第18話 寄り道とお宅訪問
二人してカナの家を出た僕たち。さて、どういうルートで行こうかなと考えていると、ひとつ脳裏に閃いた事があった。
「ちょっと、小学校の時の通学路通ってかない?」
「ん?ええよ。私もちょうどそう思っとったし」
「どうして?」
「んー。成人式やったし、昔の風景を見たくなってな」
「そっか。僕も同じ」
マユの答えを聞いて僕も少し嬉しくなる。僕も、昔の風景……特に、マユと通った風景を見ることで、一緒だった日々を再確認したくなったのだ。
そうして、少し遅い足取りで、昔の通学路を歩き始める僕たち。
まず目につくのは、僕の家の跡地だ。カナの家から2分くらいの所にある。
「こういうの見るとちょっと寂しいね」
「そうやね。しゃあないけど」
僕ら家族が引っ越して数年した後、住んでいたマンションは取り壊されて、今は更地になっている。マンションの敷地で遊んだ想い出があるだけに、少し寂しい。
それから、さらに5分くらい真っ直ぐ歩くと、左手にマユの住んでいるマンションが見えた。11階立てで、彼女は7階に住んでいる。
「マユの家って、卒業した後は行った事がなかったよね」
「だいたい、カナの家で集まっとったしな」
僕と同じように中学を卒業した後の日々を思い返しているのだろうか。マユもどこか懐かしそうだ。
「あ、そや!」
「ど、どうしたの、急に?」
大声を出したマユに僕はびっくりする。
「シャワー浴びるの忘れとった……」
「カナの家で借りれば良かったね。どうする?」
「今から回れ右もビミョーやしな。私んとこ寄ってく?」
一瞬、フリーズしそうになる僕。え?
「えと。どうして?」
「ユータもシャワー浴びたいやろ。今更遠慮せんでええから」
「……」
マユは、自分の家に男を上げるということの意味をわかっているのだろうか。いや、わかっていないはずがない。
だとすると、男として意識されていないのだろうかと少し暗澹たる気持ちになる。とはいえ、下手に遠慮してもどうかと思うし、お言葉に甘えるか。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
というわけで、マユの家のお風呂を借りる羽目になってしまった。
「ところでさ、マユのお母さんとか居るの?あと、
真紀子ちゃんは、マユの1歳年下の妹だ。小学校の時は、時々一緒に遊んであげた記憶がある。
「オカンたちは、今日はでかけとるな」
「そ、そっか」
気まずいような、ほっとするような、複雑な気持ちだ。マユのお父さんお母さんと会ったら、「おー、雄太君。久しぶりだね」とか色々挨拶しなきゃいけない気になるし、真紀子ちゃんに会ったら……今の関係を聞かれてしまいそうな気がする。
「ただいまー」
「お邪魔します」
というわけで、マユのお宅訪問と相成ったわけだが。
「マユ、先にシャワー浴びなよ」
「別に遠慮せんでええんやけど……せやな」
荷物を下ろして、パタパタと脱衣所にかけていくマユ。
なんとも気まずい。マユとの間でこんな事ってあったっけ?
(気にしすぎても仕方ないか)
ぼーっとしながら、マユがシャワーを浴びるのを待つ。5分程しただろうか。マユがシャワーを浴び終えたようだ。
「はー。いい湯やったー」
出てきたマユはあられの無い姿で、下着の上にシャツを着ただけという、なんとも扇情的な格好だった。お風呂上がりのせいで、髪も湿り気を帯びているのが、また色っぽい。
「ええと。さすがに、男として、その格好は目のやり場に困るんだけど」
また、からかわれるかと思ったのだけど、マユはといえば。
「あ、ああ。せやな。着替えてくるわ。ユータも入っといて」
そんな言葉を残して、慌てて部屋に引っ込んでしまった。
「どういうことだろ?」
少しよくわからない反応だったけど、とにかく僕も入るか。
ささっと、シャワーを浴びて、服を着直す。元々、泊まりのつもりだったので、着替えをもって来ていて良かった。スーツはちょっと窮屈だし。
「いいお湯だったよ。ありがと、マユ」
浴室を出ると、既にマユがリビングに待機していたのだけど、その服装は-
「そ、その。どうや?」
感想を聞いてくるマユだけど、どう言えばいいのだろう。ストライプのロングスカートにセーターという着こなしは、どことなく、今までより大人っぽく見える。長い髪を下ろしているのも、いい。
「うん。凄く似合ってる。うまい褒め言葉見つからないんだけど」
「そ、そか。良かったわ」
何故だか嬉しそうなマユ。どう考えても、僕と出かけるために着替えたようにしか見えないのだけど、お風呂に入り忘れたのは偶然のはずだし……
そうして、再び出発したのだけど。
「ああ、ここ。懐かしいな。ドッジボールとかよくやったよね」
「あ、ああせやな。懐かしいな。ユータ、ドッジボール好きやったな」
昔遊んだ公園を通って懐かしくなったのだけど、なんだか生返事のマユ。顔が少し赤い気がするし、様子がなんだか変だ。
「ひょっとして、熱でもある?」
手を彼女の額に当ててみるのだけど-
「あ、あわわわ」
あわてて、手をはねのけるマユ。
「ごめん。無神経だったよね」
なんとなく、意識されてないなら、平気だろうと思ったのだけど。
「いや、別にそういうんやないんや。うー……」
なんだかうめき声を漏らしながら、葛藤している様子のマユ。
「とにかく、理由を話してよ。じゃないと、楽しめそうにないし」
「んー。言うとくけど、勘違いせんといてな」
「勘違い?」
「その……さっき、お風呂出た時に、目のやり場に困る、って言われて、急に意識してしもうたというか。ああ、なんで、今まで平気やったんやろ」
答えながらも、色々混乱しているマユだけど、意識?
「えーと、ということは……」
「あくまで、男として意識したっちゅうだけやから。好きとかやないからな?」
「う、うん。それはわかってるけど」
どう取ればいいのだろうか。今のマユがなんだか可愛い、とかそれはおいといても、意識してもらえた?それだけでも、大きな進歩だ。
「ふーん。でも、あのマユがこんなに初心だったとはね……」
さんざんからかわれた仕返しをしてやろうと思いつく。
試しに、思いっきり前から抱きしめてみる。
「あ、あわわ。ちょ、ちょっと
あわあわするマユがとても可愛い。
「なんだか、マユが悪戯したくなる気持がわかって来たよ」
「今まで、ほんと、ほんと、悪かったから。堪忍な」
顔を真っ赤にしてじたばたするので、手を離してみる。相手がこういう反応を返してくれると、逆に楽しくなってくるというのは不思議なものだ。
「ほんと。調子に乗っとると、後で仕返しするからな?」
「じゃあ、その後、僕も仕返しするけど」
「……降参」
しょぼんとしたマユを前に、なんだか勝った気分になる僕。
あれ、そういえば、肝心な事を忘れてるような?
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