第14話 飲み会の始まり
その後も僕らは、色々なアトラクションを見て回った。たとえば、ハリーポッターに関するものだったり、あるいは、アメリカのサンフランシスコの町並みを再現したところだったり。
そして、日が暮れる前にUSJを後にした僕たち。
「今日はほんとによーけ遊んだな」
満足げなカナ。
「うん。僕は、ターミネーター2の奴が一番良かったな」
途中、色々あったけど、なんだかんだで楽しかった。
「あ、私も私も」
かおちゃんも同意する。
「私はハリーポッターのが良かったわあ」
「マユは怖がりだからね」
「やから怖がりやない!」
相変わらず頑なだけど、後半は無理に僕とかおちゃんを二人きりにさせるような事もなく楽しめた。
「俺はサンフランシスコのが一番やな」
あの中に歴史的建造物があったのかは知らないけど、なんだか、こーちゃんらしい感想だ。
「で、夜はどうするよ?明日も休みやから、家に泊まってってもええけど」
「賛成、僕は行くよ」
「私もやな」
「じゃあ、俺も」
皆が口々に賛成を表明する。カナの家はとても広いので、これまで大阪で集まった時は、よくカナの家に泊めてもらっていた。
「ええと、私もいいのかな?」
まだ遠慮があるのか、かおちゃんがそんな事を聞いてくる。
「かおちゃんももう仲間やろ。遠慮せんでええ」
カナらしい懐の広い返事。
「じゃ、混ぜてもらおうかな」
「ああ、そうせい、そうせい」
というわけで、カナの家で飲み会&お泊りに決定。カナの車で帰りがてら、お惣菜やおつまみ、大量のお酒を買い込んで帰宅する。ちなみに、カナの家は2階建ての一軒家だが、敷地も広く豪邸というのがふさわしい。
「カナ君のお家、久しぶりだけど、やっぱり広いよね」
かおちゃんの感想も納得だ。僕らが居るリビングだって、少なく見積もっても15畳はあるだろうかという広さだ。
「そういえば、おばさんは?」
他に人が見当たらないのに気がついたのだろうか。かおちゃんが疑問を尋ねる。
「オカンは今別のとこに住んどってな。俺が一人で使わせてもらっとるんや」
「えと、ごめん。何か事情が……?」
「大した事情やないよ。オカンは自由人やから、末っ子の俺が手かからなくなったから、夫婦水入らずで暮らしたいんやと」
笑いながら、そう答えるカナ。前にカナに聞いたことがあるけど、別に親子仲が悪いわけではなくて、本当にただそれだけらしい。
「つくづく、お金持ちだよね。カナのとこって」
カナのお母さんの気持ちはわからなくもないけど、ポンとそれだけのお金を出せるのが半端ない。本当のお金持ちは、必要なことをさっさとお金で解決してしまうところが違うなと思う。
「まあ、そのおかげやし、感謝せんとな」
マユの言葉に、皆がカナの方を拝みだす。
「それはおいといてや。皆、酒持ったか?」
今日はこの広い部屋で、飲み会&成人式パーティーだ。
カナはオーソドックスに缶ビール……ではなく、瓶ビールをマイジョッキに注いでいる。こんなものまで家に常備してあるあたりはさすがだ。
僕はアルコール分控えめの缶チューハイ。ハタチになってから、お酒を飲んでみたのだけど、あんまり酒に強くないことがわかったので、お酒はほろ良い程度に嗜むことにしている。
一方のマユは、帰りに買った日本酒の瓶からグラスにとくとくと注ぐ。マユは非常にお酒に強いので、こういう豪快な飲み方をする。
こーちゃんは、ウイスキーをロックで割っている。ウイスキーって度数が強いから僕は苦手なんだけど、彼はストレートでも平気らしい。
そして、かおちゃんはといえば、梅酒ソーダ割り。てっきり、僕と同じように缶チューハイかと思っていたので、ちょっとだけ意外だ。
「持ったよ」
「持ったで」
「私も」
「俺も」
「長口上は俺の趣味やないんで、サクッと。俺達の成人を祝って。かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
その言葉とともに、皆、お酒に口をつけ始める。
「ぷはー。疲れた後のビールは格別やな」
「カナはオヤジ臭いで」
カナの言葉にすかさずマユがツッコミを入れる。
「それいうたら、お前もおばはん臭いやろ」
「私のは風流て言うもんや」
「風流っていうなら
日本酒をドバーッとグラスに注ぐなんて、風流のかけらもない。
「そうまで言うなら、やったろうやないか」
どこから取り出したのかわからないお猪口に、溢れるギリギリまで日本酒を注ぐ。と思ったら、溢れている。
「ちょっと、入れすぎ!」
慌てて、テーブルを拭く。
「ユータは細かいところ気にし過ぎやって」
既に大きなグラス一杯分の日本酒を飲み干したらしい。相変わらずの酒豪っぷりだ。将来、身体壊さないといいんだけど。顔が全然赤くなっていないのが凄い。
「んー。やっぱり、ウイスキーに限るわ」
ちょびちょびと口をつけて、静かにウイスキーを嗜むこーちゃん。
「そういう度数高いのって、平気なの?」
確か、度数40くらいだったはず。
「ちびちび飲めばな」
「でも、苦くない?」
「そういうところ、ユータはまだまだやな」
鼻で笑われてしまう。まあ、僕は所詮、缶チューハイで満足する男だ。
「あ。この梅酒おいしい」
「梅酒は美味しそうだよね」
チューハイに近いというか、本格的なお酒が苦手な僕でも楽しめる。
「よかったら、飲んでみる?」
「じゃあ、ちょっともらうね」
かおちゃんのグラスの梅酒を一口含む。確かに、これは-
「美味しいね。甘ったるいだけじゃなくて、濃い梅の香りもするし」
「でしょ?美味しいって評判だから、気になってたんだよ」
「かおちゃんって梅酒にこだわりでもあるの?」
「結構色々飲み比べしてるよ。そのうち、自家製のも作ろうかなって思ってる」
「凄い……」
かおちゃんも、この五年で大人になったんだな、と実感する。
しかし、顔ぶれを見て、つくづく不思議に思う。
僕は東京の大学に通っていて、カナたちは大阪の大学に。中学を卒業してからは、こういった節目にしか会えていないのに、繋がりが続いている事が。
「これからも、こんな風に集まれるといいよね」
「何、他人事みたいにいうとるんや。ユータがいっつも企画してくれたんやろ?」
予想もしなかった、カナからの言葉。
「今回は、カナだと思うけど」
「今日やなくて、これまでな」
「これまで?」
「夏休みとか冬休みに入ると、いっつも、俺らのスケジュール聞いてくるやんか」
「いやまあ、なんとなく昔なじみに会いたくなるというか、それだけで……」
「調整がいっちゃん大変なんやから、ほんまユータには感謝しとるんよ」
しみじみと言われてしまうと、本気なのがわかって、むず痒くなってしまう。
「そやね。ユータはもっと自分を誇るべきや!」
「そうそう。ユータは謙虚過ぎ」
マユにこーちゃんまで賛同する始末だ。
「ふふ。ゆーちゃん、やっぱり変わってないんだね」
微笑ましげに僕を見つめてくるかおちゃん。
「変わってない、かなあ?」
「中学の時、集まりを企画するの、いっつもゆーちゃんだったもん」
「そうだったっけ」
「そうだよ。文化祭の打ち上げも、夏休みの旅行も……」
言われればそうかもしれないが、そんなに苦労した記憶がない。
「僕は、なんとなく、皆が集まれればいいなって思っただけだよ」
「それで、行動できるところが凄いんだよ」
「そんなでもないって」
「もう。謙虚なのはいいけど、卑屈なのは印象悪いよ?」
「う。ごめん」
「よろしい」
満足気にうなずくかおちゃん。
「今日だって、ほんとは……」
「ほんとは?」
「ううん。何でもない」
最後の声は、よく聞き取れなかった。
まさか、かおちゃんは、実は今でも僕の事を、なんて一瞬考えてしまうけど、さすがに五年も前の恋心を今でも引きずったりはしていないだろう。よしんばそうだったとしても、出来る事はなにもない。そう結論づけて、皆の話に声を傾ける。
(そろそろ、話を切り出す時かな)
そんな事を考えながら。
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