第32話 二人の一夜

 さて、マユのご両親や真紀子ちゃんが居ると思っていたところに、思わぬところで二人きりにさせられてしまったわけだけど、どうしたものか。


「と、とりあえず、シャワー浴びひん?ちょい汗かいたし」


 マユもどこか落ち着かない気分なのだろうか。途切れ途切れにそんな事を言う。


「う、うん。じゃあ、そうしようか」


 対する僕も、色々落ち着かない気分でいっぱいだ。最初から、二人きりでお泊りだったら、もう少し心の準備も出来たのだけど。念のために、いつもより身体をきちんと洗っておこう。


 先にシャワーを浴びて、持参したパジャマに着替えて待っていると、少しして、マユが出てきた。白地に苺をあしらった可愛らしいパジャマだ。髪が少ししめっていて、とても色っぽい。


「あ、その。似合ってるよ、マユ。可愛い」


 照れながらも、そんな言葉が咄嗟に出てきた。


「ありがとな。ユータも似合っとるよ」


 マユも照れているようで、言いながらも視線が僕から少し外れている。


 しかし、どうしたものか。と考えていたら、肩に温かい感触が。見ると、マユが耳まで真っ赤にしながら、身体を寄せて来ていた。


「その。私は、えーからな。ユータがしたいなら……」


 そんな破壊力のある台詞を吐かれると、僕も自分を抑えられそうにない。


「ほんとに、いいの?」


 念のため、確認をとってみる。すると、


「私ら、恋人どうしやろ?初めてもこないだ済ませたし」


 そんな、いじらしい返事。


「じゃあ……」


 まだまだ慣れない手つきで、マユの綺麗な顔を寄せて、口づけをする。


「はぁ」


 身体が熱い。暑いじゃなくて、熱い。マユの方も、ぽーっとした表情で僕と似たような感じだ。


「あ、その。続きは私の部屋で、な?」


 そうか。気がつけば、リビングで致してしまいそうになっていたけど、それはさすがに彼女としても落ち着かないだろう。


 消灯された彼女の部屋に移動して、ベッドに彼女を押し倒す。自然と息が荒くなってしまう。


「あ、ごめん。二度目なのに、全然慣れなくて……」


 何度も手間取りながら、彼女のボタンと1つ1つ外していく。


「別に、そんなこと、今さら気にしとらんから。落ち着いて、な」


 服を脱がされながらも落ち着いているマユ。


 そうして、夜は更けていく-


◇◇◇◇


 行為の後、パジャマを着た僕たち。


「なんか、した直後って色々恥ずかしいよね」


 ふと、我にかえって、何してたんだろう、と思うみたいな。


「賢者タイムっちゅうやつやね」


 少し笑いながら、そんな返しをするマユ。


「あれって、女の子もあるものなの?」


 前々から知りたいと思っていたのだけど。


「男子と同じかわからんけど、あるんよ?」


「へー。それは意外」


 てっきり、女の子には無いのかと思っていた。


「そういえばさ。1つ、言っておかないといけないことがあったんだった」


 隠しておくことも出来るけど、彼女には言っておいた方がいい気がする。


「言っておかないといけないこと?」


「宴会を途中で抜けた時のこと。あれさ、かおちゃんに告白されてたんだ」


「そやったんやね。なんや妙やと思っとったけど」


 そんな事をいいつつも、特に驚いた様子はない。


「中学の時から、ずっと好きだったんだってさ。僕が高校に行ってからも」


「……」


「もちろん、断ったけど。かおちゃんも色々不器用だよね」


「成人式の日の話、かおちゃんに関しては勘違いやなかったんやね」


「そうだね。かおちゃんもいい人見つけて欲しいな、って思ったよ」


「そうやね。その時は私らが一肌脱いであげたいわー」


 そう言ったきり、マユはしばらくぼーっとした様子だった。マユなりに、親友の恋路に色々思うところがあるんだろう。


「遠恋に対する恐れだけで、こんなに運命って変わるものなんだね……」


「まさか、やから別れようとか言い出すんやないやろうね?」


 僕の台詞に不穏な匂いを嗅ぎ取ったのか、堅い声でいうマユ。


「逆、逆。僕らは、遠恋でも、きっと大丈夫だって信じてるよ」


 会えない時はビデオチャットがあるし、どうしても会いたくなれば、電車でもバスでも使って会いに行けばいい。


「それやったらええんよ、それやったら」


 満足そうに頷くマユ。


「そういえばさ。大学出たらさ、大阪に戻るよ」


 今日のパーティーの中で考えていた事を口に出す。


「ええの?東京で就職したいとことかあるんやないの?」


「大阪だって、会社はいっぱいあるしさ。それに、成人式の日も、今日も思ったんだけど、やっぱり、僕にとっての故郷は大阪だって思ったんだ」


 東京が嫌いなわけじゃないけど、親友たちがいるし、それに、大好きな人がいるこの大阪が。


「それやったら、ユータも今から大阪弁のリハビリせんとな」


 それを聞いたマユは、何やら楽しそうな顔をしながらそんな事を言った。


「それは、大学卒業した後で勘弁してよ」


「いーや。就職してからやったら遅いんよ!さあ、今から!」


「ええー!?」


 そんなわけで、大阪弁のリハビリをしながら、僕らの夜は更けていくのだった。

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