第3章 デート(仮)
第17話 日本橋にデートへ行こう
「ふわぁーあ」
それはおいといて、カナの家の洗面台で顔を洗うと、ベランダに出る。
「さむさむっ」
急速に意識が覚醒していく。マユを遊びに誘うのには成功したけど、どこに行ったものか。この近くで遊ぶ所といえば、
上本町は、小さなゲーセンや本屋さん、それに映画館などがある。日本橋は、ある意味東京における秋葉原のようなもので、電気街とオタク系ショップが連なっている。心斎橋は「若者の街」なんて呼ばれることも多いけど、ゴミゴミとした繁華街。道頓堀は食い倒れとして有名だけど、どちらかというと「あの汚い川」という印象が強い。阪神タイガースが優勝すると、道頓堀になぜか飛び込む人が後を絶たないのだけど、あの汚い川によくぞ、と思う。
告白が失敗するにせよ、成功するにせよ、マユが楽しんでくれるような、そんな一日にしたい。
「食べ歩きが出来るし、道頓堀かなあ」
などとつぶやく。さすがに大阪出身なので、ある程度はスマホを使うまでもない。
「ユータ♪道頓堀がどうかしたん?」
「わっ」
急に背中から手を回されてビクっとする。
「って、マユか……びっくりさせないでよ」
振り向くと、そこに居たのはマユだった。僕と同じように起きて来たらしい。
「ユータがなんや
狼狽えそうな場面だけど、考え事をしていたので、不思議と平静でいられた。
「ちょっと、どこに行こうか考えてただけ」
「私はどこでも構わんけどえな」
「僕は考えちゃうんだよ」
「ユータらしいな」
らしいか。
「ねえ、マユ。僕らしい、ってどういうことだろう」
「またなんや哲学的な話すんなあ」
「そういう深い話じゃなくてさ。さっきの言葉の意味」
「深い意味やないよ。相手が楽しめるかとか、そういう事考えとるって意味」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、過大評価だと思う。
「別に、僕が楽しんでくれないと嫌なだけで、大したことじゃないよ」
「かおちゃんも言っとったけどな。褒め言葉を素直に受け取れんのは悪いとこやで」
「う。ご、ごめん」
とは言え、どうしても、僕がそれほどの事をしているとは思えないのだけど。
「考えてくれてるのは嬉しいんやけど、今日はユータが行きたいとこでどうや?」
「僕の?うーん、でも、日本橋で電子工作部品探すとか、アレでしょ」
「好都合やん。日本橋なら同人ショップもあるし」
「あ、そうだったね」
そういえば、時々忘れそうになるけど、マユは同人誌をよく買うし、自分で同人誌を書いているくらいの奴だった。
「なんか、お目当てのでもある?」
「うーん。新刊出てへんか見に行くくらいやなー」
「そっかー。じゃあ、日本橋にしようか」
気合を入れすぎて空回っても仕方がない。というわけで、今日は日本橋付近を巡ることにしたのだった。
それから、しばらくして皆が起き出してきたので、昨日の買い出しで買った残り物をむしゃむしゃと食べる。
「それで、今日はどうする?昼過ぎまで皆で遊んでもええと思うけど」
カナが皆に向かって発言する。
「あー、ちょっとごめん。用事があって、昼過ぎまでに帰らないといけなくて」
「私も。ごめんな」
揃って、嘘をつく。きっと、一緒に出かけるといっても、カナたちは笑って許してくれそうな気はしたけど。
「そうか。残念やけど、しゃあないな。次、会えるのは春休みってとこか」
「そうだね。また、どっかで集まろうよ」
というわけで、朝食を終えた僕とマユは支度をする。
「じゃあ、また、今度。写真送っとくよ」
「頼むわ。マユは……まあ、いつでも会えるな」
「失礼な事いうなあ」
玄関前でそんな会話を交わす。
(マユとデートか?)
(……そうなるといいんだけどね)
(がんば、ユータ)
こーちゃんが珍しく応援してくれる。
「ゆーちゃん……」
少し寂しそうな目をして、僕を見つめるかおちゃん。
「また、春休みに皆で会おうよ。それで、色々話そう?」
「そうだね。ありがと。それと、頑張って」
「助かるよ」
カナの家を出た僕たち。
「最後の、「頑張って」はどういう意味や?」
「とりあえず、今は聞かないでくれると助かる」
「じゃあ、それも今日の終わりに話してもらうな」
「う、わかったよ」
さて。こうして、僕とマユは、日本橋へのデート(になるといいなあ)に出発したのだった。
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