第4話 変わらない彼女

「久しぶり、ゆーちゃん!」


 屈託の無い笑顔でそんな台詞を発するかおちゃん。玉砕した相手にそう言われると、何を返していいのかわからなくて、頭が真っ白になる。ともあれ、何か言わないと。


「あ、ああ。久しぶり。中学卒業して以来だね」

「そうそう。ほんと、懐かしいなあ」


 ほんとに楽しそうに、僕の顔を覗き込んでくる。非常にややこしいのだけど、小学校の頃から付き合いのある面子の中で、彼女だけが東京出身なので、標準語を使う。


「何か?」

「ううん。ゆーちゃんは変わってないなあって」

「そうかな」

「うん。なんか、ぼけーっとしてるところとか」

「それは傷つくんだけど」


 そんな風に見られてたのか。


「冗談だってば。それより、元気してた?」

「うん。今は東京の大学で元気にやってるよ。かおちゃんは?」

「私はこっちの大学で、まあまあ元気かな」

「かおちゃんの学部は?やっぱり、文学部?」

「ううん。理学部」

「意外。文系だと思ってた」

「論理的に考えられねーから文系だな、こいつ、とか思ったでしょ」

「いや、思ってないって」

「ウソウソ。でも、中学までだと、確かに私、文系っぽかったよね」

「うんうん。いっつも、文学とか哲学の本とか読んでたし」


 小中のかおちゃんの事を思い出すと、文学少女、という言葉が当てはまる。


「ふふ。私にもそんな頃があったなあ……」


 どこか遠い目をする彼女。一体、何があったのやら。


「それで、ゆーちゃんは、やっぱり理系?」

「うん。理学部」

「工学部じゃなくて?」

「大学に工学部がなくてね。理学部の中に工学系があるんだ」

「そうなんだ。珍しいね」


 通っている大学の事を言うと自慢をしているようなので、あえて事情は伏せる。


「でも、ゆーちゃん、物作り好きだもん。きっと向いてるよ」

「そうかなあ」

「そうだってば。私が保証するよ」


 気がついたら、自分を振った相手である事をすっかり忘れて、昔話に花を咲かせている事に気がつく。かおちゃんは、昔の事として割り切っているのかな。だとしたら、僕もほっとするのだけど。そんな事を思っていると、


「かおちゃん、おひさ!」


 マユが話に割り込んできた。


「まゆみん!すっごい久しぶりだね」


 躊躇もなく、かおちゃんがマユに抱きつく。


「あー。よしよし。かおちゃんも変わらんなあ」


 苦笑いしながら、かおちゃんの背中を撫でるマユ。こういうのが絵になるあたり、ふたりとも美人だなあと実感する。


「高校とか大学の友達だと違うよ?昔っからだから、こうしてるだけ」

「ほんまかー?」

「ほんとだってば」


 仲良く話している女子二人。


「しかし、私らも、高校に上がった後、連絡取っとらんかったしな。5年ぶり?」

「だね。それに、カナも、こーちゃんも居るし。一緒に来たの?」

「うん。なんだかんだ、僕らは連絡取り合ってたからね」

「私も混ぜてくれれば良かったのに」


 かおちゃんの言葉に、少し不機嫌そうな声色が交じる。


「いや、ごめん。東京に引っ越して、色々バタバタしてたから……」


 本当は、振られた当事者としてどうしていいかわからなかったんだけど。カナたちも僕の気持ちを汲んでくれたし。


「そっか。じゃあ、仕方ないよね」

「うん。ごめん」

「別にいいよ。それじゃ、連絡先、交換しよ?」

「おっけー」


 そう言って、ラインのIDを交換する。


「あ、私も私も」


 続いて、マユとも。


 さらに、僕らの話を聞きつけた来たカナたちともIDを交換しあって、一気に彼女とのつながりが復活してしまったのだった。

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