわ」

「ごめんな、ユータ」


 きっぱりと言ったおかげか、かおちゃんも同意したおかげか、皆も本気で僕が迷惑がっている事にようやく気がついたのだろう。口々に謝ってくる。


「別に怒ってないから。わかってくれれば、それでいいよ」


 こんなことで、皆が気まずくなるのは避けたい。


「とりあえず、あかりちゃんの事もっと聞かせてよ、カナ」


 気まずい空気になる前に、話を促す。


「あ、ああ。そやな。あかりはなんていうか……」


 再び彼女の自慢話をし出すカナに、ツッコミを入れる面々。とりあえず、誤解は解けたかと、ほっとする。


 そんな様をぼーっと眺めていると、マユがいつの間にか僕の側に来ていた。


「その、ユータ。ちょっと外に出えへん?」


 何か話したそうな口ぶりだけど、何だろうか。


「ん。いいよ」


 頷いて、二人で部屋のベランダに出る。


「あー、いい風。ちょっと寒いけど」


 色々あったけど、誤解も解けたし、皆で集まれたし、良かった。


「真冬やのに、ユータは相変わらずやなあ」

「子どもは風の子って言うでしょ?」

「小学校の頃のユータはそんな感じやったな」


 冬でも半袖半ズボンで遊んでいた日々を思い出す。


「今は冬に半袖半ズボンは無理だって。死ぬ」

「さすがに、そこは成長したんやな」

「中学校には、半袖半ズボンは卒業してたよ。知ってるでしょ?」

「ま、それもそうやな」


 なんとなく、どうでもいいことを話していると、ふと、


「ユータ。今日はほんとごめんな」


 ほんとにすまなそうな顔で頭を下げられてしまう。


「ああ、かおちゃんとのこと?いいよ。分かってくれれば」


 勘違いをされたのと、好きな相手にそうされたのがきつかっただけで。


「それでも、私が決め付けたせいで、ユータには偉い迷惑かけて……」


 なおも謝ろうとするので、


「それ以上の謝罪禁止!僕の方が気分悪くなるから」


 そうきっぱり言ってあげた。一度決めつけると、変な方向に突っ走ってしまうマユだけど、逆に、誤りに気づいたら、こんな風に延々と謝罪をしてくる事がある。


「……ありがと。ユータ」

「別に、お礼を言われることでもないと思うけど」


 しばらくの間、僕たちの間を沈黙が支配する。


「なあ、ユータ。その、気い悪くせんといて欲しいんやけど」

「なんでもどうぞ」


 躊躇ちゅうちょしている風だけど、何を聞きたいのだろうか。


「ユータがあれだけきっぱり言ったんって、誰か好きな人がおるから?」


 そんなマユからの質問に、僕の心臓はドキンと高鳴った。

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