第25話 逢瀬

 会う約束をした翌日の土曜日。僕は、新宿発大阪行きのバスに乗った。新宿で7:00発、17:00に梅田(新大阪駅の隣辺りの駅)着だから、7時間以上もバスに乗ることになるけど、今日会えると思うと苦にもならない。


 それに、昨夜は明日会えると思って、色々どこに行くか想像して寝られなかったから、高速バスで寝よう。


【さっき高速バス出発したよ。梅田に17:00頃着予定】


 マユに、向こうに着く予定を知らせる。


【じゃあ、迎えに行くな】

【うん。よろしく】


 マユも僕と会いたいと思っている事は疑っていないし、変に遠慮するのもおかしいだろう。


 バスが出発して、無事そのことを伝えた後、だんだん眠くなってくる。さすがに、睡眠不足が祟ったか。まあ、バスでゆっくり寝ればいいや。そう思って、瞼を閉じた。


 目が覚めると、もう17:00近くで、大阪らしい風景が見えている。寝られればいいと思っていたけど、ほんとにずっと寝ていたとは。高速バスで寝られない人も多いらしいから、ぐっすり寝られたのは良かったのかもしれない。


 高速バスが梅田に到着すると、早速、マユの姿が見えた。


 気づいたマユが手を振ってくれる。


「会いたかったよ、マユ」


 そう言って、彼女の身体をぎゅっとしっかり抱きしめる。身体のぬくもりも、香水の匂いも、何もかもが僕を刺激する。


「ちょ、ちょっと。ユータ。人が見とるよ」

「あ、ごめん」


 あまりに気持ちが募ってしまった結果だけど、せめて場所は考えないと。


「それでな。今日は、ユータとどこ回るか考えたんやけどな」

「そりゃありがたいけど」

「せっかく梅田周辺やし、ここらで夕食ってのはどうや?」


 なるほど。もう夕方だし、ここで夕食というのはちょうどいいかもしれない。


「おっけー。店は決まってるの?」

「17:30に予約しとるよ」

「用意周到だね」

「私も会いたかったんやからね」


 そんないじらしいことを言ってくれるので、また、嬉しくなってしまう。そうして、僕らは手をつないで梅田の街を歩き始める。


「梅田ってこう、いつ見ても複雑だよね。ダンジョンぽい」

「いっつも、工事しとるからな。しゃあないよ」


 梅田駅近くは、日本国内でも有数の複雑さで、しばしば「梅田ダンジョン」と呼ばれるとか。


 歩いていくと、梅田駅内の百貨店にマユは入っていく。


「ここで予約したの?」

「ちょうど美味しいって評判の店あったからな」

「何屋さん?」

「海産物系よ。新鮮なお刺身とか、焼き魚とかやな」

「それは期待できそう。お刺身といえば日本酒ってイメージだけど、飲む?」


 別に車に乗っているわけじゃないし、がんがん飲んでくれていいけど。


「せっかくやから、飲みたいわあ」

「じゃあ、それで、僕は……チューハイがあれば頼もうかな」

「ユータも、日本酒の良さがわかるとええんやけど」


 マユは少し残念そうだけど、飲んでみて合わないと思ったのも事実だ。


 エレベーターを昇った11Fにその店はあった。店は磯貝水産という。予約していたので、速やかに案内された個室にて。


「個室だったんだ。気楽に楽しめそうだね。ありがと」

「そうやろ?私なりに気を遣ったんやで」


 誇らしげに言うマユだけど、個室でゆっくりしたかったので感謝だ。そして、僕はレモンサワー、マユはよくわからない銘柄の日本酒を頼んで、乾杯をする。


「レモンだと飲みやすいね」

「はー。この日本酒、あたりやな」


 お互いに、お酒を思い思いに楽しむ。


「それでさ、この後の予定だけど、どうする?」


 実は、少し考えている事があるのだけど、いきなり切り出すのは恥ずかしいので出方を伺う。


「ここ出たら20:00くらいやろ。カラオケか映画館あたりとか?」

「ええと、その後で。その、泊まりのつもり、で来たんだけど」


 最後の方は、自然と小さな声になってしまう。


「そ、そやね。うち、泊まってく?」

「それもいいんだけど……ホテル、とか」


 まだ付き合ったばかりなのに、がっついていると思われそうで、気が引けるのだけど。


「やっぱり考えとったんやね」

「いや、ごめん。別に無理にとは」

「ええんや。私もユータと一つになりたいって思っとたし」


 顔が赤らんでいるのは、酒のせいか、恥じらっているのか。


「え、ええと。じゃあ、梅田付近でホテルで、いいかな?」

「は、はいな。不束者ですがよろしうお願いします」

「いえ、こちらこそ」


 やっぱり、お互い初めて同士なせいか、色々緊張してしまう。実は、昨夜その事を考えて勉強してきたのだけど、うまく行くかどうか。


 その後は、新鮮な魚介類にお互い舌鼓を打ちながら、マユや僕の大学での様子を話し合う。


 そうして、4時間近く。話が盛り上がり過ぎて、大幅に時間を過ぎた。会計を済ませて(僕が出すといったのだけど、マユが半分出すといって聞かなかったので、折半になった)、外に出る。


「もう22時だよね。カラオケ、行く?」

「ちょっと遅いん、と違う?」

「そ、そうだよね。だったらさ……」


 直接言葉にするのはためらわれたので、梅田近辺で見つけたそういうホテルのマップを見せる。


「もう行ってもいいかなと思うんだけど、どうかな?」

「そ、そうしよか」


 マユの顔も恥ずかしさで真っ赤だし、僕は僕でかあっとなっているのが自分でもわかるから、きっと顔が赤いんだろうなと思う。


 そうして、歩くこと約10分。そういう事をする……ラブホテルに僕たちは到着。


 こういうホテルのシステムはよくわからないのだけど、入り口の自動販売機で部屋番号を指定すると、鍵が落ちてくるというハイテクなシステムだった。


 というわけで、割り当てられた403号室に入った僕たちなのだけど、こういかにも、エッチしますよ、という雰囲気のホテルにドギマギしてしまう。


「とりあえず、マユが先にお風呂入ってきたら?」

「そ、そうやね」


 ぎこちない動作で、お風呂場に向かうマユ。シャワーの音が聞こえてきて、いよいよ、そういうことをしてしまうのだなと思うと落ち着かない。ほんとに、大丈夫だろうか。


「次は、ユータどうぞ」


 バスローブだけ身につけたマユは、可愛いというのと違った色気があって、くらくらしそうになる。とにかく。


「うん。行ってくる」


 マユと入れ替わりに僕もお風呂に入る。特に、エッチな事をするのだから、念入りに洗わないと、と思って、たっぷり20分程かけて、全身をしっかり洗ったのだった。


「ユータ、時間かかっとったな」

「ちゃんと、しっかり洗っておこうと思って。臭いとか残ってたらいけないし」

「私は気にせえへん、けど。ありがとうな」


 ベッドに座っている僕の隣に、気がついたらマユが来ていた。


「あのさ、一応確認だけど、初めて、だよね」

「そ、そうに決まっとるやん。ユータは」

「僕も初めてに決まってるよ」

「初めて同士やな」


 僕も緊張しているけど、マユもかなり緊張しているように見える。まずは―と思って、抱き寄せて、唇を奪う。


「んっ」


 ぴちゅ、ぴちゅ、と水音が漏れる。舌を入れてみるのは初めてだけど、彼女もおずおずと舌を入れてくれて、お互いに舌を絡め合っている内に、どんどん興奮してきて、下半身に血が集まっていくのがわかる。


「はあ、舌入れるのって初めてやったけど、気持ち良かったわあ」


 どこか、夢見心地な様子のマユ。


「僕も。こんなに気持ちいいなんて」


 でも、この後、どうすればいいんだろう。まず、肩に手を回してー


「!」


 びくんとした様子のマユ。


「急過ぎたよね。ごめん」

「いや、違うんよ。そのまま、やって?」


 嫌がられたわけじゃないらしい。手を回して、彼女の身体を押し倒していく。


 気がつくと、僕が上になって、下をみると火照った様子のマユが居る。既に一糸まとわぬ姿になっていて、興奮がかきてられていく。


「もし、下手だったらごめん。優しくするけど」

「そんな自信なさそうな顔せんでも、大丈夫やよ」


 押し倒されて覚悟が決まったのだろうか。マユは落ち着いているように見える。


「そっか。ありがとう」


 そして、僕はゆっくりと、彼女を愛撫し始める―


◇◆◇◆


「うーん。なんか、まだ挟まっとる感じ」

「僕が下手だったせいだよね。ごめん」

「別に下手やなかったよ。きちんと濡らしてくれたし」


 初めての行為を終えた僕たちは、ベッドにうつ伏せになって、語り合う。


「でも、イケなかったんでしょ?」

「それはしゃあないって」

「でも、男としては色々思うところがあるんだよ」

「次にもっと気持ちよくしてくれればええから」


 終わったことを引きずってても仕方ないし、何より、マユが気にしてないのに、言っても仕方がないか。


「でも、ユータにこれで処女をあげられたわけやけど」

「僕も、童貞は卒業したことになるね」

「あんまり実感わかんなあ」

「僕も、なんで、童貞ってだけで、ネタになるのかわからなくなってきた」


 少なくとも、童貞卒業したぜ!なんて言う人たちが言う程、大層なものに思えない。もちろん、初めての体験は緊張したり興奮したり嬉しかったりしたけど。


「でも、エッチが楽しいって気持ちはちょっとわかった気がするわ」

「イケなかったのに?」

「イクだけが楽しみやないよ。きっと」

「そうなんだ」


 男の僕にとっては、最後にイケないとなんだか情けない気分になるけど、女の子だとまた違うのかな?


「あー、ちょっと、眠くなってきた」


 自然とあくびがでてくる。安心したせいだろうか。


「私もやね。もう寝る?」

「うん。眠い……」


 ほっとしたせいか、どんどん眠気が襲ってきて、あっという間に睡魔に意識を飲み込まれていったのだった。

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