第22話 しばしの別れ

「……」

「……」


 今、僕たちは、日本橋にっぽんばしから新大阪しんおおさかへ向かって歩いている。日本橋から新大阪へは、地下鉄でなんば駅で乗り換える必要がある。


 しかし、マユと恋人になれたことは嬉しいのだけど-


「遠距離恋愛、なんだよなあ」

「そうやね」


 隣を歩くマユを見やると、嬉しそうにしながらも、少しの寂しさが見える……と思うのは、僕の願望だろうか?


「大阪と東京だから、新幹線一本だけで行けるだけマシか」

「でも、結構旅費かかるんやない?」

「計算してみたけど、片道14000円くらいみたい」


 新幹線「のぞみ」号で新大阪~東京の交通費を計算してみた結果だ。それに加えて、帰らないといけないから、一回で30000円近くの出費だ。


「毎週はさすがに無理やね」


 ちょっと可笑しそうに言う。


「毎週会いたいって思ってくれてるの?」

「そ、そういうのは恥ずかしいんやけど」

「僕は知りたい」

「あー、もう。私も毎週会いたいわ」

「良かった」

「言わせたくせに」


 ジト目で見られるけど、そう思ってくれるだけでとても幸せだ。


「こっちも旅費半分出すな。それやったら、半月に1回くらいは行けるやろ」

「じーん」


 そうまで言ってくれることにちょっと感動してしまう。


「それじゃあさ、東京と大阪で交互にデートしない?」

「それもええな。東京はあまり行ったことないし」


 気持ちがどうしても浮かれてしまう僕たち。恋に恋するというのはこういうのを言うのだろうか。


 そんな事を地下鉄の車内で話していると、あっという間に新大阪に到着していた。時間が経つのはほんとに早い。


 手をつなぎながら、もう少しでお別れなんだな、と思うとやっぱり少し寂しい。


「あ、そうそう。ビデオチャットもやろうよ」

「ええな。あ、でもパソコン無いわ」

「じゃあ、それも送るよ」

「そこまでしてもらうのは、悪いわ」

「別に余ってるの、いくつか転がってるし」

「それやったら」


 少しでも、そうやって一緒にいる時間をとりたい。そう思ってしまう。


 そして、いよいよ新幹線のホームにたどり着く。


「これで、しばらくお別れやね」

「うん。でも、きっと、会えれば大丈夫だよ」

「そうやね。ユータとなら、大丈夫や」


 あと少しで新幹線が到着してしまうけど、その前にしておきたい事があった。


「あのさ。キス、したいんだけど」

「キキキス?」

「声、大きい」


 慌てて口をふさぐ。周りの乗客に白い目で見られてしまう。


「しばらく会えないから、しておきたくて」

「そ、そやな。じゃあ……」


 目を閉じて、唇を突き出してくる。艷やかな唇に、瞼を閉じた顔はとても魅力的で-そっと、口付けたのだった。


「なんや、ようやくちゃんと恋人になれた気がするわ」

「実は僕も」


 唇を離して、言い合う僕たち。そうこうしている内に、いよいよ新幹線が到着したようだ。


「それじゃ、マユ。またね」

「東京に帰ったら、連絡ちょーだいな」

「もちろん。でも、深夜になるけど、大丈夫?」

「それより、連絡してくれへん方が不安や」

「わかった。そうするよ」


 新幹線に乗って、窓越しにマユを見る。しきりに手を振ってくれるのが嬉しい。


 そして、いよいよ、新幹線が出発する。少しずつ、マユのいる所が遠くなっていく。1分もしないうちに、完全にマユの姿が見えなくなって、やっぱり寂しいと思う。


【新幹線、動いたよ】

【ユータ、気が早いわ】

【でも、書きたくなって】

【私ら、ラブラブ……なんかな?】

【そうだと嬉しいな】


 新幹線が発車して間もないのに、こんな事をやりとりしているのは、ちょっと自分ながらどうかと思うけど。


 こうして、成人式とその翌日は終わったのだった。


 帰った後、また電話をすることになったのだけど、それはまた別の話。


※第3章はこれにて終わりです。

※第4章は二人の遠距離恋愛と、応援する幼馴染たちの交流のお話になる予定です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る