第8話 USJへの道中
さてさて、USJへの道中。運転はカナに任せて、これからのことでも話すか。
「で、USJでどこ行くかとか決めてなかったよね」
それもそのはず。今日、その場の勢いで決まったのだから。
「そんなん、適当でええやん」
マユらしい答え。ノリで楽しむのが彼女のモットーなのだ。
「せっかくだから、ちゃんと調べようよ」
と発言したのはかおちゃん。昔からそうだったけど、入念にリサーチしてから挑むのが彼女のスタイルだ。
「うーんと、まず、どういうのに行きたいかだよね。ライド系……乗り物に乗って、楽しむ系はどうかな?」
スマホでUSJのページを見ながら、話を振ってみる。
「まさか、絶叫系とかないやろな?」
「マユは相変わらず怖がりだね」
「私はあの、胃の中が持ち上がる感触が嫌なだけや」
「それは怖いのと同じな気が」
「違うったら違うんや」
頑としてマユは認めようとしない。
「まあいいや。ライド系で絶叫マシーンみたいなのは無いみたい」
「それならええよ」
「私は、ちょっと残念」
かおちゃんは、中学の頃までの文学少女という物静かなイメージに反して、こういう絶叫系大好きっ子なのである。
「じゃあ、とりあえず、ライド系で何か探すとして、あとは、ショー系かな」
「ショー系?」
マユが首をひねる。
「映画とか、観る中心のやつみたい。3D技術とか駆使したのが売りらしいよ」
「それは俺も行っときたいわ」
助手席から会話に入ってくるこーちゃん。確かに、そういうハイテクを駆使したのはこーちゃんが好きそうだ。
「ああ、思い出したわ。なんか、3D眼鏡で色々飛び出して来たりするんやな」
「みたいだね。で、どう?マユ的には」
「3D酔いしそうやけど、ありやな」
少し考え込んだ後に、肯定の返事。図太い……というと失礼か。一見そう見えるけど、結構マユは繊細なんだよね。
「私もありあり。映画の中からびゅっと出てきたら、楽しそう!」
好奇心に目を輝かせるかおちゃん。楽しくて楽しくて仕方ないといった風だ。
「俺は、皆に任せるわ」
最後に、カナのコメント。カナは何でも楽しめる性質だから、逆に「これ!」という事をそこまで推したりしない。
3Dを駆使した映画は皆興味深々みたいだ。僕も、これは行きたいし、候補にチェックと。
その後も、候補を僕が出して、皆の反応を見るという感じで、大まかな行き先に目星をつけていった。こういうのは、普段はカナがよくやってる事なんだけど、運転で手がふさがっているので仕方がない。
「これで、後は行くだけだね。ところで、かおちゃんはなんでこっちの成人式に?」
確か、地域的には、かおちゃんは隣の区だと思ったんだけど。もちろん、成人式にはそんな縛りがないので自由だとはいえ。
「やっぱり、昔からの友達に会えるかなって、ちょっと期待してた」
恥ずかしそうに、動機を告白するかおちゃん。その気持ちは僕もよくわかる。
「だよね。僕も、東京で成人式出ても、なんか違うって感じてたんだ。そこをカナが誘ってくれたってわけ」
「やっぱ、気心の知れた連中で行くのが一番やろ」
「いや、ほんと感謝してるよ。ありがとう」
「ユータに感謝されるとむず痒いんで、勘弁」
運転席からそんな声が飛んでくる。
「感謝くらい素直に受け取ってよ」
「そういう、ピュアなとこがこっ恥ずかしいんや」
「ああ、わかる、わかる。でも、ユータはこのままで居て欲しいわあ」
「ふふ。ゆーちゃん、全然変わってないんだね」
「まあ、いいことなんでね?」
マユにかおちゃん、こーちゃんまで同意するものだから、僕の方が恥ずかしくなってくる。
「ところで、ユータは両手に花の気分はどうや?」
「やっぱわかってたでしょ」
運転席のカナの顔は見えないけど、ミラー越しに睨みつける。
「私も興味あるわー。ユータはどうや?」
「いや、どうって言われても……」
反応に困る。どうしようかと考えていると、ガシっとハグされる。
「それで、どうや?」
見るからにからかう気まんまんという様子のマユ。体温も、胸の感触も、汗の香りも、何もかもが僕を刺激してくる。
「負けました。勘弁してください」
「ようやく、認めてくれて嬉しいわ」
「どうせわかってたんでしょ」
「拗ねない、拗ねない」
そんな事を言ってから、ようやくハグから解放されたのだった。ほんと、落ち着かない。
「まゆみんとゆーちゃん、仲良しなんだね。羨ましいな」
そんな様子を見ていたかおちゃんがぽつりとつぶやく。
「あ、あの。かおちゃん、勘違いせんといてな。私はからかってただけやで?」
「うん。わかってる。でも、羨ましいなって思っただけ」
純粋に、羨ましそうな、そんな物言いだった。
【ちょい、今日はからかうのやめとくな】
スマホを見ると、マユからのメッセージ。
【なんで?】
【かおちゃんを仲間外れにしてるみたいやろ?】
【ああ、たしかに。了解】
かおちゃんにばれないように、こそこそとやり取りをする僕たち。ただ、どうもそれだけとは思えなかったけど、考えても仕方ないことか。
そうして、昔話や近況に花を咲かせながら、僕らはUSJに向かったのだった。
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