第12話 彼女の誤解を解く方法
さて、考え事をしながらも、足は進んでいき、カナ達と合流した僕達。
「よっし。さっさと入ろうや」
カナを先頭に、僕らはぞろぞろと建物の中に入る。中は一見普通の劇場といった感じだけど、ここで、3D映画が上映されるのか。幸い、席は空いていたので、僕らは固まって座る。何故だかかおちゃんと僕が隣の席になっている辺りに、マユの意図のようなものを感じるのだけど。
とりあえず、せっかく来たんだ。考え事は忘れて映画を楽しもう。3D映画ということで、画面から物が飛び出てくるように見えるが、危険はないことなどが説明される。そんな注意をしないといけない程だからよっぽどなんだろう。
そして、映画が始まる。さすがに、全部ではなく一部のシーンを3D化したものらしい。中盤の敵ターミネーターが変化するシーンで、液体金属のようなものが観客席ににょろっと飛び出てくる。
「うわっ」
思わず大声を出してしまいそうになる。映像だけだとわかっていても、反射的に避けてしまいそうになる程、実際に迫ってくる感じだ。これは凄い。
「ひゃっ」
隣のかおちゃんもびっくりしたようで、身体を逸らしている。映像だから意味がないのだけど、そうしたくなる気持はよくわかる。
「あわわわ」
前のマユなんか、完全に怯えている。
それからも、アクションシーンで何かがスクリーンから飛び出してくるたびに、近くの観客が身体を逸らしたり、後ずさったり、声を上げる場面が見られて、最新技術の凄まじさを思い知る。
数十分そんな凄い不気味なシーンを堪能した僕ら。
「いやー、あれ、ほんと凄かったよね。刺されるかと思った」
「俺も、あれは映像とわかってても身体が動いてたわ」
「でも、未来の技術って感じで楽しかったよね」
「本当に飛び出してきたら、もっとおもろいんやけど」
口々に称賛の言葉が出る中で、一人、話に加わってきていないのが約一名。
「おーい、マユ。大丈夫?」
「だ、大丈夫やで。こ、怖くなんてないんやから」
身体が震えているので、強がりも全く説得力がない。
「あれ、ほんとに怖かったし、別に強がらなくても」
「強がっとらん!」
お化け屋敷で怖がってならともかく、今回のアトラクションで強がらなくてもいいのに、と思うと同時に、怖がっているマユがちょっと可愛かったりもする。それに、これはいい機会かもしれない。
「そういうところ、マユは可愛いね」
普段なら絶対言わないような台詞で、大変恥ずかしいのだが、ぐっと堪える。ついでに、後ろから抱き締めるという大胆なスキンシップを試みる。いや、羞恥のあまり死にそうなんだけど、マユがやってくるなら、僕だってありだよね。
「ちょ、ユータ。何しとるん?」
マユがびっくりしているようだ。
「何って、いつもマユが僕にやってることだけど」
「私、こんなぎゅってやっとらんよ」
「似たようなものでしょ」
ここが勝負所だ。いや、何の勝負かわからないんだけど、僕が意識してるってことアピールしなきゃ。
「いいから、離しいや」
「わかった、わかった」
あんまりずっとやるのも何なので、離れる。ふと、周りを見渡すと、カナを筆頭に皆がぽかーんとしている。ちょっとやり過ぎた?
とりあえず、何となくやってみたくなったと皆には誤魔化して、次のアトラクションに進む。
今度は、これまた一斉を風靡した恐竜映画である『ジュラシックパーク』をモチーフにしたアトラクションで、コースターに乗って、恐竜たちに追い詰められる、絶体絶命の体験を味わえるらしい。
【ユータ。さっきのはどういう意味?】
前を歩くマユから、そんなメッセージが来た。
【どういう意味も何も、いつものお返しだけど】
【やって、今はかおちゃんと一緒やのに】
まだ言うか。
【僕は吹っ切ったって言ったはずだけど?】
何が返ってくるか身構えるが、それっきりマユからの返事はなかった。
そして、移動する僕らは、またまた、前方で三人(カナ、マユ、こーちゃん)に後ろが僕とかおちゃんの二人だ。これはもうはっきりマユが意図してやってるんだな。それに、カナとこーちゃんも協力してると。
「ね、さっきの……まゆみんに抱きついてたのだけど」
控えめな声でかおちゃんが尋ねてくる。
「マユに少しは気づいてもらえないかなって。やり過ぎた?」
「ちょっと急すぎたんじゃないかな?」
「そっか……」
確かに、さっきは強引過ぎたかもしれない。ただ、それにしても、誤解を解くには、中途半端な事では駄目で、はっきり伝わる形にしないと、と思い始めていた。
いっそのこと、今晩にでも告白する?でも、今まで、かおちゃんと僕をくっつけようとしていたマユが応じてくれるとも思えない。
(とにかく、どこかでチャンスを見つけないと)
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