幼馴染な彼女が仲人をしたがるが、僕が好きなのは彼女なので困る

久野真一

第1章 再会と成人式

第1話 親友の家に集う僕ら

 僕は、難波雄太なんば ゆうた。東京都内の大学に通う大学2年生だ。今日は、大阪市内の天王寺区てんのうじくで行われる成人式に参加するために、親友であるカナの家にお邪魔していた。


 カナこと金澤義弘かなざわ よしひろ。名前からわかるように男だ。幼稚園からだから、もうざっと15年は付き合いがある。カナ、というのはあだ名なのだけど、名字を元にしたあだ名になって、それが定着してしまった。


「おいおい、ユータ。ネクタイがちゃんと結べてへんぞ」

「そうかな?ちゃんと結んだつもりなんだけど」

「貸してみい」


 そう言って、カナが僕のスーツのネクタイをいじりだす。ただ、いくら親友とはいえ、男にこういうことをされるのは非常に微妙な気持ちになる。特に、今は。


「次の同人誌は、カナ✕ユータってのもええかもな」


 ほら、マユが調子に乗る。


「いい加減、その腐った視線は止めて」


 腐った目で僕らを見つめてくるのは、津田 真由美つだ まゆみ。小学校の頃からだから、かなり長い付き合いになる。


 僕とカナの事を腐った目で掛け算しようとして来るのが困りものだけど、気のいい奴だ。ちなみに、よくわからないが、カナが攻めで僕が受けらしい。

 

 仲間内では彼女の事をマユと呼んでいる。誰とでもフランクに話せる奴で、しかも美人なので、昔から慕われている。


「ユータもええ歳してるんやから、ネクタイくらい結べるようにならんと」


 そう苦言を呈したのは、水村康介みずむら こうすけ。同じく、小学校の頃からの付き合いになる。僕たちのグループの中では、脱線した話を元に戻すことが多い。仲間内では、こーちゃんと呼ばれている。


「いや、こーちゃん。準備すればできるって」

「準備せなあかん時点で、駄目やろ。ユータ」

「そうだね……」


 こーちゃんの正論に二の句が告げなくなる。


 僕を含めたこの四人が昔からよく一緒に行動する僕の親友たちだ。世間でいうところの幼馴染といってもいい。


「しかし、ユータもすっかり関東人やね」


 マユがふとそんな事を口にする。


「心は大阪人のつもりなんだけど」

「気がついたら標準語になっとるやん。ユータが関東人になって、私は悲しいわあ」


 ヨヨヨと大げさな泣き真似をするマユ。こういうオーバーリアクションな所は、昔から変わっていない。


「泣き真似はいいから」

「ほら。そこで、ツッコミが入らんところも」

「といわれてもね」

「大阪人は、ボケツッコミが命やのに、東京に染まり腐って、もう」


 わざとらしくいじけだすマユ。


「うーん。ちょっと思い出してみる」


 高校になる頃に東京に引っ越したので、関東人歴はもう5年の僕だけど、根は大阪人。きっと、できるはずだ。よし。


「あほかい、マユ!」


 ぺしっと肩をはたく。


「あかん。あかんわ。わざとらし過ぎるわ」

「ええ!?」


 これで駄目ならどうすればいいというのか。そんな事を考えていると、


「マユ。ユータをいじるのはそれくらいにせえよ」


 カナが割って入って来た。マユが僕を弄って、それをカナが止めるというのがよくあるパターンだ。


「カナは相変わらずユータには甘いなあ」

「また腐ったこというと、はたくぞ」

「冗談やて。ユータが相変わらず天然やから、弄くりたくなるんやって」


 そんな掛け合いを始めるカナとマユ。この様子を誰かがみたら、この二人は付き合っていると錯覚しそうだ。生憎、カナには既に恋人がいるし、マユも特に浮いた話はないのだけど。


「そういえば、マユは彼氏作らないの?」


 前々から何度も発した問い。


「私は彼氏とかめんどいし、えーよ。それより、ユータが心配なんよ」

「僕?」

「ユータ、可愛いのと、情に厚いのはええけど、女子に免疫ないし、ぼーっとしとるし、……」


 僕の欠点を指折り数えて列挙するマユ。


「褒めてるのか貶してるのかどっち?」

「どっちもやよー。ほれ」


 そう言って、後ろから抱きつかれる。彼女にしてみれば冗談半分なんだけど、女子に免疫のない……それ以外の理由もあるのだけど、とにかく心臓に悪い。心臓が既にバクバク言っている。


「ああ、もう離れてよ」


 あわててマユを引き剥がす。


「ほら。免疫ないんやから」


 勝ち誇ったようにマユが言うのが悔しい。


「別に、さっきのはうっとうしかっただけだって」

「ほんまにー?」

「ほんとに」

「じゃあ、信じたるわ」


 そう、愉快そうに笑うマユは、認めるのはしゃくだけど魅力的だ。


「話が脱線しとる。そろそろ、出発せんと……」


 こーちゃんがストップをかける。こういう時、脱線し続ける会話にストップをかけてくれるのはありがたい。


「もうそんな時間なんや」


 意識して関西弁でしゃべってみる。


「無理して関西弁しゃべらんでええんよ?」


 マユにツッコまれる。


「これは、大阪人としての意地やから」


 関西弁で返す。


「やったら、もうちょっとイントネーション意識せな」

「イントネーションなんて忘れてるよ、じゃなかった、忘れとるよ」

「ユータもしばらく大阪に居たら思い出すと思うんやけどなあ」

「いうても、大学通うてる間は東京やし」


 意地でも関西弁を貫き通すことにした。

 

「よし!大学出たら、大阪戻ってきいや」

「ええ?」


 唐突なマユの言葉にびっくりする。


「なに嫌そうな顔しとるねん。私らと会いたくないんか!?」

「いや、そういうわけじゃないけど」


 標準語に戻ってしまった。難しい。


「冗談やて冗談。でも、東京に疲れたらいつでも戻ってきいやー」


 そう言って、バンバン肩を叩いてくるマユ。


「俺らもユータに大阪戻ってきて欲しいのは本音やな」

「カナまで……」

「ユータがいつも色々企画してくれるから、俺ら一緒に居られるようなもんやで」

「そこまでしてないと思うけど」

「ユータは天然やからなあ」


 カナに頭を撫でられる。男にそういうことされるのは微妙な気分になるのだけど。


「だから、脱線しとるって。もう、家出るでー」


 再度、脱線した会話に待ったをかけたのは、やっぱりこーちゃん。大事なストッパーだ。彼が居ないと、きっと、延々と会話が脱線し続けるに違いない。


 とにかく、そんな事を話しながら、僕らはカナの家を出発したのだった。なんだかんだで気のいい奴らだ。

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